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第二百十二話

第二百十二話です。

 馬車に揺られること二日。

 僕達を乗せた馬車は森を抜け、一面真っ青な湖が見える場所に出ていた。


「おー!」

「これほど大きな湖は初めて見るな」

「キュー!」


 湖のあまりの広さに感嘆とした声を漏らす僕と使い魔達。

 遥か遠くに対岸が見えるが、それでも海と見間違うほどに広い湖だ。

 馬車の往く先には、湖面に面した街があり、まるで山の斜面に沿う形で階段状に家が並んでいる。


「外国の港町って感じがするな」


 フィルゲン王国とはまた違ったオシャレな街並みだ。

 我ながらワクワクしながら街を眺めつつ、荷物をまとめる。


「あぁ、帰ってきちゃったよぉ」

「母さん、なんて言うかなぁ」


 一方でこっちの姉妹はまるで世界の終わりのような顔をしている。

 正直、朝からずっとこの調子なので、今はスルーしていいだろう。


「もうすぐ到着しますよー」

「はーい!」


 おじいさんの声に返事をする。

 馬車は街の外れあたりに留まるようだから、歩きながら街の様子を見ることができそうだ。

 リーファがニーアに黒い外套を差し出している。


「姉さん、はいこれ」

「私は被らなくてよくない?」

「私はともかく、勘繰られでもしたら嫌だし」

「うーん、たしかに。私も厄介事はごめんだしね」


 リーファは立場的に勇者なので、彼女もニーアと同じく頭の耳を隠すように外套を被る。

 そして、僕も従者なので顔を隠すべく覆面を被る。


「カイト」

「ん?」


 名前を呼ばれて振り返ると、むんずと頭を掴まれ覆面を脱がされてしまう。

 突然、リーファにマスクを奪われ憤慨する。


「な、何をする!」

「こっちの台詞だよ!? 私の故郷でなにをするつもりだったの!? というより、持ってきてたのこれ!?」

「わ、私も荷物にいれていることに気付かなかったぞ……」

「え、常に持ち歩いてたけど……」


 僕の言葉にリーファ達がドン引きする。

 懐に忍ばせて、正体を隠して戦わないといけない時にこれを被って動く。

 ちょっとした子供の頃の憧れを抱いての行動だが、どうにも理解されないようだ。


「リーファ、それすぐに燃やすべきだよ! きっと呪いのマスクだよ、それ! やばいよ、まともじゃないよ……!」

「……そうかもしれない」

「火は私に任せておけ」

「おっと、待ちなさい。まずは話し合おう」


 いつも味方であるはずのシフが、尻尾の先端に灯した火を覆面に近づけているのを目にしながら止める。

 説得の末になんとか焼却処分を免れたが、そもそもの装着自体を禁止されてしまった。


「そもそもカイトは、普通にしていれば地味目なんだから変装する必要ないでしょ」

「いざという時、輝くからな。僕は」

「姉さん、どうやったらカイトを凹ませられるかな……?」


 肉体強化で物理的に金色になるぞ。

 純魔フラッシュで目潰しもできるぞ。

 ———ハッ!? 純魔フラッシュで覆面を装着すれば、それっぽいのでは……!?


