第二百三話
第二百三話です。
オロチの住む遺跡。
僕がこの世界に召喚された場所であり、メリアに誘拐され監禁されかけた思い出の多い場所に、僕達はやってきていた。
ユランにとっても生まれ故郷みたいなものなので、胸ポケットから顔を出して遺跡を見回している。
「おーい! オロチー!」
「そんな友達感覚に呼ぶの!?」
大声で叫ぶと、ごごご、という振動と共に遺跡から大きな三つの頭が出てくる。
三つ首の大蛇、オロチ。
元々は危険な魔獣ではあったけれど、今はこちらから危害を加えない限り人を襲わない大人しい魔獣だ。
「か、かかか」
チサトは声を震わせながら僕に近づいてきたオロチを見上げる。
こんなに大きい蛇だ。
普通の女の子なら怖がっても無理はな―――、
「か、可愛い!」
「可愛い……?」
かつてないテンションで目を輝かせるチサト。
UMA大好き系少女を嘗めていたぜ……! チサトにとってはオロチもツチノコか……!
心なしかセラさんを思わせるソレに、使い魔達と一緒に引きながらオロチを紹介する。
「えーと、この子がオロチだよ」
「出会い頭にカイト君を噛み殺そうとした子だね!」
「ギュァァ……」
「ごめん、チサトに悪気はないんだ……」
疲れた様子のアルが、口の端を引き攣らせているオロチの真ん中の頭にそう話しかける。
とりあえず、オロチの下あごを撫でつつ、ちょうど座れそうな石のある場所まで移動する。
「どういう経緯でこの子と仲良くなったの?」
石に腰を下ろしたチサトがそんなことを聞いてくる。
そういえば、メリアについてはあまり話していなかったので、いい機会だから軽く説明しておこうか。
「元々オロチは、地下に眠っていた神獣の手下みたいな存在だったんだ」
「それがメリアって神獣?」
「そうだね。多分、オロチは隠れ蓑みたいな存在で、メリアはずっと自分の存在が気取られないように隠れていたんだと思う」
いや、隠れるというのは違っているか。
メリアにとっては人間は脅威でもなんでもないのだから。
オロチが表層に住むことで、人間がメリアの住む深層に入りこむことがなかったから、彼女の存在が知られることもなかった。
「メリアはどうやってカイト君と接触したの?」
「いやぁ、攫われちゃってさ」
「攫われた!?」
「まあ、最後は解放してくれたけれどね。悪い神獣ではない、とまでは言わないけど純粋な神獣ではあるよ。———そうだよね、メリア?」
「え?」
「シャ!?」
さっきからユランの視界を通じてこちらを見ているメリアを見る。
すぐに我に返ったようにハッとした表情を浮かべたユランは、状況が分からず周りを見ている。
そんなユランを手の上に乗せながら、唖然としているチサトに笑いかける。
「こうやって心配して見に来てくれるし」
「監視の間違いだよね……?」
「人間慣れれば、色々と平気になってくるもんだよ」
「目が笑ってないよ!?」
実際、クルックライザーに襲われた時は、小さな蛇の姿ではあるけど助けてくれた。
……まあ、問題はなんであの時いたってことなんだけど……多分、それは教えてはくれないだろう。
普通に会いに来てくれればと思うが、もしかしたらメリアは影で何かをしているのかもしれないって少し疑っている。
「オロチ、僕がいない間になにかあったか?」
「ギュァ、ギュゥ」
オロチが鳴き声を上げると、シフがふむふむと頷き翻訳してくれる。
「特になかったらしいぞ。セラ殿が来たが、好き勝手して帰ったらしい」
「テイマーとして、あの人の行動力を僕も見習うべきかもしれないな……」
「私としては、そろそろセラ殿以外のテイマーを知って欲しいんだが……」
テイマーってあまり見かけないしなぁ。
まあ、セラさんはテイマーとして尊敬できる人なことは変わりないけども。
「ねえねえ、カイト君。セラさんって誰?」
「尊敬すべき先輩テイマーです」
「へえ、会ってみたいなぁ」
変な化学反応起こしそう、と思ったがあえて口には出さないでおこう。
オロチの様子も確認できたことだし、次の場所に移動するか。
「じゃ、オロチ。また来るからね」
「ジャァ……」
オロチの下あごに手を添える。
最初に襲われたことを考えると想像すらもしていなかった状況だなぁ、と思いながらその場を後にする。
「次は湖だな」
「カイトよ、湖でなにをするつもりだ? まさか釣りか!? 今晩の夕飯はマジックトラウトか!?」
シフが嬉しそうな様子で僕を見上げる。
尻尾も上に立っていることから、嬉しげなのが分かる。
「いや、釣りもしようと思っていたけど、もう一つ目的があるんだ」
「目的?」
「ついてからのお楽しみにってやつだね」
