第二百十一話
第二百十一話です。
ジェシカ様に許可をもらおうとしたところ、思いのほかあっさりと許可が下りてしまった。
やはりリオンさんが話を通してくれたのだろうか、都市の外に出てはいけないという言いつけも例外的に許可してくれた。
リーファの実家に向かう際に誰かしら護衛としてつけてくるのかと思っていたけど、どうやらそれもないらしい。
『リオン様は、貴方達だけで向かうべきと言っていたわ。こちらとしては心配だけど、神獣の言葉に従わないのは逆に騒動を引き起こしかねないから従うしかないわ』
そう口にしたジェシカ様はどこか疲れたような表情をしていた。
出会い頭にニーアとメンチきり合っていたとは思えない変わりようだったが、それほど神獣に注意していることだろう。
僕自身フィリがいてくれるので安心している部分もあるけど、あの子に頼ってばかりはいられない。
自分の身は自分で守らなければならない。
「よし、じゃあ出発の準備はできてるかな」
「私は大丈夫」
「私も元から荷物少ないし」
リーファの実家のある町までの馬車は、ジェシカ様が用意してくださった。
セントレアルの時のような仰々しいものではなく、あまり目立たないタイプの馬車なので、注目を集める心配もない。
当然、馬車を引いてくれるのは魔馬だ。
普通の馬だと、僕が箱に乗せられて引きずられながら向かうことになる。
「今回は、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。勇者様と従者様をお連れできるなんて、責任重大ですなぁ」
「ははは」
魔馬を引いてくれる老人に挨拶しつつ、馬車に乗り込む。
落ち着いた雰囲気のする馬車の内装に、少しだけ安堵しながら肩にかけた荷物を下ろす。
「よし、リオンさんはいないな」
「むう、疑いすぎでは?」
「あの人なら、いてもおかしくない」
「……確かに」
いつの間にか馬車を引く人と入れ替わっていてもおかしくない。
例え、既にヘンディル王国を出ていったとしてもだ。
「まあ、どこかしらから見ているのは確実なんだろうけど」
見られるのは、今更なのでどうでもいい。
とりあえず、ここからは二日ほどかけてリーファの実家のある街に向かうのでゆっくりと気長に待とう。
「……そういえば、君達の実家のある町ってどういうところなの?」
「そこそこ賑わってた気がする。湖に隣接した港町でね―――」
「湖、だと……?」
「カイト君、顔が凄いことになってるけど、大丈夫?」
それは良いことを訊いた。
とりあえず何が釣れるか情報収集してから釣りに向かうか。
「でも、私達は避けられてたからあまりいい思い出はないかな」
「あ……そうか、ごめん」
リーファは獣人ではなく、魔物の力が混ざった人間。
町の誰かに心無い言葉を言われていてもおかしくない。
それに、ニーアも魔王軍に入る前に町の人を酷い目に合わせたって言うし。
「いいの。姉さんも、今はこんな姿になってるからバレないだろうし」
「頭を突かないでくれるかな」
つんつん、と隣に座るニーアの頭を小突くリーファ。
カバンを抱えるように持っているニーアは彼女にジト目を向けながら、僕を見る。
「……私は後悔してない」
「人を傷つけたことをか?」
「私は、やられた仕返しをしただけ。石を投げられて、悪口を言われて我慢できるほど私は穏やかな人間じゃない」
「……僕はそのことで、とやかくいうつもりはないよ」
なんとなくだが、そうするだけの理由があったのだろう。
当時のニーアの琴線に触れた決定的なことを、町の人はしてしまったのかもしれない。
でも悪いことをしたことには変わりない。
「だが、君の母親は何ていうかな?」
「ぐっ、い、痛いところを突いてくるね……」
二人の話からしたら、母親は普通の常識を持ち合わせた強い人なのは分かる。
ニーアもそれを分かっているのが苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
「ついでにリーファも怒られると思う」
「なぜに!?」
「君、ほとんど連絡してないだろ」
「……は!? あ、あぁぁぁ……!?」
僕の指摘に絶望の表情を浮かべるリーファ。
というより、なんでしてないの?
普通、定期的に近況とか家族に伝えると思うんだけど。
「リーファも私と一緒に怒られるんだね!」
「このっ」
「なっ、やんのか! この駄妹が!」
突然姉妹喧嘩を始める二人。
暴れすぎると魔馬にも、引いているおじいさんにも迷惑がかかるので止めておく。
「二人とも、喧嘩はやめろ」
「大体姉さんは、性格が悪すぎるんだ!」
「そういうリーファだって―――」
声をかけても一向に喧嘩をやめない二人。
その様子にため息を吐きながら、手袋を嵌める。
「シフ、電撃ビリビリショック」
「うむ」
「「あばばば!?」」
指先から弱めの電撃を放ち、二人を痺れさせる。
正座のしびれを再現する恐るべき電撃が襲いかかる。
椅子の上に倒れた二人が静かになったことを確認すると、不意に前の窓が開かれおじいさんが顔を出してくる。
「なんかあったのかー?」
「いえ、なんでもありませんよ! お気になさらずに!」
「そうかい? あまり騒がんようにな。うちの魔馬も疲れちまうからよ」
「了解しました!」
僕の頷きに、おじいさんは窓を閉めて前を向いてくれる。
さすがに魔馬に負担をかけてしまうわけにはいかないな。
……次の休憩時は、僕の魔力をあげようか。
「ということだ。あまり暴れないようにね」
「あい……」
「やっぱ、その技えぐすぎだよ……」
すぐにしびれが解けた二人が起き上がる。
「そういえばさ、リーファとニーアの力ってさ神獣からもたらされたものなんだよね?」
「うん。私が影で、姉さんは冷気らしい」
リオンさんから明かされたことではあるが、リーファの特異な能力は神獣の物だと知って驚きはしたが、どこか納得している自分もいた。
明らかに能力に幅がありすぎるからだ。
「元々は一つの能力だったんだろうね。影と冷気で、闇って感じかな?」
「闇、か」
「太陽の光すらも射さない暗黒。温かさもなく、冷たさの支配する世界を統べる闇の獣―――私とリーファの力の源は、そういう神獣なんだと思うよ」
「なんか、すっごい悪いイメージが付きまとうんだけど」
闇の獣と言われたらなぁ。
普通に怖いと思ってしまう。
「まあ、到着してみないことには分からないか」
「うむ。確かにな、目的地まではゆっくりと身体を休めよう」
シフの言葉に頷き、馬車の壁に背中を預ける。
今の時点では、何が起こるか、見つかるかも分からない。
しかし神獣の部分を引いたとしても、純粋にリーファとニーアの里帰りという目的もあるので、そっちの方も忘れないようにしよう。
……まあ、そっちに関しては僕はほぼ蚊帳の外だろうけどね。
実家編(?)開始ですね。