「……後で試してみるか」

「なんだか分からないが、悪寒がするのはなぜだろうか」


 膝の上にいるシフが身体を震わせる。

 そうしている間に目的地に到着したのか馬車が停止する。

 少しすると、おじいさんが馬車の扉を開けてくれる。


「到着しましたぞ。ここが港町“ジーグ二リア”だ」

「はい。じゃ、行こうか」

「うん」

「よーやくだよ……」


 おじいさんにお礼を言いながら馬車から降りる。

 馬車専用の駐車場ともいえる場所から見える湖の景色は、窓でみたものよりずっと壮観であった。

 ここがジーグ二リア、リーファとニーアの故郷か。


「変わってないなぁ」

「うん……」


 二人も思うところもあるようだ。

 とりあえず、馬車の方に積み込んでいた荷物を、おじいさんと一緒に出しながらこの街への滞在期間を確認する。


「僕達は一週間ほどここに滞在する予定ですが、貴方は一旦ヘンディル王国に帰るんですか?」

「いや、こっちはこっちで宿に泊まるんで、私のことは気にしなくても大丈夫さ。宿泊料も国が出してくれるしな」

「分かりました。帰りもよろしくお願いします」


 荷物を持ち直した僕達はおじいさんと別れ、建物が並んだ区画へと進む。


「おっと、その前に……」

「カイト、どうしたの?」


 肩にかけているバッグを開き、長方形の箱を取り出す。

 箱に凹みや破けた部分がないかを確認しつつ、それをいつでも取り出せるように準備しておく。


「な、なにそれ……」

「ヘンディルのお菓子」

「いや、なんで!?」


 なんでって言われても……。

 バッグを閉じ、荷物を担ぎなおした僕は首を傾げる。


「君達とは違って、僕はあくまでお邪魔する形で行くんだし、菓子折りくらいは必要かなって」

「君は常識的なのか非常識のどっちなの!? さっきの奇行から相反する行動はやめてくれないかな!?」


 すごい理不尽なことを言われてしまった。

 とりあえず菓子の入った箱は無事だったので、このまま進もう。

 白を基調としたヨーロッパ風の建物が並んだ通りには、それなりに多くの人がおり、中々に賑わっているように見える。

 魚が売っているのを見るあたり、漁業もさかんなのかな?


