第百九十九話
第五章開始となります。
セントレアルでの勇者招集が終わり、ようやくヘンディル王国へ帰ることになった。
今はその帰りの馬車にいるわけだけど、やはりニーアとアルという新しいメンバーが加わったことで、少しだけ道中が賑やかなものとなった。
「カ、カイト君助けて!」
「どうしたの?」
「チサトとリーファとリオンがいじめてくるの!」
「多くない……?」
焚火を前にして実体化したハクロを傍らに撫でつつ、胡坐をかいた足の上にシフ、ライム、ユランをのせていると、涙目のニーアが助けを求めてくる。
彼女の接近にユランとハクロが威嚇する。
「グルルッ!」
「シャー!」
「ひん!?」
ハクロは本体が隷属された恨みがあるとして、ユランは一時敵として戦ったから警戒している感じか。
シフとライムは、それほど気にもせず―――いや、シフは寝てるだけか。
ライムに関しては、どっしりと構えて謎の貫禄を見せている。
「いじめるって、具体的には?」
「リーファが姉としての立場を奪おうとしてる」
「……あるの?」
「あるよ!?」
妹にゴリラ呼ばわりされてる時点で威厳もなにもない気がする。
「チサトは私に意味不明な生き物の話をずっと聞かせてくるの!」
「それは……酷いな」
「ちょっとカイト君、どういう意味?」
シフと同じように、眠そうに船を漕いでいるアルを撫でているチサトが不機嫌になる。
UMA関連の話とか、この世界の人にしたら「なにそれ意味不」みたいな感じだと思うんだけど。
というより内容によっては怖い話とか多いし。
「仲間を増やしたくて」
「無理だから諦めなさい」
「じゃあ、君だけで我慢する」
「僕も仲間にされてる……!?」
衝撃の事実に驚きながらも、溜息をつく。
まったく、いくらニーアが元は魔王軍幹部だったとはいえ、今は罰を受けている最中だ。
さらに追い打ちをかけるようなマネはしていいことじゃない。
「二人とも。あまり大人げないことはするんじゃない」
「同い年だよ!?」
ニーアがそう訴えてくるが、リオンさん曰く身体が小さくなったことに引っ張られてその精神性も幼くなっているようで、感情の機微とかそういうのが見た目相応になってしまっているらしい。
「リーファも今までのことを水に流すとまでは言わないけど、そういう人の嫌がることをするのはニーアと同じことをしているのと同じなんだよ?」
「あれ、擁護されてるけど攻撃されてる……?」
僕の言葉にリーファはこくりと頷く。
こういう時の素直さはこの子の良いところだと思う。
「分かったよ。ママ」
「誰がママだ」
そこでハッとしたニーアが話しかけてくる。
「ママ、夜飯まだかな?」
「ご飯は昨日食べたからいいよね?」
「露骨に扱いの悪さが出てる!?」
いや、普通に朝も昼もリーファ並みにもりもり食べてたけどね。
しかし、打てば響くとはこのようなことを言うのか。
ちょっと楽しいと思いながら、使い魔達を下ろしてから馬車に保管されている食材を取りに行く。
この馬車、冷蔵庫が搭載されているので普通に食材の保管もできるのだ。
……そう考えると、魔具って元の世界の機械よりも持ち運びという点で優れているのかもしれないな。
「ウォン」
「ん? ついてきたのか?」
ハクロがついてきた。
僕を見上げるハクロの頭に手を置くと、ひんやりとした毛並みに、以前とは違うたしかな存在のようなものを感じる。
以前までは希薄だった意志も、今ではしっかりと感じられる。
「……これからもよろしくな」
「ウォン!」
改めてそう言葉にすると、魔馬の世話をしていたリオンさんがにこにことした笑顔でこちらににじり寄ってきていることに気付く。
「あれれ、気付かれちゃった」
「リーファに鍛えられてますからね」
「私の忍び歩きを察知するって、どんな鍛えられ方してるの……? ウィルにしか気づかれたことなかったんだけど……」
そりゃあ、常に影の中から悪戯かましてこようとするから自然と。
「ハクロの本体が解放されたことで、自然の法則が元に戻った。……ところまでは私の想定だったけれど、君の中に存在するハクロの力の断片に、個別の意思と力を与えられるのはちょっと予想外だったね」
「この子は、魔物なんですか? それとも精霊?」
「どちらでもなく、どちらでもある、と言ったところだね。力の根本は精霊だけれど、その身体を構成する力は魔物とほぼ同じだ」
やっぱり特別な存在なんだな、ハクロって。
