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第百八十六話

第百八十六話です。

 魔王軍幹部ニーアの傍に現れた大きなオオカミ。

 実体を持つソレは地面を踏みしめながら、真っすぐに僕を睨みつけている。


「ニーア! ハクロに、なにをした!」

「大したことはしてないよ? 短い時間だけ私の言うことを聞くように調整しただけ」


 調整だと……?

 ハクロの本体は完全にニーアの支配下にあるということか。

 風の精霊は本来縛られることのない現象のようなもの……とシフから教わっている。


「リーファ、二人で行くぞ……!」

「うん! 姉さんに好き勝手させるわけにはいかない!」


 今の理不尽に縛り付けられているハクロは苦しんでいるように見える。

 早く解放させてあげたい。

 そのためにハクロと戦う覚悟を決めながら、ニーアを睨みつける。


「やる気十分だね。なら、始めよっか!」


 ニーアの持つ双剣が氷に包まれ、手と一体化するような大きな刃へと変わる。

 それを大きく振るった彼女は、僕とリーファの視界を覆いつくさんばかりの白い冷気の波を放つ。


『ウォォーン!!』


 彼女の技に合わせてハクロが風を発生させ、冷気の波を吹雪へと変える。

 地面を凍てつかせながら迫る吹雪を前にして、僕とリーファはすぐさま行動に移る。


「カイト!」

「頼む!」


 リーファが僕の肩に触れると同時に、彼女の転移によって吹雪から逃れる。

 転移した先は、ニーアの影。

 彼女の背後から僕とリーファは攻撃を仕掛ける。


「分かってるよ!」


 振り向きざまに氷の剣を振るったニーアが、僕の振るった剣とリーファの爪を弾く。

 彼女の身に纏う冷気で、吐息すらも白く染まる。

 このまま普通に戦っていても寒さで体力を奪われる……!


「シフ!」

「おう!!」


 曲刀へと変化させたライムに炎を纏わせ、遠心力に任せてニーアへと振るう。

 これぞ暖もとれるし、攻撃にも転じることのできる形態。

 名付けるなら―――、


「あったか魔剣!」

「あ、あったか……!?」

「カイト! 力の抜けること言わないで!」


 呆気にとられるニーアと、なぜか怒るリーファ。

 僕は至極真面目である。

 冷気を炎で切り払いながらニーアへ斬りかかろうとすると、側方から凄まじい速さで何かが襲い掛かってくることに気付き、咄嗟にユランの魔力の盾で防御する。


「くぅッ、ハクロか……!」


 ガギィン! とすれ違いざまに叩きつけられ爪が、魔力の盾に三本の傷を刻みつける。

 まともに食らえば、ただではすまない……!


「リーファ、ハクロの攻撃に気をつけろ!」

「分かった! ……影槍!!」


 ニーアから一旦距離をとったリーファが自身の影から漆黒色の槍を出現させる。

 地面から繰り出されるそれらに対して、ニーアは冷気を放ち―――空中に氷の槍を出現させる。


「氷槍!」


 二人の間で影と氷で作られた槍が激突する。

 リーファとニーアの今の姿は、純魔覚醒による同一のものだとすれば扱う技もどこか似通っている部分がある。

 ———ッ!


「カイト、危ない!」

「くっ!」


 再びすれ違いざまに繰り出される前足での攻撃。

 黒猫さんのマフラーによる防御と、ユランの魔力で防御するが芯に響く衝撃に思わず呻いてしまう。

 僕は炎を纏わせた曲刀を握りしめながら、その場を駆けだす。


「ハクロ!」


 曲刀の刃に左手を添え、ハクロの風を纏わせる。

 風により炎がさらに燃え上がったところで、回転と共に曲刀を大きく振るい炎による竜巻を、ニーアへと放つ。


「ッ、それはまずいね……!」

「逃がさない……影沼!」

「その技は見たよ!」


 リーファの伸ばした影から逃れながら、炎の竜巻を避けたニーアは着地と同時に僕へと標的を変える。

 ———ッ、ハクロがリーファに向かっている!

 なら、次は僕がニーアの相手か!


「やっぱり君は連れていきたいなぁ!」

「嫌だ!!」

「……。ふっ、普通に拒まれると傷ついちゃうなぁ!!」


 突き出される氷の剣を曲刀で受け流しながら、続けて振るわれたもう片方の剣を左腕の盾で止める。

 黒猫さんの援護による斬撃すらも涼しい顔で弾かれてしまうあたり、リーファ以上に打たれ強い……!


