閑話 暗躍
今回は閑話となります。
リオン視点です。
明日、カイト君がセントレアルからヘンディル王国へ帰る。
当然、彼の忠実なる神獣である私も見送りに参加する―――というより独断で送っていくつもりだけれど、その前に色々とやることがある。
「はじめましてだね、ニーア・ウルガル」
「え、だ、誰?」
庭園に置かれているテーブルについている白髪の少女。
リーファと瓜二つの彼女は、自身に差し出されたカップを目にしながら困惑したような表情を浮かべている。
「私はリオン。神獣さ」
「……」
「あれ、嘘だとは思わないのかな?」
頬を引き攣らせるニーアに、私は首を傾げる。
姉妹だけど、反応自体は一般的なんだなぁ。
「貴女、私が魔王軍で感じていた気配と似てる」
「おや、優秀だね? 魔王軍にも一柱、神獣が入りこんでいるんだ」
「……や、やっぱりかぁぁ」
頭を抱えるニーア。
普通だ……!
カイト君達が特殊すぎて、逆に新鮮に感じてしまうよ……!
「つまり、魔王軍はほぼ終わってるってこと?」
「もっと悪いかもしれないね?」
「……カイト君に手を出したから?」
「正確には関わってしまったからというのが正しいだろうね」
再び唸りながら頭を抱えるニーア。
戦いに酔っている少女ではあったが、なにがあったか少しだけまともになっているようだ。
まあ、このまま話すのはいいけど、まずはやるべきことをしなければ。
「あ、今から君を子供の姿に変えちゃうけど、何か言うことはあるかい?」
「え? 子供の姿ってどういうこと?」
「……フフ」
「い、嫌!」
私が指を軽く動かすと、逃げ出そうとしたニーアの両手両足を樹木が縛り付ける。
恐怖に顔を歪ませる彼女の胸に手を当てた私は―――私自身が作り上げた魔術の一つをニーアに施す。
数秒ほどの光と共に、彼女の身体の輪郭が徐々に縮小されていく。
光が収まると、十二歳ほどの子供になったニーアはするりと拘束から地面に落ちる。
「いたい!?」
痛みに悶えながら、ニーアが自身の手足を見る。
そこにはぶかぶかになった衣服と、小さくなった身体。
案の定、彼女は混乱する。
「こ、子供になってる!?」
「あれ? 若返ったラッキーとか言わないの?」
「言わないよ! そんな頭のおかしいこと!!」
チサトやリーファなら絶対言いそうな気がするのだけど。
魔王軍に入る癖に、そこらへんは変に常識的だな。
「さて、これで君はもう暴れられないし、逃げることもできない」
「……っ、な、なにをさせる気?」
「君をカイト君の元に送る」
「……」
「今、しめた! って思ったね?」
僅かに口元が緩んだのを見てから、小さな体を持ち上げる。
暴れようとするニーアだが、私の顔を見て恐怖に顔を歪ませる。
「あの子に何かしたら駄目だよ?」
「ひんっ!?」
「もし、無理やり魔力を取ろうだなんてしたら……怒り出す存在が山ほどいるからね?」
彼はまさしく奇跡だ。
純魔の力を持つ、神獣を受け入れることのできる少年。
もう二度と、この世界にやってくることがないと断言できるほどの存在。
「分かったかな?」
こくこくこく、と首を上下に振るニーアに満足した私は再び椅子に彼女を座らせながら立ち上がる。
月明かりに照らされた庭園から覗く、セントレアルの街並みを眺める。
「勇者達も強くできたし、あの子達を預けたのもいい考えだったね」
カイト君は最重要な存在だけど、勇者達も必要不可欠だ。
だから彼らが強くなることは、願ってもないことだし、私の生み出したシェイプシフター達を任せるのも悪くない。
たくさんの人間達がそれぞれの生活を送っている街並みを眺めていると、後ろから沢山の小さな足音が近づいてくる。
振り返らずに前を見ていると、私の足から肩にそれらが上ってくる。
「もう、困った子達だ」
「かあさまー」
「かあさまー」
「お姉さまだ。全く、生みの親といえども、造ったという方が正しいのに……」
私の身体によじ登るのは残された兄弟たち。
神獣である私に物怖じすることなく、肩、背中、頭に続々とよじのぼってくる彼らに笑みを浮かべる。
「こらこら、無理して上るんじゃない」
勇者達に託された子達は先駆けのようなもので、彼らとしっかりとした絆を結べることを時間をかけて確認出来たら、この子達も善き心を持つ人間達に預けることになる。
「君達の兄弟たちは善き人々についていくことになった」
「わたしたちは?」
「勿論、君達も見つけられるさ。それまでは、私の元で多くのことを学ぶといい」
それに、この子達はもしもの時、彼の力にもなれる。
できれば、そのような状況に彼が追い込まれることになってほしくはないが、クルックライザーのこともあるしもしもの時の備えはしておくべきだろう。
「さて、君の話も聞くべきかな? メデュラリアム」
ニーアの方へ振り返る。
勿論そこには彼女しかいないが、どこからともなく白色の蛇が草陰の中から現れる。
テーブルにするりと上った白蛇にニーアは驚きの表情を浮かべる。
「え、な、なに……!?」
「今まで君に潜んできていた神獣の分身だよ」
「嘘!? み、見張られてたってこと?」
「もし、カイト君を殺しかけていたらその喉笛噛みちぎられていただろうね」
「怖ぁ!?」
自身の身体を抱きしめ恐怖に怯えるニーア。
実際、メデュラリアムならそうしていただろう。
そうなる可能性は低かったとしてもだ。
『———戯れに話でもしましょうか?』
「君と面と合わせれば会話どころではないだろうけど……そうだね、少しばかり腹の探り合いでもしようか?」
言葉を発した白蛇は、我が物顔でニーアの前に居座る。
おおよそ、メデュラリアムの動向は把握しているが、何より気まぐれな存在だ。
まずこちらの想定通りの行動をしてくれるとは考えない方がいいだろう。
チサトは子供にされたら普通にラッキーって喜びます。
じっくりと神獣への恐怖を刻みつけられるニーアでした。
恐らく、次回も閑話となります。