「力も強くなっている。だけど、この子はまだまだ命を得たばかりの子供だ。本体ほどの力はないけれど、君と共に成長することができる」
「そう、ですか。……一緒に頑張ろうな」
「ウォン!」
「今まで通りのこともできるけど、強くなった君を生かすことのできる戦い方も考えなきゃな」
元気に返事をしてくれるハクロ。
ちゃんとした実態を得たわけだし今度から僕の内ではなく、外に出しておくべきかな。
ハクロも色々な景色を見れるだろうし。
「そういえば、ウィルからの伝言があったよ」
「え、ウィルさんからですか?」
「うん」
最後の最後で会える機会がなくて別れの挨拶をすることができなかったけど、ウィルさんからの伝言か。
少し姿勢を正しながらリオンさんへ向き直る。
彼女はコホンと咳払いすると、やや声を低くさせる。
「お前さんのこれから歩む道のりは信じられないほどに過酷なものだ。だが、手前を殺しにくる神獣相手にも怖気づくことのなかったお前さんなら、過酷な運命も乗り越えられるはずだ」
「……」
ウィルさんからの伝言を心に強く刻みつける。
神獣と関わってきた彼がそういうのなら、きっとそうなのだろう。
なら、僕も今一度覚悟を決めていかなきゃな。
「ウィルも君達のことを気に入ったようだからね」
「僕もウィルさんも神獣に苦労させられてますもんね」
「おっと、唐突に笑顔で毒を吐かないでくれるかな?」
「冗談です」
頬を引き攣らせるリオンさんに、苦笑しながら食材を抱える。
鍋とかはハクロに風で運んでもらって、そのままリオンさんと共にリーファ達の元に移動する。
すると、そこにはチサトとリーファに挟まれるように座り、顔を青ざめさせているニーアの姿があった。
「……」
何も言わず、現実逃避するように焚火を見ている彼女を見て、リーファとチサトを見る。
「だから、そういうことはやめなさいって」
「いや、違うよ。カイト君」
「うんうん、今回ばかりは違う」
じゃあ、なんなんだ。
馬車からあらかじめ持ち出してあるテーブルに食材と調理器具を置く。
その間、リオンさんは焚火の周りに椅子代わりに用意した丸太に座り、眠っているシフを抱えている。
ユランとライムも彼女の肩と頭に昇っていくのを横目に見ながら、チサトとリーファになぜニーアがこのような状態になっているか問いただしてみる。
「イリスさんのことについて聞いてきたから説明したの」
「私は、なんだかんだで知らなかったから、聞いてみようかなって」
なるほど、ニーアはイリスさんと関わりがある。
勿論、悪い意味ではあるが、ニーアはなぜ僕達がイリスさんと知り合いなのかが気になったと言うことか。
「説明って、なにを説明したの?」
「え、イリスさんが魔王軍に酷い目に合わされて、ヘンディルに来たり……あとは、生き別れの父親と再会して、結局なにも言わずに別れちゃったとかざっくりと……そこまで詳しく説明してないよ?」
もう一度ニーアを見ると、頭を抱えて何かをぶつぶつと呟いている。
ざ、罪悪感を抱いているのだろうか?
いや、そんなすぐに反省するようなイメージはないんだけど。
「イリス、何してんのぉ……!? 生き別れの父親とか、なに壮絶なこと経験してんのぉ……!? なにも言えないじゃん私……!?」
本当にどうしたのだろうか。
リオンさんは抱えた膝に乗せたシフとアルを撫でながら「やー、面白い」と明らかに全てを把握しているようで笑って見守っているし。
「まあいいや、チサト、手伝って」
詳しい話は後で聞くとして今は夕飯の準備をしなくては。
かといって僕もそれほど料理ができるというわけでもないので、チサトに手伝ってもらうように頼む。
しかし、とうの彼女は、えー、と不満そうな声を漏らした。
「私としてはただくつろいでるだけでご飯が出てくる夕ご飯を期待していたんだけど」
「君だけご飯抜きでいい?」
「私をご飯抜きにするなら、ニーアとリーファも抜きにすんだね!」
「なんで私達を巻き込むの!?」
「やめてよ、チサト!!」
全力で止めに入る姉妹。
なんだかんだでニーアも溶け込め……溶け込めているようだ。
少し前まで命がけの戦いをしていた身としては少しばかり複雑ではあるが、いがみあっていた姉妹の距離が縮まったという点には、喜んでいいかもしれない。
イリスのことを聞こうと思ったら、予想以上にヘビーな事情を知ってしまいなにも言えなくなってしまったニーアでした。




