第二百八話
第二百八話です。
今回はニーア視点となります。
「まったく、そういう勝手なことはしないでほしいわね、カイト。リーファと同じで貴方がどれだけの影響力があるか理解していないのかしら?」
ヘンディル王国の城に呼び出されたカイト君とリーファと私。
そりゃ、街中で不審者みたいな恰好されたら呼び出されるよね、とリーファと納得しながらジェシカのいる広間に通されると、彼女は顔を会わせるなり難しい表情でそう言い放った。
「……すみません」
落ち込んだ様子のカイト君。
よし、これで明日から普通の掃除ができると思わず安堵していると、立ち上がったジェシカが落ち込むカイト君の肩に手を置き、凛々しい笑みを見せた。
「まったく、そういう面白いことをするなら私に話を通しなさい」
「ジェ、ジェシカ様……!」
「どんどんやりなさい。この私が許可したのだから、誰にも文句は言わせないわ」
感激した様子のカイトにライムにユラン。
その一方で、唖然とした様子のシフを慰めるように、ハクロがぽんぽんと背中を叩いている。
「これを機に、国民によりヒロイックな印象を与えて、勇者文化をさらに発展させるのよ……! いいじゃない、ヘンディル仮面……! 子供人気から保護者人気もドンッ! 街の環境に貢献していることも合わせて一般からの好感度もドンッ! 勇者が動きやすい環境も作れるし、いいことづくめじゃないの……!』
何言ってんだこの女王……。
高笑いしながらそう口にしているジェシカにドン引きしていると、リーファが戸惑いながらも彼女に声をかける。
「え、本気なの? ジェシカ様」
「リーファ、チャンスってのはどこからやってくるのか分からないのよ。流行もそう、今は魔王軍という脅威が蔓延っている今、勇者という“希望”が人々の心を守っているの」
「う、うん?」
「人々はね、誰しもが心の支えになってくれる存在を求めている。もしかしたら、今日のアレがそうなるかもしれない」
「ジェシカ様、頭大丈夫?」
真剣な表情で語り掛けるジェシカに、リーファも冷めた目を向ける。
そんな反応に微笑を零したジェシカは続けて言葉を発する。
「だから、貴女もやってね?」
「嫌、絶対に嫌」
「……私は女王よ?」
「ジェシカ様、私は権力には屈しないよ?」
「ええ、貴女のことはよく知っているわ、だから―――」
ジェシカはリーファに満面の笑みを向ける。
「見返りは、最高級の霜降り肉でいいかしら? 竜牛という特別なドラゴンの肉なんだけ―――」
「カイト、私はヘンディル仮面一号でいい?」
「「リーファぁ!?」」
思わずシフと声が重なる。
我が妹ながら食い意地張りすぎじゃないかな!? お肉で釣られるとか、人間としての理性はないの!?
私なら絶対に断るよ!?
「姉さん、ジェシカ様は肉と言った。肉と言ったんだよ」
「いや、お肉で釣られてどうするのさ!?」
「そうだぞ、よく考えろ! 肉は魅力的だがおぬしまでそっちにいったら、もう大変だぞ!」
私とシフの訴えにリーファは妙に悟った表情で振り返る。
「調理されたものじゃない最高級の肉が、メルクさんの手によって調理されて私達の前に出てくるんだよ?」
あの人に化けた神獣、メルク。
彼女の手によって調理された料理……い、いや、それを含めても妹があんな覆面被るのは姉としても止めなくてはならない。
シフも止めてくれるし、と思いながら足元にいるシフに目を向けると、彼は私から気まずそうに視線を逸らす。
「え、シフ?」
「……すまぬ」
君もお肉の魔力に魅入られたか……!
