第百九十八話
第百九十八話です。
第四章エピローグとなります。
本当は魔王軍に襲撃された次の日にヘンディル王国に帰るはずだったのだが、それも数日伸びてしまった。
セントレアルの被害を考えればしょうがないと言えるが、そのおかげでシフの兄弟たちを他の勇者達に託す時間もあったわけだし、結果オーライというやつだろう。
そして、セントレアルに集まった勇者達がそれぞれの国へ帰る日がやってきた。
『色々あったけど、楽しかったわよ! あ、それとこっちに何かあったら協力を要請するかもしれないから、そこんところよろしくねっ!』
セーラさんとイオさんと別れる際、彼女は別れを惜しみながらも笑顔でそう伝えてきた。
明るく、つかみどころのない人ではあったけれど、彼女は頼れる仲間だったことは断言できる。
『私も、その、楽しかったです。できれば、この子……キッシュについて相談したいこともありますので、その時はお願いします』
『むぐぐ……』
丸い黒猫———キッシュと名付けられた黒猫を抱えたイオさんは、キッシュについて色々と相談したいことがあるというので手紙のやり取りができるように、住所? のようなものを交換したりもした。
『次、会ったら覚悟してろよ化物! 俺も兄貴ももっと強くなってリベンジするからな!!』
他にも、フィグロさんとハルトさん、ジャンさんからも別れの言葉を交わしたりしたけれど、やっぱりヘキル君には最後まで睨まれた、挑発的な言葉をもらったりもした。
でも、最初の頃のような嫌味が感じられなかったので、彼もこの数日間で成長できたということなのだろう。
「僕達も帰らなくちゃならないんだけど……」
「誰もいないね……」
他の勇者達の馬車は既に出ている頃だろうか。
僕達はリオンさんに伝えられた都市のやや外れにある馬車が用意されている場所に移動していたが、そこには人気はなく、馬車に繋げられている魔馬だけがいる。
「ハクロの件もここで解決してくれるっていうけど、本当なのかな?」
「約束は守ってくれるはずだが、その方法は全く見当がつかんな。一体、なにがしたいのだろうか?」
シフの呟きを聞いて唸っていると、チサトに抱きかかえられているアルがやや嫌そうな声を漏らした。
「あいつ、説明とかしないんだよな。そのおかげでウィルもヒルデも苦労してるんだ」
「そうなの?」
「しかも、それを悪いとも思ってない。だけど、カイトが相手の時は態度が激変するくらいに入れ込んでるから、約束自体は守ってもらえると思うよ」
「そっか……」
入れ込んでいる、という部分はスルーしつつここは大人しくリオンさんは待つか。
とりあえず、馬車にいる魔馬さんに挨拶しておこう。
「ブルル」
「行きで連れてきた子だね。帰りもよろしくね?」
とりあえず、魔馬のたてがみを撫でると気持ちよさそうに目を細めてくれる。
やっぱり力強くて、かっこいいなぁ。
そうしていると、僕達のいる場所にリオンさんと―――白い髪の少女がやってくる。
少女は茶色のベレー帽のような帽子を目深に被りながら、リオンさんに手を引かれている。
「ごめんね、遅れてしまって」
「いえ、それよりその子は……」
「ああ、それじゃ自己紹介でもさせようかな」
にこりと笑みを浮かべたリオンさんが、少女を前に送り出す。
腰まで届くくらいの白髪の髪に、整った顔立ち。
年齢にして12歳かそこらだろうか?
……なんだ、この既視感は。こんな少女とは会ったことはないが、会ったような気がする。
「……あ、え、その」
押し出された少女は、狼狽しながらリーファを見上げる。
なにやら目を細めて怪しむリーファに、少女は引き攣った笑顔を浮かべる。
「こ、こんにちわ、おねーちゃん!」
「誰このガキ?」
「ガキ!?」
いや、攻撃的だな!?
なにやら目つきの悪いリーファに驚く。
子供嫌いなのか? いや、ヘンディル王国でボランティア活動をしていた時は、普通に子供相手に接していた、というより子供と一緒に遊ぶくらい精神年齢を下げていたんだぞ?
驚く僕達に、ニコニコ顔のリオンさんは少女が被っているベレー帽を取り去った。
「へ?」
帽子の下にあるのは、リーファと同じ獣のような耳。
も、もしやこの子は……。
「ニーア、なのか?」
「……」
羞恥に顔を赤くさせながらこくりと頷くニーア。
ど、どどど、どういうことだ? なぜリーファの双子の姉のニーアが子供の姿に……!?
