第百八十五話
第百八十五話です。
……いつの間にか二百話超えていたことにびっくりしました。
姿は見えなかったけれど、チサトと多分セーラさんの援護を受けながら広場に到着した僕は、殺到してくる魔物達を相手にしていた。
グリフォン、リザードマン、グロウウルフなどなど。
僕がこれまで戦ってきた魔物から初めて見るやつまで、色々な魔物がいるが、その全てに共通することは主に人間を獲物にしていることであった。
この時点では話が早かった。
ただ僕がここで戦い、体力の続く限り魔物達をたたきのめせばよかった。
だが、事態はそう思い通りには動いてはくれなかった。
「———ッ」
「ガァァ!」
グロウウルフの背後からの飛び掛かりが、ジャケットの裾に掠りそのまま傷つける。
最後の一着となってしまったお気に入りのジャケットを傷物にされた僕は激怒した。
「貴様ァァ!! ダブル! 純魔サンダー!!」
「ギェェ!?」
シフと黒猫さんの持つ電撃の支援魔術を同時に発動し、両手から放つ。
一つで強いならば、二つなら単純に威力二倍!
「さらに僕の激怒パワーによりさらに二乗!」
「それはおかしいと思う!」
「私もそう思う!!」
両手を周囲へと向けて電撃をまき散らしながら、近づいてくる魔物達を感電させる。
まだまだ魔物の数は減らない!
ここからは体力と魔力の温存のため剣と体術で立ち回って―――、
「ッ!」
「カイト、どうした!?」
襲い掛かってきた二体のリザードマンの首を極め、無理やり意識を落とさせながらこちらに近づく強烈な気配を感じ取る。
……リーファか?
いや、違う、これは……。
リザードマンを地面に放り投げながら、剣の状態で引き抜いたライムを背後へと振るう。
瞬間、凄まじい速度でこちらに接近してきた何者かが振るった“双剣”と剣が激突する。
「ッ! お前は!!」
「見ない間に本ッ当に、いい成長したねぇ! カイト君!!」
「ニーア!」
リーファとは対照的な真っ白な髪色と頭の獣耳が特徴的な少女、ニーア。
最初に僕に襲撃をかましてきた魔王軍幹部であり、リーファの実の姉である。
ギリギリ、と鍔迫り合いをしている僕に、興味津々といった視線を向けた彼女は、次に周りの魔物達を見て口の端を歪める。
「ちょっと周りの魔物が邪魔だね!」
「何を―――」
そこで一歩下がったニーアが、彼女の得物である双剣に強烈な冷気を纏わせていることに気付く。
直感的に危険と感じると同時に、双剣が地へと振り下ろされ大量の霞が周囲へとまき散らされた。
それらは地面、空気、魔物達を凍てつかせながら僕へと迫る。
「皆、防ぐぞ!」
ニーアと同じように剣にシフの炎、ハクロの風を纏わせ地面に叩きつけ、さらにその上で冷気を防ぐべく、左腕にユランの長方形の盾状の魔力を作り出す。
前面に熱気を放ち、冷気を相殺させながら黒猫さんのマフラーで冷気を吸わないように口元を隠す。
「……」
霞が晴れるとその場には凍り付き動かなくなった魔物達と、双剣を握りしめたニーアが嬉し気な様子で僕の前に立っていた。
「これでしばらく邪魔は入らないね」
「……」
魔王軍幹部ニーア。
僕にとっての最初の試練であり、割と本気で死を覚悟させられた敵である。
彼女がなぜここにいるかは今更問うまい。
どうせ、この戦いに乗じて僕とリーファにちょっかいをかけにきたのだろう。
だが、僕にとってはある意味で都合がいい……!
「君に、会いたかったぞ……!」
「えっ、そうなの? え……えへへ、そういうことならもっと早く会いにくるべきだったかなー?」
なにを照れているのかは知らんが、僕には個人的な恨みとか用事とかが沢山あるんだ。
一転して照れるように髪の先をいじりだしたニーアに、僕は以前から問いかけようとしたことをすることにする。
「イリスさん、というハーフエルフの名を知っているか?」
「……え、なんで君がイリスのことを知ってんの?」
「……!!」
「いや、なんで怒ってるの……?」
歯を食いしばる僕に、本当に意味が分からないといった様子のニーア。
だが、僕達は知っているのだ。
イリスさんが魔王軍に受けた仕打ちを。
「知っているぞ……! 君が魔王軍でイリスさんに酷い目に合わせたということを!」
「いや、酷い目……には合っているけど、それをなんで君が知っているのかが分からないんだけど……?」
「イリスさんは僕達にとって、かけがえのない仲間だ……!」
「なにやってんのあいつ!?」
僕達のためにメリアの足止めを引き受けてくれた恩人でもある。
どうやらイリスさんのことをしっかりと覚えているニーアだが、彼女にしたであろう仕打ちに関しては全く自覚がない。
「か、カイト君! イリスと私はね! 友達なの!」
「もう喋るな、これ以上の言葉は不要」
「戦うのは大好きだけど、誤解されたままなのは私も嫌なんだけど!?」
誤解以前にニーアには、色々と因縁もある。
僕個人のものではなく、僕の内にいる精霊の欠片―――ハクロとの因縁だ。
「ハクロの本体も解放させる……!」
槍へと変形させたライムを握りしめ、腰を低く落とす。
僕の構えに合わせて、表情を切り替えたニーアは双剣を構える。
大きな踏み込みと共に、ニーアへと接近し槍を突き出す。
