第二百七話
第二百七話
ヘンディル王国の街中に出没した覆面姿の不審者。
ヘンディル王国の紋章が刺繍された覆面を被り、その上にさらに黒色の帽子を被った黒コートの男―――カイトは、声をかける前に俺達の接近に気付くと、身体をこちらに向けた。
「リックさん! スノウさん! お久しぶりです!!」
「おう、久しぶり。まずその恰好はなんだ」
「勿論、変装のためです」
なにが勿論なの?
変装するのは百歩譲って理解できるがどうしてそうなった。
もっといいやつがあっただろ。
覆面も口とか目の部分に穴が空いているタイプじゃないから、かなり不気味だ。
「……おいシフ、お前さんは止めなかったのか」
「止めたのだが、止められなかったのだ」
覆面の上の帽子に変身しているシフが諦めたようにそう口にする。
こいつは、金の冒険者としてはまともな方だが、セラと似た厄介な一面があるからな。
今回はそれが暴走しちまった感じか。
「実は視界が狭まれているので、遠くはあまり見えないんですよ。気配でなんとなく周りに人がたくさんいるのは分かりますけど」
「気にならねぇのか?」
「観光地の近くですから、人が多いのも当然かなって」
いや、違うから。
明らかにお前を見に集まってきているようなもんだぞ。
「でも、気配が鋭くなる感じがするのでいい訓練にもなりますね!」
「バカと天才は紙一重ってやつか……」
明らかに訓練方法を間違えすぎだろ。
そもそもどっからそんな愛国心溢れる覆面見つけてきたんだよ。
「仮面なんて被る必要ないだろ」
「ただでさえ修羅場主従と呼ばれているんです。これ以上、変な異名がつかないように変装しなくては……!」
「思いっきりから回っているぞ……」
ぎゅっと両手で握りこぶしを作るカイトに、頬を引くつかせる。
すると、俺の隣で無言でカイトを見上げていたスノウがようやく口を開く。
「ヘンディル仮面」
「僕のことですか?」
「うん」
「……ふむ」
「カイト、やめろ。お願いだから悩む素振りを見せるでない……!」
スノウのせいでまた厄介な状況になりつつある。
その時、カイトの元に、水の入ったバケツを持ったフードを被った少女と白髪の獣人の子供がやってくる。
「カイトー、水運んできたよー」
「きたよー」
「今から僕はヘンディル仮面と呼んでくれ」
表情は覆面で分からないが自身を指さし、ドヤ顔を晒してるであろうカイトに子供の方は「ヘンディル仮面!?」と大きく反応しているが、フードの少女―――リーファは薄い反応を返す。
「分かった。じゃあ、カイト、石垣から先に洗おっか」
「ヘンディル!」
「それ掛け声なの!?」
またもや大きな反応を返す子供。
……そのガキにどっかで見たことがあるような気がしていると、リーファはようやく俺とスノウに気付く。
「あ、リックさん、スノウさん」
「おっす」
「おう、暇だったもんで尋ねたんだが……カイトを止めなくていいのか?」
無表情の割にフランクな様子で片手を上げるスノウ。
俺も挨拶しながら、さらりと視線をカイトの方へ向けると、見た目の割にすごく真面目に石垣の落書きや汚れをブラシでこすっているカイトの姿がある。
大人達以外に、遠巻きに子供が伺っている当たり、興味の対象になっているようだ。
「いや、カイトが楽しそうにしているから見守ろうかなって」
「すっげぇ、疲れた顔してんなお前」
心労かけすぎて逆に穏やかな顔になっちゃってるじゃん。
最早、悟っているとすら思える。
「普段、カイトに迷惑かけてるからこんな時くらいはちゃんとしようって。よく考えたら普通に掃除できてるし、もうこれでもいいかなって」
「いや、多分、あれ変装ほとんど意味ねぇぞ」
