第二百九話 日記
前回に引き続き、日記回となります。
五日目
今日もすごい疲れた。
なにが疲れたって、子供たちの反応にだ。
ヘンディル王国の商売魂は凄じいものがあるらしく、いつの間にかカイトとリーファの被っているマスクが市販されていた。
リーファはともかく、カイトのマスクはまともとは思えないんだけど。
そんなことを呟いたら、いつの間にか隣にいたスノウとかいう女に掴みかかられたのは割と恐怖だった。
というより、よく見れば昨日会ったセラもいた。
手には覆面のようなものが握られ、カイト君達の元に飛び出そうとしているところを背後からリック・ケーシングに鞘で殴られ、どこかへ連れていかれた。
こいつら金の冒険者っていうけど、明らかに他の国の奴と比べて変態なんだけど。
理不尽なのが、こいつらリックと同等の実力を備えているところだ。
私が元の姿のままなら戦いたいと思っていたけど、それ以外で関わるのは絶対に御免だ。
掃除の方は、なぜか順調に進んでしまっている。
結構大きい公園のはずなのに、順調に進んでしまっている。
しかも、カイトとリーファの掃除する動きがどんどん研ぎ澄まされていっている。
訳が分からない。
六日目
なんであんたがここに来てんだよぉ!?
帰って大人しく仕事してろ!!
バレバレなんだよォ!?
これ以上、私に心労をかけさせないでよぉ!!
七日目
今日も人ごみに紛れて、怪しい変装をした女の人が見に来ていました。
なので、この国を想う親切な私は、事件を未然に防ぐために誰かを探しに来た城の人に、その女性のことを教えてあげました。
ざまーみろ!
去り際の、あっかんべーを見たお前はどんな気持ちだったかよぉ!
てか、仕事しろ!
あんた女王だろ!!
鬱憤も晴れたことだし、報告する。
今日はカイト君が新たな技を編み出していた。
それは、ユランの作り出した魔力の壁のようなものを足場にして、宙を跳ぶようになったことだ。
足場を作れる時間も短く、数も数個ずつしか出せないようだけど、それでもハクロの風を合わせて空を跳ねながら、道に飛び出した木の枝を切り裂く彼の姿に子供たちは大喜び。
使い魔の数だけ、戦略があるってのは強みなんだと思わされる。
いや、自分から率先して戦うカイト君が、おかしいだけだとおもうけれど。
今日もカイト君があまくるみを買ってくれた。
なんだかんだで、帰りに買ってくれるのでいつもの楽しみになりつつある。
何より、純魔の魔力を持つ彼の傍は心が安らぐ。
リーファが彼の傍にいるのも分かる。
八日目
気づけばカイトとリーファは「仮面主従」と呼ばれることになった。
……修羅場主従よりもっといかがわしい呼ばれ方になっているんじゃないかなこれ……?
ドロドロ感、増しちゃったんだけど……!
いや、間違っていないんだけど。
たしかに仮面被っているおかしな主従ではあるけれど……!
いくらなんでも仮面主従は、可哀そうだと思う……!
知らぬは本人達ばかりだ。
チサトあたりは、羨ましいとか頭のおかしいことを言うんだろうな。
いや、絶対言うでしょ。
あの子、どっかのネジ外れてるし。
とりあえず、明日でようやく依頼は終わる。
約一週間の依頼だけど、とてつもなく長く感じちゃったよ……。
でも私個人の感想としては悪くなかった、と思う。
別に人の役に立てて嬉しいとかそういうのじゃなくて、なんだかんだで楽しかった。
こんな子供の身体にされている状況は未だに納得できないけれど、リーファやカイト君達のいる日常もそれほど悪くはないかな。
●
九日目になって、ようやく依頼が終わった。
最後はあっけないもので磨いた石垣に水をかけて仕上げ。
集まった人たちも喜んでいたが、これがヘンディル仮面の最後の仕事と知り残念そうな様子だった。
本当にどういう訳か分からないけど、ヘンディル仮面というバカみたいな見た目のキャラクターは街の人々に受け入れられていたようだ。
「……」
「……」
最後までヘンディル仮面としての役目を全うしたカイトとリーファだが、そんな二人は今宿のテーブルにて、深刻な表情のまま向かい合っていた。
カイトは組んだ手を額に抑え、目の前に座っているリーファに話しかける。
「どうして、仮面主従なんだ」
「こっちが聞きたいよ……まるで、私達仲が悪いみたいじゃん」
今更になって自分たちの新たな異名を知り、二人は頭を抱えているのだ。
そんな二人に、私は台所から声をかける。
「そうなって当然だと思うよ」
「「うぐぅ」」
鋭くツッコむ私にカイト君とリーファはそのままテーブルへと崩れ落ちる。
皿洗いをしながら、台所から彼らの姿を確認すると、ガタン、と立ち上がったリーファがカイト君に指を突きつける。
「大体、カイトがあんな恰好したのが悪い!」
「後悔はない」
「いや、おぬしは後悔してくれ。なぜそうも誇らしげなのだ」
やけにキリッとした声で返すカイト君に、シフが頭を抱える。
本当にヘンディル仮面についての件では一切後悔していないのが、ある意味すごい。
「リーファ、君は子供達に夢を与えたんだ。それでいいじゃないか」
「え、でも……」
「ただの異名程度、僕達のこれまでが変わるはずない。そうだろう?」
「……うん」
我が妹ながらチョロすぎではないかな?