湖は遺跡からちょっと離れた都市の外れにある。
距離的にはそこまで遠くないので、30分ほどで湖へと到着する。
湖には人気はなく、静かな雰囲気に包まれている。
時折湖面に、小さな波紋が浮かんでいることから魚もしっかりいる。
「よし、他の人の気配はないな」
ハクロを出しながら、周囲に人の気配がないことを確認した僕は大きく空気を吸い込む。
そのまま両手を筒の形にしながら、僕は声を発する。
「フィーリー!」
「あれ、デジャブ」
僕がここにきた目的の一つはフィリに会うため。
水場があれば普通に会えるのだが、やっぱり人目につかない場所の方がいいので湖までやってきたわけだ。
僕の声が周囲に響いていく。
隣にいたチサトは驚きながらも、苦笑する。
「いやいや、カイト君、神獣がそんな簡単に出てくるわけが―――」
「キュァー!」
「———あったね……!?」
元気よく湖の中心から宙へ飛び上がる青い龍。
3メートルほどの大きさの竜―――フィーリヘルトはそのまま大きな水しぶきとともに湖面に飛び込むと、そのまま僕達のいる岸にまで泳いでくる。
「キュァ!」
「フィリ、この前は助けてくれてありがとう」
僕が手を差し出すと、顎を乗せたフィリが気持ちよさそうに目を細める。
来てくれるかどうかは半々だったけれど、お礼を言える機会ができてよかった。
「神獣がこんな簡単に、しかもリオンとは全く違って無邪気だな……」
「気に入られているのは知っていたが、こんな簡単に呼べるとは……」
アルとシフが驚いている一方で、若干挙動不審のチサトがフィリを撫でている僕へ近づいてくる。
「か、かかかカイト君、ふぃ、フィーリヘルトに触ってもいいかな?」
「大丈夫、フィリ?」
僕の声にフィリはチサトの顔を見上げる。
少しばかり悩むそぶりを見せたフィリは、ゆっくりと自分の頭をチサトに差し出す。
どうやら、許してくれるらしい。
恐る恐るフィリの頭に手を置くチサト、数秒ほどして自分から手を引っ込めると、これまで見たことがないほどの満面の笑顔を僕に向けてくる。
「気分は芸能人と握手した感覚だよ……!」
「果たして、その感想でいいのか君は……」
いちいち感想が特殊すぎないかな?
困惑しながらも、僕はライムを釣り竿の形に変える。
「さて、フィリにも会えたことだし、次はマジックトラウトを釣るか」
「キュァー!」
「ん、背中に乗せてくれるのか?」
背中を差し出したフィリに跨ると、ふわりと水面を浮かび上がってくれる。
おお、これはまさか―――、
「船釣りならぬ、龍釣りか……!」
「ねえ、カイト君」
フィリの背中で人知れずテンションを上げていると、未だ興奮冷めやらぬチサトが声をかけてくる。
「私の魔法を使えば釣り竿なんて使わなくても一網打尽だよ? 今の私なら、いくらでも取れるよ? やっちゃう?」
「いえ、遠慮しておきます」
「敬語!? 急にテンションが下がったね!?」
思わず真顔になってしまう。
僕はため息をつきながら、フィリの背に乗りながら肩をすくめる。
「たしかに君の魔法なら一瞬でこの湖の魚を捕まえることもできるだろう」
「うん」
「でも僕は釣りがしたい。正直、夕飯云々はおまけだ」
「ぶっちゃけたね!?」
「そうなのかカイト!?」
今日一日メルクさんの手伝いをして頑張っているニーアへのご褒美という目的もある。
だが、あくまで本来の目的は僕が釣りを楽しむことだ。
その結果、夕食が豪華になる。
「シフ、麦わら帽子に!」
「う、うむ!」
飛び上がったシフが、いつもとは違う麦わら帽子へと変わる。
シフを被った僕は、フィリの背中に触れながらチサトとアルを見る。
「そして今、フィリの背中で釣りができる喜びのあまり、目的を見失いつつある」
「いや、駄目じゃん!?」
「正直、このままこの湖以外のまだ見ぬ魔魚を釣りに行きたくて仕方がない」
「どこまでいくつもりなの!?」
いや、さすがに都市外にはいかないけども。
だがこれが釣りの魔力とでもいうのだろうな。
釣り竿に変身したライムを握りしめながら、針の先端にあらかじめ用意してきた餌をくっつける。
僅かに純魔の魔力を籠めて、準備完了だ。
「よぉぉっし、釣るぞぉぉ!」
「キュァァ」
竿を振り、湖面に針を落とす。
ここからはただひたすらに待つだけだ……!
「カイト君、ストレス溜まってたのかな……」
「むしろ、溜まってない方がおかしいと思うぞ……。傍目には分からせないのが、怖いけど」
チサトとアルの呟きを聞きながら、僕は手に持つ釣り竿に意識を集中させるのだった。
(メリアの好感度が上がった)
土日の更新はお休みなので、次回の更新は月曜となります。