「いい一撃!」
「そこぉ!」
「おっと、新しい使い魔かな!」
槍を真正面から防ぎ、マフラーによる斬撃に初見で反応し、双剣で弾く。
リーファと同等以上の身体能力と、たくさんの戦闘経験からの対応力。
最初の戦闘から成長した今だからこそ、彼女が生半可ではない技術と戦闘力を持っていることを再認識する。
「なら、加減はなしだ!」
剣へと変形させたライムを逆手に持ち、斬りかかる。
対応できない攻撃は左腕の魔力の盾でいなしながら接近戦を誘う。
「あの時とは全く違う! 短期間で信じられないくらいに成長してるね!」
「それだけの修羅場を潜ってきたからな!」
僕自身の攻撃とマフラーの攻撃。
それらをいなし、後ろへ下がろうとしたところで、高速で大鎌へと変形させたライムに風と炎を纏わせて横薙ぎに振るう。
「炎刃ハクロ斬!」
「ふふっ! 危ない!」
迎え撃つように冷気が振るわれ、炎と激突する。
だが僕の攻撃は終わってはいない。
自身に戻したハクロを左拳に宿しながら、電撃を纏わせもう一度放つ。
「食らいつけ! ハクロ!!」
「ワォォーン!」
魔力により一回り巨大化したハクロは、電撃を纏いニーアへと襲い掛かる。
さすがに面を食らった彼女は、地面に手をつくと冷気で壁のようなものを作り出した。
「強制形態変化、霞熊・往生!」
冷気の壁は、ハクロの突撃を真正面から受け止め―――その衝撃と電撃を完全に防ぎきる。
見て分かるほどに堅牢な防御力を有する技。
それを確認すると同時に、ライムを槍へと変形させ、それを肉体強化の力でぶん投げる。
「ライムゥ! 杭槍!!」
「キュッ!」
「これを壊そうとしてる……!?」
突き進んだ槍の先端は、壁に勢いよく突き刺さる。
だがそれも突き刺さるだけで破壊には至っていないが、そこに全速力で槍に追随した僕の蹴りが、槍の柄尻へと叩き込まれる。
「オラァ!」
「えええ!?」
半透明の壁の先にいるニーアの表情が驚愕に彩られる。
してやったりな気持ちになりながら壁を粉砕した僕は、ライムを手元に戻す前にニーアへと飛び蹴りを仕掛ける。
「食らえい!」
「わ、わわっ!?」
身を翻して蹴りを避けたニーアは、着地と同時に縦拳を僕のみぞおちへと叩き込んでくる。
重い衝撃―――だが、それは肉体強化で引き上げられた身体能力を突破するに至らない。
「手加減しているのか?」
「ッ、君、タフになりすぎじゃないかな?」
「黒猫さん、ライム! 拘束!」
「しま―――」
気づかれないように足元に移動していたライムと、黒猫さんの変身したマフラーが同時に動き出し、ニーアの身体を縛り付ける。
「ハッハァ! 油断したなァ!!」
「ひ、卑怯だよぉ!?」
「魔王軍幹部が何言ってやがる!!」
身動きを封じさせたニーアに、電撃を纏わせた手刀を振るう。
このまま意識を奪って、リーファの前に引きずりだして、強制家族会議にさせてやるわァ!!
「なら、ちょっとだけ本気を出そうかなっ!」
「ッ!」
手刀が迫る直前に、ニーアの身体から凍てつくような冷気の風がふぶいてくる。
そのあまりの冷気に、彼女の身体を拘束していたライムと黒猫さんが、弾き飛ばされる。
「か、カイト、ごめん!」
「キュー!」
「いや、無理に拘束してたら君達の身が危なかった。……まあ、リーファの姉だっていうなら、同じことができて当然だよな……」
一旦距離を取り、白い霞に包まれたニーアを見据える。
リーファが黒い影を纏うとしたら、ニーアは白い冷気を纏うって感じか。
白い霞が消えると、そこには四肢が冷気で覆われたニーアが現れる。
冷気で形作られた尻尾も伸びており、いよいよリーファの純魔覚醒と同じ形態へと変貌していた。
「こっからが本番だな」
今までのがニーアにとってウォーミングアップみたいなものだろう。
そもそも最初の戦いからして、彼女は手加減をしていた。
今一度気を引き締めていると、また新たな影がこちらへやってくる。
―――慣れ親しんだ気配に、笑みを浮かべる。
「遅いぞ、リーファ」
「カイトが動き回ってるからでしょ……!」
僕の影から姿を現したリーファは、ニーアを強く睨みつける。
「久しぶり、リーファ♪」
「姉さん……!」
ニーアと同じように魔物の力を解放したリーファが影を纏う。
「貴女も強くなっていることだろうし、ちょっとだけ分が悪いかな?」
「手加減はしない……! ここで捕まえてやる……!」
「ふふふ、なら捕まらないために、私も相棒に助けを求めちゃうかなー」
僕とリーファを見たニーアがおもむろに、冷気に包まれた左手を掲げ、なんらかの力を籠める。
瞬間、ニーアのすぐ傍に風が吹き荒れると同時に―――ソレは現れた。
「……ハク、ロ」
「そんな、まさかおぬしが……」
3メートルを優に超える大きな狼。
———風の精霊。
ハクロの本体であり強大な力を持つ存在が、僕達に牙を剥いていた。
「これで二対二だね! さあ、楽しもう!!」
『ウォォォン!!』
完全にニーアに操られているのか、並々ならない敵意を僕に向けてくるハクロに、僕は苦渋のままに武器を構えるしかなかった。
ダブル純魔サンダーというお気にのジャケットを切り裂かれた怒りで編み出した技。
威力二倍なのは本当です。




