第二百話
第二百話です。
セントレアルから出発した馬車は無事にヘンディル王国へ到着した。
半月ほどしか離れていないはずだけど、なんだか久しぶりに感じるヘンディル王国の街並みを眺めながら、まず最初に城へと向かうことになった。
どういうわけか、リオンさんもジェシカ様に話があるらしく一人だけ別室へと案内されてしまったので、今は僕、チサト、リーファ、ニーアの四人と使い魔達だけがジェシカ様のいる広間へと案内されている。
「しかし、ニーアを連れて行っていいものか」
「いや、この身体で暴れたりしないよ」
「うーん、そういうことじゃなくてね。っと、ついちゃったね」
ジェシカ様が仕事をなさっている広間へと到着する。
最早、顔馴染みといってもいい守衛さんに軽くお辞儀をしながら中へ通してもらうと、僕達を迎える準備を整えているジェシカ様の姿を見つける。
丸テーブルに並べられたお菓子とティーポッドを前にして、ティータイムに興じていた彼女は笑顔で手招きしてくれる。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。よく無事に帰ってきたわね」
さっそくと言わんばかりにシフを抱きしめようとするジェシカ様だが、すぐにチサトの肩にいるアルに気付き硬直した後に―――ニーアの姿に気付く。
「ま、待って、情報を整理させて……」
知らず知らずのうちに増えているシフと、子供姿のニーアにジェシカ様も混乱した様子を見せる。
まあ、当然だよなぁと思いつつ説明しようとすると、それよりも先に立ち直ったジェシカ様がリーファに話しかける。
「この子がリーファのお姉さん?」
「うん」
「ゴリラって言ってたけど、全然違うわね」
「リーファァ……」
ジト目でリーファを睨むニーアだが、迫力が全然ない。
その一方で、いつもジェシカ様に抱えられているシフが密かに安堵に胸を撫でおろしている。
「……ニーア、ちょっとここに座りなさい」
「え、あ、はい」
ジェシカ様の隣に用意されている椅子に座るように促されるニーア。
言われるがままに座ると、ジェシカ様はニーアの前にお菓子を差し出した。
「お腹空いてないかしら?」
「……そういえば空いてたかも」
「そう、なら沢山食べていいわよ?」
「うん」
もぐもぐとお菓子を食べるニーアの頭を笑顔で撫でるジェシカ様。
その様子を見て、ジェシカ様も色々と苦労しているんだなぁと察する。
僕達もジェシカ様の前の席に座る、暫し状況を見守る。
「いや、扱いが子供ぉ!?」
ようやく我に返ったニーアが立ち上がろうとするも、ジェシカ様に肩を掴まれ再び席に戻される。
「もう、口の周りについてるわよ」
「ちょ、むぐ、や、やめ、私リーファと同じ年だよ!?」
そう訴えられたジェシカ様は、リーファを見てからニーアへと視線を戻して、不思議そうに首を傾げた。
「リーファがそのまま小さくなったみたいで可愛いわね!」
「カイト君! この人歪んでる!! 助けて!!」
助けを求めるニーアに目を伏せる。
まあ、こうなることは予想できていた。
なので、逆にこうしてもらった方がニーアも暴れる危険もないのでスルーする。
「セントレアルで起こったことは、こちらに伝わっていますか?」
「ええ、おおよそはね。貴方が神獣に襲われたと言うことは、リオン様から伝えられたけれども……事実なの?」
「……はい」
「そう、よく無事だったわねぇ」
「ううん、無事じゃなかった。危うく殺されてたところだもん」
やや不機嫌な面持ちでリーファはそう言葉にする。
チサトも頷いている当たり、あの時は本当に心配をかけてしまったんだろうなと思う。
「とりあえずでいいけど、セントレアルでの出来事を聞かせてくれないかしら?」
「分かった」
リーファがセントレアルで僕達が行ったこと、そして巻き込まれた事件についておおまかに説明する。
その際に僕達がウィルさんに鍛えられたことを聞いた彼女は驚きの表情を浮かべる。
「へぇ、黒の冒険者に鍛えられたの。それだけで貴方達をセントレアルに送った甲斐があったわね」
「うん、色々と勉強になった。私達も強くなれたし」
黒の冒険者と聞いて、ニーアの表情が露骨に歪む。
ウィルさんに苦手意識でもあるのだろうか? と思ったけど、どうしてだろ。
もしかして既にウィルさんと戦っていたりするのか?