「姉さんに何をしたの?」
「私の力で子供の姿にしたんだ。この姿なら暴れ出しても問題ないだろうしね」
「これが、特別な罰ってこと?」
「うん」
無遠慮にぽんぽんとニーアの頭に手を置いたリオンさん。
「これから、この子を君達に預ける」
「……逃げ出すかもしれませんよ?」
「それはないよ。だって、私“達”が見張っているし、なによりこの子が元の姿に戻る方法は私と、これからその方法を教える君達しか知らないからね」
神獣が大丈夫というのならそうなのだろう。
多分、この人のことだからヘンディル王国のジェシカ様にも話は通している。
「やっぱり、リーファとニーアが神獣の力を持っていることと関係あるんですか?」
「うん、察しが良くて助かる。なにより君には、彼女たちの力が必要だからね」
「……分かりました」
厄介事を抱えてはしまったが、断って何が起こるか分からない。
とりあえず、今一度子供のニーアに視線を落とす。
見た目は、小さいリーファみたいだな。
「……ホワイトミニリーファ、だな」
「ニーアだよ!? なんで、リーファの色違いみたいな扱いなの!?」
鋭いツッコミにチサトが僕の肩を揺らす。
「カイト君、この子いいよ。ツッコミの才能ある。これでツッコミを押し付け合うボケバトルロワイヤルに終止符が打てるね……!」
「なにその不毛しかない戦い!?」
「ほらっ! 逸材!」
「いやぁぁ!?」
チサトに指摘され頭を抱えて絶叫するニーア。
もうこの時点で罰を受けているんじゃないかな……。
「ねえ、カイト。ヘンディル王国に戻ったら、里帰りしようと思うんだけど一緒に来る?」
「なっ、リーファ!? まさか、この姿の私を母さんに会わせようと!?」
「うん! すっごい楽しそう!」
「やめろぉぉ!」
腕を大きく広げてリーファに襲い掛かろうとするニーアだが、すぐに襟を掴まれ宙づりにされる。
さすがにニーアでも、子供の姿じゃかたなしだな。
ニーアのことは予想外ではあったが、最後に一つリオンさんにやってもらわなければならないことがある。
「リオンさん、ハクロについてですが……」
「大丈夫、ちゃんと分かっている。だからこそ、人払いを済ませたこの場に君達を呼んだんだ」
一つ頷いたリオンさんはリーファに捕まれてるニーアを受け取り、その手を掴む。
ニーアの手の甲には、ハクロを縛り付けている文様が浮かんでいるが、
リオンさんが手を翻すと、その文様はボロボロと簡単に崩れ落ちていく。
「……ハクロ」
『ウォン』
目の前の空間に風が集まってきていることに気付いた僕は、内にいるハクロを出現させる。
半透明のオオカミが姿を現すと同時に、僕達の前に大きなオオカミが現れる。
「……」
ハクロの本体は自由になった身体を見回しながら、足を動かしたりしている。
そして僕達の姿を視界に納めると、ゆっくりと僕と傍らにいるハクロへと歩み寄ってくる。
「……」
『ウォーン!』
自身が僕に分け与えた分身であるハクロを見下ろした本体は、一度目を瞑ると力を分け与えるようにオーラが移動していく。
すると、今まで半透明だったハクロが存在を得ていくように色づいていく。
完全に実体を持ったハクロが僕に振り向き一声鳴くと、そのままいつものように僕の身体へと入りこむ。
「……これからも一緒にいてくれるのか。ありがとう」
自身の内にいるハクロにお礼を呟きながら、本体を見上げる。
穏やかな目で僕を見下ろした本体に、手を伸ばしてその首元に触れる。
「君はもう自由だ」
「ワフ」
「ああ。また、会おう」
その言葉と共に、ハクロの本体は風と共にどこかへ消える。
頬を撫でる冷たくも優しい風に、自然を笑みを浮かべながら僕はリオンさんへと振り返る。
「これで、ハクロは自由になれたんですよね?」
「ああ、最早、彼を縛るものはどこにもない。これからもあるがままの姿で、君達を見守ってくれるだろう」
「……はい」
「君の中にいるあやふやな存在だったハクロも、一つの命として個を得た。より強く、より君に近しい存在として戦ってくれるはずだよ」
ハクロの存在を感じながら頷く。
もう心残りはない。
これで、ヘンディル王国に帰れる。
「さて、それじゃヘンディル王国に向かおうか!」
パンッ、と手を叩きながら馬車の扉を開くリオンさん。
彼女の行動に、思わず首を傾げてしまう。
え、まさか、帰りもこの人が送ってくれるの?
「さあ、まだまだ話したいこともあるし、行こうじゃないか!」
「ははは……はぁ」
自由すぎる神獣に思わずため息が零れてしまう。
でも、そういう部分も人間みたいだなと思いながら、僕は馬車へと乗り込む。
僕の前の席には、チサトとリーファに挟まれたニーアが、顔を青ざめさせながら座っている。
「私、これからどうなっちゃうんだろ……」
「ツッコミ担当」
「母さんに会う」
「もう普通に罰を受けさせてぇ……」
だから、もう現行で罰を受けているのでは?
なぜか僕に助けを求めてくるニーアに、苦笑しながら走り出した馬車から外の景色を見る。
すると、一瞬だけ透明なオオカミが馬車の隣を疾走するのが見えた。
「!……はは」
精霊はいつだってそこにいて、僕達を見守ってくれている。
その意味を今一度理解した僕は、馬車に揺られながら遠くなっていくセントレアルの景色を見送るのであった。
負けたらギャグ要員。
子供ニーア加入とハクロ強化回でした。
次回、閑話となります。