氷玉(こおりだま)

「ッ!」


 ノーモーションで繰り出されたのは、空中に浮かんだ氷の礫。

 僕の頭上から重力に従って落下するそれらは、黒猫さんのマフラーが防いでくれる。


「おぬしは防御に専念しろ!」

「分かってるよぉ!」


 飛んでくる攻撃は黒猫さんに任せて僕はニーアに集中する。

 だが、このまま普通に武器を振るってもニーアに有効な攻撃を与えることはできない。


「ならば、ユラン! アレを使う!!」

「シャァー!」


 左手に曲刀を持ち換え、その刀身をユランの魔力に覆ってもらう。

 紫色の鱗模様の魔力によってコーティングされた曲刀と、ニーアの振るった氷の剣がぶつかり―――ユランの魔力が、ガラスのように砕け散る。


「ッ、なに!? 危なっ!?」


 砕け、弾けた魔力が、ニーアへと襲い掛かる。

 慌てて冷気で魔力の欠片を防ぐ彼女に、続けて魔力の壁を作り出す。


「魔力の盾は、こんな使い方もできる! ウォールクラッシュ!!」

「君、本当に多彩すぎない!?」


 ユランに作ってもらった魔力の壁に、拳を叩きつけ散弾のように砕けた魔力を飛ばす。

 リックさんの砕罅剣を参考にした技だ。

 攻撃範囲も応用性も彼には到底及ばないが、真似事くらいはできる!


「氷壁!」


 氷でできた壁で砕けた魔力の欠片を防ぐニーア。

 猪口才な……!


「ぶっ壊す!」

「なんで君は壁を見ると壊したくなるの!?」


 なんでだろうか、やはりウィルさんの魔法の壁を壊そうとやっきになっていたからかもしれない。

 先端の尖ったハンマーから炎を噴出させながら、氷の壁に叩きつけそのまま破壊する。


「ぬぅん!!」

「く、ふふふ!」


 肉体強化に任せて拳を振るうも、それは真正面からニーアは受け止める。

 やはり身体能力も高い……!


「カイト! そっちにハクロが行ったよ!」

「チィ! フンッ!」

「危なぁ!?」


 とりあえずヘッドバッドをニーアへ繰り出し、無理やり距離を取らせたあとに背後から襲い掛かってきたハクロの飛び掛かりを、ライムをハンマー状態にさせたまま受け止める。

 上から叩きつけるような一撃に、足元が陥没するほどの衝撃を受ける。


「う、うぐぐ……!」

『グルルル……!』

「ハクロ、正気に戻ってくれ……!」


 僕を押し潰そうとするハクロの瞳には何も映ってはいない。

 これでは、まるで意志のない獣だ……!


「カイトはやらせない!」

『ッ!』


 影を伴いながら爪で襲い掛かるリーファを察知したのか、ハクロは僕から離れて後ろに下がる。

 ニーアも一時的に離れたところで、僕は軽く呼吸を整える。


「ハクロが厄介だな」

「私よりカイトの方が相性がいいかもしれないね。……私が姉さんの相手をするから、カイトはハクロの相手を頼める?」

「分かった。寒さには気をつけろよ?」

「いざというときは、頼る」


 リーファに頷きながら再び武器を構える。

 相手は間違いなく強敵ではあるが、最初の時と比べれば格段に戦えているはずだ。

 あとは活路を見出していけばいい。

あったか魔剣……!(迫真)

ニーアに対して有効な技なのが余計に性質悪いですね……。



土日の更新はお休みなので、次回の更新は月曜となります。

次回の更新をお楽しみにー。

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― 新着の感想 ―
[一言] >君、本当に多彩すぎない!? 治癒魔法しか使えないはずなのに訳のわからないことする治癒オーガよりはましよ。
[一言] あったか魔剣...さすがや。ニーアに脱力デバフをかけるとは(味方にもかかってるって?ハハッキノセイサ)
[良い点] >あったか魔剣 なんかドン引きを超えて新境地が開拓された瞬間のようなナゾの感動を覚えました。 そうか・・・暖かいなら仕方ない・・・(;゜Д゜) 壁を壊したくなる主人公の習性、とても良く解…
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