第二百四話
第二百四話。
ヘンディル王国に帰ってから三日が過ぎた。
今日は、チサトがフィルゲン王国に帰る日。
僕とリーファはその見送りのため、馬車まで彼女を見送りにきていた。
「寂しくなれ」
「普通、自分から言う……?」
開口一番にそんなことを言ってくるチサトに困惑するしかない。
唖然とする僕とリーファに、チサトはしたり顔を浮かべる。
「うんうん、本当は私がいなくて寂しいのは分かるよ」
「……カイト、この後どっかでご飯食べてかない?」
「あ、そうだね。ギルドで食べてく?」
「私は肉がいいぞー」
「あ、ごめん待ってお願いします。見送るなら最後まで見送って……!」
帰るそぶりを見せる僕とリーファを止めるチサトに苦笑する。
まあ、冗談はここまでにして真面目にチサトを見送ろう。
「フィルゲン王国に戻ったら君はどうするんだ?」
「んー、勇者としての仕事もあるし、そろそろギルドで身分を隠すのも面倒になってきたから、カイト君達みたいに正体を明かそうかなって」
「え、いいの? たしか勇者じゃない時間を過ごせるとか言ってなかったっけ?」
リーファの言葉にチサトは頷く。
だからこそ勇者としての身分を隠して冒険者になっていたと聞いたけど、彼女はそれでいいのだろうか。
「世を忍ぶ仮の姿を持つ勇者もいいけど、リーファやカイト君みたいにするのも悪くないかなって」
「僕達みたいな?」
「地域密着型勇者」
「一気にご当地感が増したね……」
初めて聞いたよそんな勇者。
ご当地アイドルかな? 各王国から代表の勇者出して熾烈な競争してそう。
「私も思いっきり勇者として動けるようになれば、すぐに君達の助けにいけるようになるからね」
「……チサト……」
「褒めるなら褒めていいよ」
「……カイト、今、貴方の気持ちがすごくよく分かった」
真顔のリーファがこちらを向く。
褒めることを強要される気持ちが分かったか。
しかし、そう思ってくれているのは素直に嬉しい。
「アル」
「なんだい、カイト」
チサトの足元にいた黒猫、アルが彼女の肩に飛び乗る。
セントレアルで彼女の使い魔になることを選んだシフの兄弟、彼にとってはフィルゲン王国は未知の場所なのでしっかりと送り出さなければならない。
「チサトと一緒はとっても大変だと思うけど、頑張って」
「ボクが必要な時はいつでも言って。チサトに止められようとも、行くから」
「……私の扱い酷くないかな?」
微妙な顔をしたチサトの言葉をスルーしたアルは、シフに視線を向ける。
「……今の今まで言えなかったけど、セントレアルではごめん。お前に、酷いことを言っちゃって」
「いいのだ。おぬしが私をよく思わない気持ちもよく理解できる。それに、今はこうして同じ道を歩く同志であり、兄弟だ」
「……うん……うん、そうだね」
最初は敵意しか抱いていなかったアルだけど、僕達と関わることで変わることができた。
小さく微笑むアルに、シフはやや照れくさそうに尻尾を揺らしながら続けて話しかける。
「兄、と呼んでもいいぞ」
「いや、それは遠慮しておく」
「うむぅ……」
密かに憧れたんだね……。
しゅん、と落ち込むシフを慰めるように撫でる。
するとチサトの後ろでフィルゲン王国行きの馬車の準備をしていた方が、出発の準備ができたことを伝えてくる。
「そろそろだね」
「うん。……カイト君、リーファ、魔具を部屋に設置するの忘れないようにね」
「それ、昨日から三回くらい言ってるよね……?」
結局、チサトは通信用の魔具を選んだ。
リーファも彼女と魔具で話すことには賛成なのかあっさり魔具を購入したわけだけど、一時の手紙に対しての対抗心はなんだったのだろうか。
……今聞いてみるか。
「手紙と魔具、決め手はなんだったの?」
「やっぱり文通より電話……! つまりデジタルだよ、カイト君……!」
どちらかというとマジカルじゃないかな?