「……なんか、賑わってる」

「こんな人いたっけ?」


 道行く人を見たリーファとニーアは困惑したように、しきりに周囲を見回している。


「前は違かったの?」

「う、うん、少なくとも私が勇者として召喚される前までは……」


 リーファがいない間になにかしらの変化があったということだろう。

 しかし、この半年たらずでそんな町が盛況するとしたら……。

 そこまで思考して、露店に並ぶ品を見ると―――手作り感溢れる人形を見つける。

 他の店には、ある見出しが描かれた旗。

 これでもかとある人物をアピールされた物が、そこかしこに並んでいるのを見て、この町が盛況している理由に気付く。


「———なるほど」


 とりあえず、リーファ達から離れ露店に近づく。

 目当てのものを手に取り、会計を済ます。


「これ、ください」

「あら、お土産かしら?」

「はい」


 問題なく購入した僕は、立ち止まって僕を待っているリーファに買ったものを渡す。

 僕の突然の行動に首を傾げていたリーファだが、渡されたそれに気づくと、身体の動きを止める。


「……!?」


 リーファの手には、人形があった。

 それも、この町から出た勇者である彼女の姿を模した人形だ。


「カイト、わたし、おうち、かえる」

「安心しろ、もうすぐ君の家だ」

「こんな恥辱、耐えられないよぉ……」


 わなわなと首を横に振り、涙目になるリーファだが僕からしてみればそりゃそうだなと思う。

 だって、勇者の生まれ故郷なのだ。

 商売魂のある人なら、町の利益にしようとするだろう。


「……虫の良い奴ら」


 しかし、ニーアだけは瞳を鋭くさせて町の人々を睨みつけている。

 ……精神状態としては、リーファもニーアもどちらも危うい。

 とりあえず、早々にこの勇者お土産ゾーンを突破して、町はずれにあるという彼女たちの実家へと向かおう。



 町を進んで行く形で斜面を登っていくこと数十分。

 ようやく町を抜け、自然が溢れてきたところでその建物を見つけた。

 山道の先にある二階建ての一軒家。

 童話に出てくるような煙突のついた家を見た、リーファは懐かしそうに眼を細める。


「ここだけは、変わってない。行こ、カイト」

「ああ……」


 とりあえず菓子折りを準備し、家へと向かう。

 すると、家に到着するよりも先に扉から誰かが出てくる。


「———あら?」


 出てきたのは30代ほどの黒髪の女性。

 リーファとニーアと似た面影を感じさせる女性を目にしたリーファは、その場に荷物を落として走り出す。


「母さーん!」

「っ!? リーファっ!」


 手を振りながら走るリーファを見た女性も、走り出す。

 家族の感動の再会。

 ここは変に邪推せずに静かに状況を見守るべきだと判断した僕は、リーファが落とした荷物を拾い立ち止まる。


「少しは――」

「えっ」


 しかし、女性は一向に減速しない。

 それどころかさらに加速しながら、掲げた腕を鎌のように振り上げる。

 何かを察知し、その場を逃げ出そうとしたリーファに向かって―――、


「連絡くらい送りなさい!! このバカ娘!!」

「へばぁ!?」

「「ええええええ!?」」


 ―――とんでもない勢いのラリアットを食らわせた。

 草の生い茂った地面にびたーん! と叩きつけられたリーファは、白目を剥いたまま起き上がらない。


「あ、あのリーファが一撃で!?」

「失神してるぞ!?」


 唖然とする僕とシフ。

 ガチの恐怖に歪んだ顔でその場から逃げ出そうとするニーア。

 それを察知したのか、女性は驚くべき反応速度でどこからともなく取り出したロープを放り投げる。


「ニーア! 貴女は、よくここに帰ってきましたねぇ!!」

「い、いやぁぁぁ!?」


 カウボーイよろしく蛇のようにうねったロープは逃げようとしたニーアに纏わりつき、カツオの一本釣りのように女性に引き寄せられる。


「わ、わたしは、べつじんだよ?」

「小さくなっても母には分かります! さあ、尻を出しなさい!! お仕置きです!!」

「ちょ、や、やめて、カイト君もいるから、ちょっ!? ぁ―――」


 さすがにまずいのですぐに後ろを向く。

 予想を超えた力強い人が出てきたなぁ、と思いながらニーアの尊厳にかかわるので、すぐに両手で耳を塞ごうとすると―――、


「うん? 貴方は?」


 ―――それよりも先に背後から声がかかる。

 後ろでニーアが地面に落とされる音を聞きながら振り返ると、手を伸ばせば届くほどの距離に女性が立っていた。

 音もなく背後に立っている彼女に、僕と使い魔達は恐怖に身体を震わせる。


「ひぇ……」

「はじめまして。貴方はこの娘たちの付き添いですか?」


 返答を誤れば死。

 そう直感しながらもバックから菓子折りを取り出し、それを差し出す。


「はじめまして、自分は娘さんの従者をやらせていただいております! アリハラ・カイトと申します!! つまらないものですが! どうぞ!!」

「あら、これはどうもご丁寧に。私は、シーナ・ウルガルと申します。もう、お分かりでしょうが、リーファとニーアの母です」


 極度の緊張状態に晒されながらも、僕が差し出した菓子折りは受け取ってもらえる。

 本当はちゃんとした作法があるらしいが、この状況で四の五の言ってられない。

 なにより、後ろで未だに気絶しているリーファと、泣いているニーアが見える時点で恐ろしすぎる。


「……ふむふむ」

「な、なにか?」


 じろり、と観察されるように見られる。


「どこに出しても恥ずかしい娘が、こんないい人を連れて来てくれるなんて……」

「はぁ……」

「……騙されたりしてませんよね?」


 娘への信用なしかい。

 やや引いてる僕を見て、にっこりと笑みを浮かべたシーナさんは手慣れた様子でリーファとニーアを担ぐ。


「さあ、中へどうぞ。カイト君」

「……はい」


 上機嫌に僕を家に招き入れるシーナさんに頷くことしかできない。

 ここに来て、僕はようやくリーファとニーアがあれほど口にしていた“母親”の恐ろしさを知ることになった。

母は強し……。

このお転婆すぎる姉妹の母親なら、このくらいの強さでいいかな……。


土日の更新はお休みなので、次の更新は月曜となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「リーファ、それすぐに燃やすべきだよ! きっと呪いのマスクだよ、それ! やばいよ、まともじゃないよ……!」 ふーん…こんな(↓)感じ? https://encrypted-tbn0.gs…
[一言] >このお転婆すぎる姉妹の母親なら、このくらいの強さでいいかな……。 いいと思います
[一言] 〉―――とんでもない勢いのラリアットを食らわせた。 〉カウボーイよろしく蛇のようにうねったロープは逃げようとしたニーア纏わりつき、カツオの一本釣りのように女性に引き寄せられる。 〉後ろでニー…
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