たった今、この瞬間で私の味方はいなくなってしまった。
もうどうしたらいいか分からなくなっていると、ジェシカは次に私に話しかけてくる。
「あ、ニーア、近くにいる貴女がカイトとリーファのことを報告書……いえ、日記としてまとめてくれないかしら?」
「え、嫌だよ。なんで私が。報告書なんて部下に書かせればいいじゃん」
「面白いから」
「ねぇ、張り倒していい!?」
カイト達のことが知りたいとかじゃなくて面白いからってどういうことだ。
割と本気で目の前の女王を張り倒したい気持ちになっている。
「私は女王よ?」
「だからなに……?」
「……」
「無言で微笑まないでよ!? 怖いよ!? 分かったから、にじり寄ってこないで!」
ヘンディル王国の女王は頭がおかしいよ……!?
日々のストレスを発散するように変装しながらの依頼に熱中するカイトの滅茶苦茶さに疲れ果てているのに、どうして私がカイト達の日記という名の報告書を書かなきゃならないの!?
「できればリーファが羞恥に悶えているところを鮮明に描写してくれると助かるわ」
「私、姉なんだけど?」
「……絵日記でもいいのよ?」
「一つも譲歩してないよね……!?」
やっぱこの女王どこか歪んでるよぉ。……!
なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのさ……。
●
報告。
二日目。
口の部分が空けられた炎のような形に縁どられた虎の仮面を被ったリーファが、“ヘンディル仮面一号”が加わってしまった。
マスクはジェシカが発注し、一夜で制作してもらったらしい。
女王って暇なのかな?
カイトの覆面も用意されたが彼は最初にもらったマスクの方がいいらしく、リーファと近いデザインで顔全体を覆う赤い虎のマスクを拒んでしまった。
私としては新しい方が普通にかっこいいと思ったのだけど、やっぱり彼のセンスはダ――どこかズレているようだ。
今日一日は、リーファは恥ずかしがりながら作業をしていた。
逆になんでカイト君は平気な顔してあんな変な恰好できるのだろうか。
私はなぜか子供達に近所の子と勘違いされて、仲間に引き込まれそうになった。
しかもリーファの妹扱いされているし、もう散々だ。
……なんだか昨日よりも子供達の人数増えている気がする。
帰りに食べたあまくるみが美味しかった。
三日目
一日経ったらリーファも慣れたのか、マスクをつけていてもそんな恥ずかしがらなくなった。
それどころか、カイトと同じように魔法を使って掃除をするようになっていた。
二体ほど影の分身を作り出し自分の手伝いをさせながら、カイトが風で舞い上げ、一点に集めた木の葉を影で呑み込み一瞬にして消すコンビネーションもやってみせた。
こんな世界一無駄な動きをする掃除ある?
普通に掃けばいいと思うんだけど。
なんでわざわざ電撃エフェクトで箒掃くたびにバチバチしてんの?
というより、もう隠すつもりないよねぇ!?
周りの人達大喜びだよチクショウ!!
四日目
今日は依頼から戻ってきたライラとその仲間達が手伝いにきてくれた、が彼女はカイトとリーファを見て物凄く引いていた。
当然の反応だと思う。
むしろ、どうして大多数の人がこんな反応をしないのか疑問だ。
偶然、近くを通りかかったメルクはカイトとリーファのマスクを見て露骨に嫌そうな顔をすると、関わりたくないとばかりにその場を離れていってしまった。
当のカイトとリーファはさらに動きにキレが増していく。
これ、むしろカイトの狂気に引っ張られているだけなんじゃないのってくらいに、リーファのノリが良くなる。
それに合わせて、なぜか公園掃除を手伝いにやってくる人たちも増えていく。
そういえば、帰り際にセラっていうカイトと同じテイマーがやってきていた。
彼女の肩に乗っていた炎の鳥の魔物は、すごく強そうだった。
なぜか出会い頭に勢いよく頭を突かれて、翼でビンタされたけれども。
カイトにはものすごく懐いた様子を見せており、それを見たセラはショックのあまり頬を赤くさせて悶えていた。
……ヘンディル王国ってやばい奴しかいないのでは?
不意打ち日記回でした。
次回に続きます。
土日の更新はお休みなので、次回の更新は月曜となります。