語呂が似てるだけで意味が同じとは限らないけれども。
「時代は常に先を取った方が勝つ」
「手紙も味があっていいと思うけど」
「フッ、アナログな人間は時代に置いてかれるよ?」
「君はさっきから僕に喧嘩を売っているのかな?」
意味不明にマウントをとってくるな……。
準備が整った馬車にチサトと共に近づく。
馬車を引いているのは魔馬なので、僕が近づいても暴れる心配がない。
「じゃ、そろそろ行くね」
「ああ、気を付けてね」
「またね、チサト、アル」
最後に微笑んだ彼女が馬車に乗り込むと、少しした後に馬車はゆっくりと進み始める。
窓から顔を出して手を振ってくる彼女に手を振り返しながら、馬車を見送る。
遠く離れた馬車が見えなくなったところで、僕とリーファは手を下ろす。
「今度はこっちからフィルゲン王国に行きたいね」
「うん、露店のご飯も美味しかったし、また行きたい」
たしかに美味しかったけれど、食べ物目的じゃないからね?
相変わらず食べ物がすぐ頭に思い浮かぶリーファに苦笑しながら、その場を後にしようとすると僕達から少し離れた場所で、こちらを伺っている女性に気付く。
「あれ? リオンさん。まだ帰ってなかったんですか?」
「そういう言い方されると泣いちゃうよ……!?」
いや、そういうつもりで言ったのではなく、普通にまだ彼女がここにいることに素直に驚いたのだ。
ジェシカ様との対談を終えた後に、すぐにセントレアルに戻っているとばかり思っていた。
「どうして今日までここに……?」
「ちょっとばかし観光していたんだ。メリアのいた遺跡を見てきたり、お土産とか選んでた」
「お土産?」
「そうそう、個人的に興味があったからね」
すると、リオンさんはどこからともなく僕の使い魔達をモチーフにさせたお土産シリーズを取り出す。
僕がいない間に新シリーズが出ていたのか、デフォルメ化されたぬいぐるみバージョンも持っている。
シフ、ライム、ハクロ―――そして、ユランのぬいぐるみを目にした僕の思考は一瞬停止する。
「———フフ、まさかこういうものが売っているとは」
「リオンさん、それはどこに売っているんですか……!?」
「わわっ!?」
思わずリオンさんに詰め寄りながら、ぬいぐるみが売られている場所を教えてもらう。
なるほど……! とうとうユランも商品化か!!
たしかにデフォルメ化された人形なら、本体には劣るが可愛いはずだ……!
「フフ、ウィルはこういうのは嫌がるけど、ヒルデは可愛いのが好きだからね。周りに気付かれないようにしているけど」
「へぇ、意外ですね」
なんというか落ち着いた人って印象だったから、ギャップのようなものを感じる。
ん? でも周りに気付かれないようにしているってことは、リオンさんにも知られないようにしているのではないか?
……いや、あまり気にしないでおこう。
「私も今日セントレアルに戻るんだ。……ああ、見送りは必要ないよ? 帰る前に君の顔を一度見ておきたいと思って、ここに来ただけだからね」
「そうなんですか?」
「ああ、そろそろ帰らなくちゃ怒られてしまうからね。ここに来たのは私の独断といってもいいし」
貴女はまず“ほうれんそう”をしっかりとするべきでは……?
報告、連絡、相談もなくいきなり行動に出られると、ヒルデさんと他のセントレアルの皆さんに迷惑がかかると思うのですが。
「カイト君。今後のことだが、あと少しすれば君の日常も元に戻るはずだ」
「え、そうなんですか?」
「クルックライザーの件はもう大丈夫なの?」
僕とリーファの言葉にリオンさんが頷く。
「クルックライザーはいきなり襲ってきたが、狂ってはいない。だから無闇に人間を巻き込み、君を害することはしないだろう。そもそも、君を襲った時もセントレアルの民が避難した後だからね」
「たしかに……」
「油断していいわけではないけど、肩の力は抜いていい」
一瞬、リーファに視線を向けたリオンさんは小さく笑みを浮かべる。
「馬車での帰りに言っていたように、リーファの実家に向かってみるのもいい。君達には適度な休息が必要だからね。ゆっくりと日常を楽しむといい」
「……」
「……な、なにかな?」
明らかに話の流れがおかしかったぞ。
それに、この引っかかる感じ。
リーファの実家に何か神獣に関係する何かがあると見た。
「……はぁ、分かりました。次はリーファの地元になにかあるんですね。回りくどい言い方をしないで普通に言ってくれればいいのに」
「うっ、なんだか君にそういう目で見られると、ものすごい叱られた気分にさせられるよ」
慄きながら、リオンさんは頬を引き攣らせる。
リーファの実家に何があるかは分からないが、何かがある。
そんな漠然とした話だけを理解できたわけだが、しばらくはここで休んでからだな。
デジタルで勝負するチサト。
そして、ニーアお仕置きフラグが立ちました。