もう一度カイトに視線を向けると、掌に浮かべた蛇―――ユランの力で作った魔力の足場の上で、オオカミの力で巻き上げた水を石垣に叩きつけながら、ブラシでこすっている。
本人的には問題はないと思っているが、使い魔からして分かる奴が見ればすぐにカイトだって分かる。
「皆! ここに落書きしちゃいけないぞ! 公園は綺麗に使ってこそ、皆の場所だ!」
『はーい!』
「いい返事だね!」
そしていつの間にか遠くから伺っていた子供たちが集まってきてやがる。
魔力の足場の上で子供達に、そう言葉にしているカイトを見て、もう呆然とするしかねぇ。
保護者達、皆ニッコニコなんだけど。
普通、近づかせようとしないはずだろ。
『従者さんは茶目っ気のある方ねぇ』
『こっちにもお掃除に来てくれるなんてねぇ』
案の定、速攻で見破られてる。
そりゃ、見た目はアレでも中身がすぐに分かれば安心だよな……。
「せーのっ! ヘンディル!」
『ヘンディルー!』
カイトに合わせて手を挙げ、そう叫ぶ子供達。
「おい、もう定着してるぞ」
「私っ、私が名付け親っ!」
「諸悪の根源だよ、バカ野郎」
ぺしり、とスノウの頭を小突きながら頭を抱えるしかない。
気軽な気持ちでここに来たのに、なんだかとんでもねぇ時に来ちまったかもしれない。
「はぁぁ、もう大変だよ、もう」
「ん?」
箒を肩に担いだまま溜め息をつく獣人の子供。
———やはり、どこかで見覚えがある。
白い髪に獣人特有の耳に、リーファと行動している。
「お前、まさかニーアとかいう魔王軍幹部か?」
「げ……」
俺の言葉に露骨に嫌そうな顔をする子供。
普通の子供なら、こんな反応はしない。
「あ、リックさんなら分かっちゃうか」
「どういうことだ? どうして、ここにこいつがいる?」
「事情があって、小さくなっちゃったの。ちょっと事情があって、預かっているんだ」
「……そういうことか」
セントレアルに魔王軍が襲撃したっていう話は聞いたが、その時にニーアはカイトとリーファに取っ捕まった感じか。
どうやって小さくなったかは知らんが、今は害はなさそうだ。
「ハッハッハ、あのクソ生意気そうな奴が今はこんなチビだとはな」
「リック・ケーシングゥ……! 元の身体に戻ったらぎったんぎったんにしてやるからなぁ……!」
「やれるもんならやってみろ。チビ」
「ぐぬぅ……!」
悔しそうにするニーアを嘲笑っていると、カイトの方を見に行っていたスノウが戻ってくる。
……あまり長居すると、邪魔しちまうか。
そう判断した俺は、スノウに話しかける。
「そろそろ戻るぞ」
「次はニトを連れてくる」
「バカやめろ。ただでさえ、デフォルトで不機嫌なやつがもっと不機嫌になるだろうが」
「じゃあ、セラ」
「もっとやめろ!」
セラとか問題しかないやべぇ奴じゃねぇか。
あいつの場合、どこからともなく覆面とってきてカイトと同じことしてもおかしくないぞ。
スノウの言葉を却下しながら、俺達はリーファとカイトに断りをいれてからその場を離れる。
なんだかドッと疲れたな。
金の冒険者の依頼を受けるより疲れたかもしれん。
後に聞いた話だが俺達がその場を離れて少しした後、カイト達は城に呼び出されたらしい。
そりゃあ、勇者はともかく従者がおかしな行動をしていたら呼び出されるだろうと、呆れていた俺だったが―――、
「さて、昨日の続きだ!」
「誰か止めて……」
―――その翌日には、カイト以外にもう一人覆面が増えていた。
黄昏たようにしている覆面を被った少女と、気の毒そうに彼女を見ているニーアを見て、勇者も大変なんだなぁ、と心底同情しながら気付かれないようにその場を離れるのであった。
ジェシカ「なにこれ面白すぎるわ。もっとやっていいわよ」