「うーん」
リーファから大体の話を聞き終えたジェシカ様は、思い悩むように口元に指を当てる。
「チサト、貴方は三日後にフィルゲン王国に帰国することになっているわ」
「はい、分かっています」
「本当はまだこの国に残って欲しいところだけど、そうはいかないのよね。それと、ニーアは貴方とリーファに任せるとして……」
「任せるって、もしかしてこの後も姉さんと一緒に行動するの?」
このままニーアを自由にさせるのか?
いや、子供の姿だから害はないだろうけど、体裁的に大丈夫なのだろうか。
もしかしたら、元に戻ることを諦めて逃げる可能性もあるわけだし。
僕とリーファの心配をよそに、ジェシカ様はからからと笑って見せる。
「そこらへんは大丈夫よ。貴方達もいることもそうだし、こちらでもちゃんと見張っている。まず逃げられないでしょうね」
「そう、そこまでいうなら大丈夫そうだね」
「ええ、信頼してちょうだい」
よほどすごい人を見張りに置いているのか、自信満々なジェシカ様。
そういうことならニーアが逃げ出す心配はしなくていいかな。
「それじゃあ、次はカイトとリーファね」
「私はともかくカイトはどうするの?」
「カイトに関しては、この後にするリオン様との対談によるわね。二人に共通して言えることは、許可が出るまでは都市外に出ないようにしてもらいたいってこと」
僕に関してはクルックライザーのことがあるからなぁ。
最悪、住んでいる場所から出ちゃいけないくらいを覚悟していたから、ある意味でよかったと思う。
「ちなみに、冒険者としての仕事は?」
「金の冒険者になったところ悪いけれど、外に向かう任務は軒並みアウトね」
「なら、都市内の依頼は大丈夫なわけだね」
リーファがこちらを見る。
……今日のジェシカ様とリオンさんとの対談次第だけれど、ギルドの依頼を受けにいくのもアリか。
そうなるとニーアの問題があるけど、その時は―――、
「ボランティア依頼だな」
「? なんで私を見るの?」
「いや、なんでもないよ」
我関せずとお菓子を食べているニーアを誤魔化しておく。
それから、セントレアルに関係した質問などに答えていく。
一時間ほどが過ぎたところで、彼女はぽんと手を鳴らす。
「それじゃ、そろそろ終わりにしましょうか。貴方達も長旅で疲れているでしょうし」
「ジェシカ様はこれからリオンさんとの対談ですか?」
「そうなのよねぇー」
やはり神獣との対談を不安に思っているのか、困ったように笑うジェシカ様。
……とりあえず、頑張ってください……!
心の中で応援しながら、ジェシカ様に挨拶をしてから広間を後にする。
「あのさ、これからどこにいくのかな?」
城を出て、夕焼け色に染まった街を歩いているとニーアが話しかけてくる。
正直、ここまでついてくることになるとは思わなかったので、少し悩みながらも正直に話すことにする。
「僕達が住んでる宿だよ」
「……同棲してるの!?」
「うん、そうな――」
「いや、別に?」
普通に否定するとむっとした顔のリーファが肩を叩いてくる。
どれだけニーアをからかいたいんだよ、と呆れながら初めて来るアルのためにも簡単に今から向かう宿について説明する。
「メルクさんって人が経営してる宿でね。もうすぐ到着するよ」
「へぇ、ちょっと楽しみかも。魔王軍とか、あまりいい環境ってわけじゃなかったし」
魔王軍幹部の時はいったいどんな生活してたんだろ。
純粋にそれが気になっていると、ふとあることに気付く。
それは、ニーアの部屋割りについてだ。
「あ、そうだ。ニーアはリーファと同じ部屋の方がいいかもしれないな」
「「えええ!?」」
ニーアだけではなく、リーファすらも驚愕の声を上げる。
「だって一人部屋だと逃げるかもしれないじゃん」
「逃げないよ!? この歳で妹と同じ部屋とか拷問だよ! がさつの極みだよ絶対!!」
「そうだよ! この今は小ゴリラだけど、絶対この人、私生活ダメダメだよ!! そんな人と同じ部屋にしていいの!?」
「こいつら自分の姉妹には評価厳しいな」
「うむ、まるで鏡合わせのようだな」
二人の訴えにシフとアルが引いた様子を見せる。
その一方で、チサトは楽し気な様子で僕に話しかける。
「ねえ、カイト君、面白そうだから同じ部屋にしちゃわない?」
「「チサトぉ!!」」
二人そろってチサトに怒鳴りつけるあたり姉妹だなぁと思いながら、メルクさんとライラのいる宿へと到着する。
なんだかすごい久しぶりに感じながら、僕達は宿へと足を踏み入れるのであった。
色々と大変なことになるかもしれないカイトの隣部屋。
メルクと邂逅したニーアの反応はいかに……ッ!




