第二百五話
第二百五話です。
リオンさんから次に向かう場所はリーファの実家と伝えられはしたが、すぐには向かうことができない。
まだセントレアルから帰ってきて三日しか経っていないし、まだジェシカ様から正式な許可をいただいていないからだ。
……まあ、リオンさんのことだからちゃんと許可をもらえるように説得してもらっているはずだけど、とりあえず普通の冒険者としての日常を送りたいと思った。
「ということで、ニーアは僕達と一緒に街のボランティアに参加してもらおうかな」
「え?」
皿洗いをしているニーアの隣で、皿を拭きながら僕は笑顔でそんなことを言い放つ。
夕食後、食事に使った食器を片付ける彼女を見て、手伝うことにしたが
「え、ぼらんてぃあ?」
「ニーア、善行を積もう。社会科見学だ。悪いことした分良いことをしよう」
「待って、捲し立てないで!? 普通に手伝ってくれて嬉しかったのに、さらに私に苦難を課そうっていうの!?」
ここに来て何度見たか分からない曇り顔を浮かべながらも、お皿を洗う手は止めないニーア。
そんな彼女の手元から、銀色の触手を伸ばしたライムがお皿を受け取り、僕に渡してくれる。
「ありがとう、ライム」
「キュ、キュー!」
手に持った綺麗な布巾で水滴を拭う。
ユランも口に布巾を加えながら、尻尾で器用にお皿を支えながら僕と同じようにお皿を拭いてくれている。
「よし、ハクロ。シフ」
「うむ」
「ウォン」
黒い手袋をはめ、水滴を拭い並べたお皿に掌を向ける。
薄っすらと炎を纏わせた掌から、風が吹きお皿を乾かしていく。
「……よし」
お皿が完全に乾いたことを確認すると、ニーアがジト目で僕を見上げていることに気付く。
「もう、君だけでいいんじゃないかな」
「違うぞ。君がやることに意味があるんだ」
「そうかなぁ。こき使われてるだけなんだけど……」
嫌々手伝わされているようには見えるが、なんだかんだでしっかりとやってくれていると思う。
乾かした食器を棚に戻した僕は、彼女に振り返る。
「はい、これでおしまい。よくできました」
「えへへー、って違うよ!? 危うく誤魔化されるところだった!!」
肉体に精神が引っ張られているのか、子供っぽい反応をしてしまうニーア。
こっちが意図しなくても面白い反応が帰ってくるなぁ、と思いながらニーアと共に食堂へと入る。
食堂の席には、ライラとリーファが座っており、談笑しているようだ。
「へぇ、ギルドからの依頼って結構あるんだね」
「うん。私も受けるの初めてだから、ちょっと期待してる」
どうやらちょうどギルドの依頼について話しているようだ。
今日、もらってきた依頼書の写しも見ているようだし、僕達も会話に混ざろうか。
「終わったよ」
「お疲れー」
「終わった」
「もっと働け」
「姉を労えよ!?」
痛烈なツッコミをしながらライラの隣に座るニーア。
僕も空いた席に座りながら、依頼書の写しを手に取る。
「とりあえず、ギルドからの依頼について説明するよ? 普通はギルドの冒険者になるには15歳以上が条件で、普通の依頼を受けられるのも冒険者だけに限定されるんだ」
「な、なら私は駄目じゃん」
ぱぁぁ、と顔を明るくさせるニーアに笑顔で首を横に振る。
「このギルドから募集される依頼はちょっと特殊でね。依頼主がギルドそのものだから、依頼の制限がちょっと緩いんだ」
その代わり報酬も少ないし、その割に依頼内容が中々にハードなものとなっている。
以前、僕達が受けた公園掃除もそうだ。
あれは本来、大人数でやるべきものなんだけど、その報酬の少なさのせいでこれまで誰も受ける人がいなかった。
「魔物のユランだって受けられたし、君も大丈夫だ」
「……やだ、やりたくない」
ぷいっ、とそっぽを向くニーア。
まあ、この対応をされるのは分かっていたので、リーファに目配せする。
「まあ、姉さんのような自堕落極まりない駄目姉は無理なのは分かってたよ」
「……は?」
「ま、私はやるけど、所詮姉さんじゃ無理だよね。だってゴリラだもん。あ、今は子ザルかな? ん? ん?」
「~~ッ!」
煽るにも限度があると思うんだけど。
顔を真っ赤にさせながら震えているニーア。
そんな彼女を横目で見て「かわいい」と小さく呟いているライラ。
色々と爆発寸前な彼女に、とどめとばかりにリーファは僕の方を向く。
「カイト、姉さんはやらないみたい。残念だけど、賭けのあまくるみ30個は全て私のもののようだね」
こいつさらっとあまくるみ30個要求してきたんだけど。
すると、わなわなと震えたニーアがリーファを睨みつける。
「じょ、じょーとーだよ! 言っておくけど、自堕落なのはあんたの方だから!」
「じゃあ、やるんだね?」
「やってやるよ! 姉より優れた妹などいないことを教えてやる!」
よし、言質は取ったな。
それじゃあ、どの依頼を受けるかだな。
「うーん、受ける人が増えたって言うけど、規模の小さい依頼は軒並み埋まっちゃってるなぁ」
「まあ、報酬が少ないからね。やるとしても早く済ませられる依頼が優先されちゃうのはしょうがないと思う」
「ライラはどうする?」
「私? 私はちょっと別の依頼が入っちゃってねー。あ、でも途中からなら手伝いにいけるよー」
なら参加人数は、僕と使い魔達とリーファとニーアか。
人数も多いし、そこそこの依頼を受けても大丈夫そうだな。
「ん、じゃあこれにしようかな」
「どれ?」
「前掃除した場所の反対側にある公園」
「むぅ、ここもすごそうだな」
一度通ったことはあるけど、ここも結構すごかった覚えがある。
ヘンディル王国の観光地的な場所の近くでもあるので、なるべく綺麗にしてほしいとのこと。
「あ、でもリーファとカイト君は顔を隠した方がいいんじゃないの?」
「え、そうかな?」
「だって、前とは違って今の君達は勇者とその従者だよ? ちょっとした騒ぎにでもなったら、依頼どころじゃなくなるかもしれないし」
……なるほど、一理ある。
なら僕達も変装する必要があるということか。
「私達、チミドロでドロドロの修羅場主従だもんね」
「……」
そういえばそんな異名もつけられていたんだった……!!
完全に記憶の彼方に追いやっていたけれど、それを含めても変装しなければ。
「フッ、明日マスクでも買いにいくか。ちょっとワクワクするな……!」
「私は、普通にフード被るからいいや」
「カイトもフードつきの服を用意すればそれでいいのでは……?」
あと他に必要なものはあるか?
変装するといっても顔だけを隠しても意味はない。
「ハッ、僕のジャケットはセントレアルでほとんど破られてしまっていたんだ……! 明日、買いに行かないと……!」
セントレアルで破られてしまったので、買えるときに買っておかねば。
行きつけの店にならいくつか用意されているはずだろう。
そこで変装用の服も買って、午後に依頼を受けに行こう。
「リーファ、カイト君って時々こんな感じなの?」
「うん、お気に入りの服のことになるとアホになるの」
「えぇ……」
とにかくやるべきことは決まった。
明日は午前中に買い物を済ませ、午後は依頼を受けに行こう。
久しぶりの依頼だからな。
結構、楽しみだ。
修羅場主従、変装して依頼に臨む……!




