第百九十七話
第百九十七話です。
リオンさんと話し合った日の夜。
僕達は、先日騒ぎが起こった会場とは別の会場に足を運んでいた。
マリーナさんが主催した、というより企てたパーティ会場は天井がぶち破れてしまったけれど、こちらの会場は幸い無傷だったので、そこに勇者と従者の皆さんも集められていた。
「いきなり集められたけど、なんでしょうねー」
いつものように僕達の近くにいるセーラさんが、きょろきょろと周りを見ながら興味深げな声を漏らす。
彼女の傍に控えているイオさんは、シフとアルをちらちらと見ており、やたらそわそわしている。
「カイト達は何か知ってる?」
「いえ?」
「知らない」
チサトとリーファが答えて、次に僕に視線が向けられる。
フッ、実は知っているけど、秘密にするように言われたので僕は華麗に嘘をつくぜ……!
「全然知らないよです」
「イオ、彼嘘ついてるわよ!!」
「なぜ、見破られた……!?」
「自分から白状もしてくれたわよ!?」
互いに驚きの表情を浮かべる僕とセーラさん。
正直、これから起こることのあまりの嬉しさと期待感で、心情的にフワフワしているのだ……!
「面白いことなら教えなさい!」
咄嗟に助けを求めようと皆に助けを求めようとすると、全員から目を逸らされる。
アルだけがあたふたとしている事実に、カッッッと気合を放ってしまいそうになるが、それをなんとか押さえて、セラさんの言う面白いジョークを飛ばしてみることにする。
「実は、僕……テイマーじゃないんだ……」
「……いえ。ただの事実よ、それ」
「事実じゃないよ!?」
僕は純然たるテイマーだから!
セーラさんに詰め寄られていると、僕の元に勇者の一人であるフィグロさんが歩み寄ってくる。
これ幸いとばかりに、彼に挨拶する。
「フィグロさん」
「おう、相変わらず君のところは賑やかだな」
セーラさんを見ながら苦笑したフィグロさんは、手にしていた飲み物を口にする。
「傷はもう大丈夫か? 怪我をしたと聞いていたが」
「傷の方は完治しました」
「そうか、かなり酷い傷だったから心配していたんだ。平気そうで安心したよ」
見舞いに来てくれたのか……。
本当に僕は毎度毎度全方位に心配をかけさせてしまっているな。
今一度お礼をしながら、話しかける。
「フィグロさんは、ハムガルド王国を侵略した軍団長を、捕まえたと聞きました」
「……まあ、俺だけの力ってわけじゃねぇけどな」
フィグロさんの視線が会場へと向けられる。
その視線の先には、彼と一緒に戦ったであろう勇者、ヘキル君やハルトさんの姿もある。
するといつのまにか隣にきていたイオさんが、口を開く。
「フィグロ様は、率先して指示を出されていました」
「そうなんですか?」
「あ、ああ、まぁな」
「あの状況では、的確なものだったと私的に思います」
やはり戦いの経験を積んでいることは、重要なことなんだろうと思い知らされる。
イオさんの言葉に、照れくさそうに頬をかきながら彼は言葉を発する。
「正直、気が晴れるとかそういう気持ちは微塵もなかったよ。だが、これで胸を張って相棒に会いにいけるとは思った」
「フィグロさんの従者さんですね」
「俺のせいで怪我をさせちまったからな。ずっと、向き合うこともできなかったんだが……ここで、君と他の勇者達の姿を見て、プレガスとの因縁を終わりにしたことで、ようやく前に進められるような気がするんだ」
前に進めるように、か。
これから先、フィグロさんと従者さんの関係がよくなればいいなと心から思う。
そんなことをしみじみと思っていると、会場にフードを被った女性とヒルデさんが入ってくる。
当のヒルデさんは、疲れたような表情を浮かべているが、フードを被った女性―――リオンさんは、僕の姿を見つけると小さく手を振ってくれる。
「どうやら、来たようだな」
「ですね」
フィグロさんの言葉に頷きながら、彼と共に前を向く。
とりあえず、セーラさんの追求から逃れられたぜ……!
