閑話 神獣の接近
今回も閑話となります。
今回は、ヘンディル王国女王、ジェシカの視点となります。
やあ、ジェシカ・フレア・ヘンディル。
女王である君に突然このような文を送ることになって申し訳ないと思う。
私は、フィリュリオーン、セントレアルに住む神獣、といえば分かるかな?
単刀直入で申し訳ないが、間もなく帰国するカイト君達に魔王軍幹部のニーアを同行することにした。
私の力で子供の姿にしているから、訓練される以前のちょっと身体能力の高い子供といった感じの強さになっているはずだから暴れてもすぐに拘束できるので安心してほしい。
神獣と親交のある君なら既に、リーファが神獣の力があることを知っているだろうから、察しはつくだろうがニーアも同じなんだ。
彼は魔王軍の襲撃のすぐ後にクルックライザーと呼ばれる神獣に襲われた。
もしものために彼の力になれる存在が必要と考えての措置だが、正直そちら側の協力が不可欠なものとなっている。
別に君のところに隠遁している彼女を動かせとは言わない。
むしろ、動かず守っているほうがいいとすら言える。
ニーアの方は逃げないように見張っておいて欲しい。
まあ、彼女に比べたらカイト君達の方が手がかかるかもしれないが、そこについてはそちらで頑張ってほしい。
見返りについては、セントレアルからの物資、情報を優遇しよう。
それ以上は要相談となるが、それだけの危険を冒しているので可能な限り、君達の要求を受けよう。
ここで文として記してはいるけど、カイト君達は私が馬車で送っていくので実際に会うことになる。
美味しい紅茶を用意して待っていてね♪
【人類の親愛なる隣人】フィリュリオーンのリオンより―――
「……」
唖然。
ただ一言、それだった。
温かい日が差し込むうららかな朝。
セントレアルに魔王軍が襲撃したという大事件で混乱状態に陥った城がようやく落ち着きを取り戻し、私もようやく静かな一日が送れると思った矢先に、窓の隙間からどこからともなく飛んできた文に私の平穏は脆くも崩れ去った。
私は今にも泣きそうな顔で、すぐに呼び出したメルクさんを見る。
「私は会わねぇぞ」
「そんなこと言わないでっ!? 神獣との対談なんて嫌よ!?」
「私も神獣だぞ」
「貴女は、ずっと優しいじゃない! 見てこの文章! 柔らかくて丸っこくて可愛い文字だけど、全くッ、まっっったくこっちの状況とか事情を考えてないわよ!?」
しかも内容的に断っちゃいけないやつよ!?
カイト君が神獣に襲われたとか、これもう歴史的な大事件よ!?
「この前の奴に比べたら話が通じるだけマシだろ」
「この神獣について教えて……!」
メデュラリアムとかいう地下から湧いて出てきた超存在の次は、各国の中心といってもいいセントレアルに潜んでいた神獣とは……!
だんだんとこの世界の裏側を知らされているような気がして恐ろしくなるが、まずは対談する以上、相手の人柄、性格を知っておかねばならない。
私の訴えにものすごく嫌そうな顔をするメルクさん。
「奴はクズだ」
「いきなり不穏すぎること言わないでよ!?」
「事実だ。奴が知ろうと思えば、大抵のことを知ることができる。そのくせ、それを共有しようとはしないし、自分の頭ん中で自己完結してそれで終わりにしてる」
……。
「何より性質が悪いのは、奴は知っている癖に教えない。話の肝心な部分をあえて口にしないことだ。それで前の主にはしこたまぶん殴られていたんだが……それで治ってなけりゃ、今も変わんねぇだろ」
「……メルクさん」
「断る」
「どぉしてぇ!?」
割と本気でメルクさんに助けを求める。
自身の年を考えると情けない話ではあるが、こんな話を聞かされてどうして一対一で話し合えるというのだろうか。
生きている年数的にもまともに話し合える気がしない……!
むしろ、気づかないうちにすっごいリスク込みの契約とか結ばされそう……!
「言っただろ。神獣は仲が悪いんだよ。私もこの国で騒ぎを起こしたくねぇし、本来なら奴がこの国に足を踏み入れること自体、反対してるんだ。……ったく、ただでさえ、カイトが出発するときに迎えにきやがって……」
「迎えにも来てたの!? フットワーク軽すぎない!?」
一時とはいえこの国に二柱の神獣がいたとか大事すぎる。
というより、なんで言ってくれないのか。
いや、私のためを思ってあえて報告しなかったのかもしれない。
「まあ、この国に不都合なことは起こらないだろう。フィリュリオーンもカイトにご執心らしいがな」
「そ、そう?」
「私との相性も最悪だからな。下手に喧嘩を売ってこないだろ」
神獣に襲われたり、執心させられるとかどんどん彼の存在が大きくなっているような気がする。
普通なら厄介事ばかり持ってくる少年と思うべきだが―――違う。
神獣は何かに備えているの?
そのために、彼を成長させようとしてるの……?
「しかし、クルックライザーか。あの野郎がそんならしくねぇことするなんてな」
「知り合い、なの?」
「……それほど知っている訳じゃない。ただ、意味も無しにそういうことをするような奴じゃねぇことはたしかだ」
神獣にも色々あるようだ。
興味はなくもないが、これ以上心労を重ねたくないので聞かないでおこう。
「ニーアの件だけど……」
「はぁぁ、どうせうちに預けるんだろ? まあ、目の届かないところにいさせるよりはマシだ」
「ごめんなさい……」
「いい、謝るな。こっちは私に任せて、お前はお前のやるべきことをしていればいい」
メルクさんに任せていればニーアは大丈夫だろう。
それに彼女の宿にはカイト君もリーファもいるし。
……しかし、子供にしたとはどういうことだろうか。
まさか本当に年齢そのものを操った? そういうデタラメなことも神獣はできるのか?
「私も若返らせてもらえないかしら」
「やめとけ。変に借りを作ると、後々面倒なことになるぞ」
「そうでしょうね……。分かってます」
メルクさんの口ぶりからして容易に想像できてしまうのが悲しい。
「……そろそろ戻るぞ」
「ごめんなさい。忙しい時に呼び出しちゃって」
「構わん。……あまり無理すんじゃねぇぞ」
こちらを気遣うようにそう最後に言い放ったメルクさんは開いた窓から外に飛び降りる。
一瞬で姿を消した彼女に、手を振った私は椅子に腰かけ背もたれに身体を預ける。
「問題が山積みね。一つずつ解決していかなきゃ」
一度、カイト君とリーファの様子を確認しておくべきかしら?
……ついでにニーアの人となりも知っておくべきか。
魔王軍幹部と言う犯罪者ではあり、リーファがゴリラと呼ぶほどの者だ。
きっとものすんごい歴戦の女戦士みたいな感じの見た目なのだろう。
「……やば、ちょっと見てきたくなったかも」
頭の中で想像を膨らませながら、私は女王としての役目をするべく意識を切り替えるのであった。
メルクにボロクソに言われているリオンですが、彼女の評価はあながち間違っていないという。
ジェシカもまた苦労人……。
土日の更新はお休みなので、次の更新は月曜となります。