いや、カイト君の表情からして、全くそういう意図がないのは分かっているけども。
一瞬で大人しくなったリーファに彼は続けて言葉を発する。
「だから、またヘンディル仮面になって帰ってこよう」
「それは嫌だよ……?」
「心配するな。次はニーアも参加させる」
「なんでそこで私に飛び火するの!?」
他人事のように話を聞いていたら、突然不意打ちを食らったんだけど!
皿洗いを終わらせながら、カイト君へと詰め寄る。
「安心してくれ。その時だけ君を元の姿に戻す」
「いや、なんで!?」
「え、だって変身ヒーローっぽいし……」
「意味が分からないよぉ!」
たしかに元の身体に戻りたいけど、そんなタイミングで戻りたくないよ!?
なんとかカイト君を説得すると、彼は残念そうに頷いてくれる。
前まで魔王軍幹部だった私が、あんなことをするとか悪夢すぎる。
イリスだったら、絶対嘲笑っていることだろう。
「ニーアはどうだった?」
「え? なにが?」
「今回の依頼」
疲れたように椅子に座った私にカイト君がそんなことを訊いてくる。
依頼、か。
少なくとも、魔王軍に入ってから人のためになることをするのは初めてのことだった。
今日はたくさんの人達に感謝された。
正直、そんな経験は初めてだったし、それほど悪い気持ちではなかった。
「……」
私とリーファは、人間のはずなのに獣人のような外見をしているから、それを不気味がった村の奴らから心無い言葉を浴びせられたりしていた。
だから、お礼を言われるのは私にとって不思議な気分だった。
「分かんない」
「……そっか、今はその答えでいいと思う」
曖昧な答えを返す私に、彼は穏やかに微笑んだ。
「君は最初、いきなり僕を攫い勝負をふっかけてきた」
「うん」
「ハクロを無理やり隷属し、苦しめた」
「う、うん」
「喉を蹴られたり、氷をぶつけたりもしてくれた」
「ご、ごめんなさい……」
「あれは本当に痛かった。今でも根に持ってる」
あ、あれ? 責められてる?
流れ的にいい話で終わると思ったのに?
「これまで君がしてきたことは変えられないけど、これからは違う。心持ち次第で、君はいい人間になれる」
「……今更だよ」
「この一週間、君は一日も休まず依頼に参加することができたじゃないか。切っ掛けさえ掴めれば十分だよ」
いい人間、か。
魔王軍幹部として働いてきたのに、そんな虫のいい話があるのだろうか。
……いや、少なくともカイト君はそう思っているのだろう。
「……とりあえず、頑張ってみるよ」
「ああ、そうするといい。僕達もできる限り手伝うから」
なんだかんだで私も絆されているんだなと自覚してしまう。
でも、今はそれも悪くないと思えてしまう時点で私も変わってきているということなんだろう。
「……なら、ヘンディル仮面3号か」
「いや、やらないからね!?」
まだそれ諦めてなかったの!?
依頼を受けるのはいいけど、覆面を被るのは絶対に嫌だからね!?
新たな異名“仮面主従”を獲得しました。
シンプルだからこそ酷い……(笑)