そう一安心していると、壇上に立ったヒルデさんがよく通る声を発する。
「先日は、魔王軍の襲撃にあったセントレアルですが、それらは皆様のご助力により見事撃退するに至りました。……都市を代表して、皆様に感謝の意を申し上げます」
そこで一旦言葉をきったヒルデさんは、軽く息を吸い続けて言葉を発する。
「今夜、皆様に集まってもらったのは、皆様のお力を補助する使い魔を紹介するためです」
ヒルデさんの声にざわつきを見せる勇者と従者達。
「使い魔……?」
「使い魔……ッ!」
不思議そうに首を傾げるフィグロさんと、やけに力が籠った声を発するイオさん。
そんな二人の真ん中で、僕は無言のまま状況を見守る。
「此度の交流で、皆様が大きく成長していることは理解しております。ですが魔王軍の動きが活発化している今、従者以外に皆様のお力を補助する存在が必要と考えました」
勿論、これは建前ではあるが事実でもある。
魔王軍は今回セントレアルを襲撃するという驚きの行動に出た。
ウィルさんがいたからなんとかなったものの、もし彼がいなければ戦いはもっと長引いていたかもしれない。
「使い魔が必要でないというならば拒否していただいても構いません。これは強制ではなく、あくまで提案なのですから。……まあ、とりあえず実物を見てから決めていただいた方がいいでしょう」
そこで、ヒルデさんは傍らにいるリオンさんに目配せをする。
笑顔で彼女が頷き、指を慣らすと会場の扉が一人でに開き、そこから小さな動物たちが入りこんでくる。
「「「わーっ!」」」
それらはシフの兄弟たち。
瓶の中からそれぞれの自我を持って、この世に目覚めたシフの兄弟たち。
皆、それぞれ違う姿をとっており、シフと同じ猫から中型の犬までいる。
それらは、とてとてと床を走りながら、会場にいる勇者一人一人の元へ走り寄ってくる。
その中の一匹? ———子犬が、フィグロさんへと飛び掛かる。
「あなたがわたしのマスターね!」
「うおっ!? しゃ、喋った!? な、なんだ、お前!」
「あなたの善き相棒になる存在よ! よろしくね!」
ややつたない声と共に、フィグロさんに受け止められた子犬はキラキラとした目を向けながら嬉しそうに笑う。
……なんだろう、この親の元を離れる子供を見送るような心境は。
「か、カイト、こいつは君の使い魔と同じ」
「ええ、シフの同族……兄弟です。持っている能力はそれぞれ微妙に違っているんですよ」
「わたしは電気と治癒の支援魔術が得意なの!」
褒めてといわんばかりに尻尾をぶんぶん振っている子犬を困惑しながらも撫でるフィグロさん。
彼から周りへと視線を移すと、それぞれの勇者と相性のいい子達が会話しているのが見える。
『お前があるじか? 随分小さいな』
『なっ、このタヌキ! いい度胸だ……! 兄貴、こんなやついらない!』
『自尊心があって結構。それも必要な要素ではあるが、勇者なら心を広く持て。それができれば、あるじはもっと大物になれるはずだぞ』
『……ヘキル、この子の言う通りですよ』
『兄貴!?』
やけに目が鋭い小さなタヌキに怒りだしているヘキル君だが、すぐにハルトさんがタヌキの味方に回りガビーンとショックを受けている。
その様子に苦笑しつつ、その隣を見るとジャンさんとその主であるシュラさんの姿を見つける。
シュラさんの足元には胴長の小動物―――イタチが眠そうな目で彼女を見上げている。
『うわ、暗そうなやつだ』
『な、なんでワタシ、こんなイタチにまで陰気扱いされなきゃならないんだ……!』
『できるだけ楽して眠りたいから、あまり働くなよ』
『は、働きたくて働いてるんじゃねぇ……! ワタシだって、引きこもっていたいんだよバカ野郎……!』
『不毛なコンビができちまったなぁ』
『『不毛はお前だろ』』
『ふへっ、毒舌も二倍だぜ……!』
なんだろう、戦力は増えたけどジャンさんの負担が倍になった感じなのは……。
大変だなー、と思っているとこちらにゆっくりのっそりと歩いてくる影に気付く。
それはシフとアルと比べて、ちょっと丸い猫であった。
シフがすらっとしているとしたら、その子は毛並みもフワフワだが、全体的に丸い印象がある。
その子はゆっくりと、セーラさんの前にまで辿り着くと、眠そうな目で彼女を見上げる。
「はじめましてだな。あるじどの」
「うんうん、君が私の使い魔かな?」
「うむ、このような鈍足ではあるが、よろしく頼む」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げた猫に何を思ったのか、しゃがみこんだ彼女は猫の頬を軽くつまむ。
「むぐぐ」
「うーん! 仏頂面だけど、それがいい! 君はシフとアルみたいなことができるのかな!?」
「我は変身はちょっと遅いが、火、風、治癒の三種類の支援魔術が使えるぞ」
「……できる子だね、君!」
「毛並みをわしゃわしゃするでないー」
すっごいわしゃわしゃされてる黒猫。
な、なんだあの丸い凶器は……! 性格、見た目、全てが噛み合いすぎて辛すぎる……!
いつの間に肩に飛び乗ったシフに、ぺしぺしと猫パンチされながらも丸い黒猫さんに目を奪われる。
「か、かかか、かわわ……」
そして、それは隣にいるイオさんも同じことを思っているのが分かってしまう。
口元に手を当て、湧き上がる感情を処理しきれていない表情をしているイオさん。
そんな彼女に気付いたのか、丸い黒猫さんを持ち上げたセーラさんは、イオさんに差し出した。
「はい、イオ!」
「む?」
「セーラ様……!」
恐る恐る受け取られた黒猫さんは、イオさんを見上げるとのほほんとした様子のまま挨拶をし始めた。
「よろしく、あるじの従者よ」
「———!」
「うむ、苦しいぞ。だが悪くない」
感極まって黒猫さんを抱きしめたイオさん。
だがそれでもマイペースさを崩さない黒猫さんの様子に、思わず笑みを浮かべていると近くにいるリーファが腕を広げて何かを待ち構えていることに気付く。
「リーファ、何してんの?」
「私の使い魔を待ってる」
「あれ? 聞いてなかったのか? 君と相性のいい子がいないって」
「……え?」
それぞれの勇者にあてがわれた子達は、みんな勇者と相性のいい能力を持っている。
だけど、リーファに関してはサポートをする余地がなく、なにより能力が自己完結しているので、逆に使い魔の存在が邪魔になってしまうということから使い魔をあてがわれないことになったのだけど……。
「寝てて聞いてない……!?」
「いや、起きてろよ」
「寝てる私に配慮してよ……!」
「こんな理不尽ある?」
めっちゃ理不尽に怒られた気がする。
リーファになにを思ったのか、チサトがアルの両脇を持ち上げ、リーファに見せつける。
「見て見て、リーファっ! 可愛い!」
「キレそう」
どうして煽りに行ったの?
ぐるぐると唸りだすリーファを押さえながら、改めて勇者達とそれぞれにあてがわれたシフの兄弟たちを見る。
チサトとアルのように、人間と絆を結ばせる。
当分の間は、リオンさんがサポートしてくれるようだけれど、この選択が彼らにとってよりよいものになることを、今はひたすらに祈るだけだ。
使い魔達の個性が押し寄せてくる……!
なお、セーラさんはどんかわ系猫により超強化された模様。




