第百八十四話
第百八十四話です。
セーラ、シュラちゃん、ジャンさんと共にパーティ会場を脱出した私は、空の船からの砲撃と魔物達の襲撃から街の人々を守るためにある場所へと移動していた。
「ワタシを連れてきたかったのは、魔法で存在を隠してほしかったからか。うひ!? おいハゲ野郎、ワタシに攻撃を届かせるなよ! 恨むからな!」
「へいへい分かってますって」
魔法を発動させていたシュラちゃんを守るように武器を構えるジャンさん。
彼らのサポートを受けながら、水での移動を続けていると傍らで魔筒を構えているセーラが声をかけてくる。
「チサト、どこに向かっているか聞いてもいいかしら?」
「水のあるところ。具体的には、公園の噴水」
「なるほどね。貴女の能力を最大限に発揮できるし、何よりあの開けた場所なら思う存分に暴れられるってことね」
「察しがよくて助かる」
そしてもう公園はすぐ近くにある。
公園が間近に迫ったところで移動用の水を解除させた私は、噴水に手を差し入れ魔力を混ぜ込む。
「シュラちゃん、私と貴女が組めば最高の暗殺チームになれるわね!」
「ワタシ勇者なのだけど!?」
後ろではシュラちゃんの魔法で存在感を消したセーラが、魔筒から矢を打ち込み周囲の魔物を倒している。
言われなくてもセーラは既に自分の役割を理解している。
リーファとカイト君とはまた違った頼れる仲間って感じだ。
「そして、私も……!」
ある程度噴水から流れ出る水に自身の魔力を混ぜ込んだ私は、それらを一斉に操作する。
周囲の水路が破裂し、勢いよく水が地上へと打ちあがる。
「チサト!? 貴女も街を破壊してるけどどうするの!?」
「これも必要な破壊だから! ここにいる皆が黙ってれば真実は闇に葬られるから!!」
「そういうの嫌いじゃないわ!」
セーラと軽口を交わしながら、空へと手を伸ばして水を操作する。
浮き上がった水を柱のように空へと伸ばして大きく広げる。
配置を終えたら―――頭上の船から放たれる魔力の砲撃を、水をぶつけて相殺させる。
「まだだよ!」
砲撃だけじゃない。
空を飛ぶ魔物も、伸ばした水で絡めとり地面へと落とす。
このまま都市への被害を押さえながら、魔物も掃討していく。
「おお、すげぇなフィルゲンの勇者は。お前もできねぇのか?」
「無茶言うなこのハゲ! ワタシの魔法知ってんだろ!?」
「まー、適材適所ってやつか。我が主は、人の目を忍ぶのが得意だからな」
「暗に陰気扱いすんな!」
喧嘩こそしているが、上の対処に集中しなくちゃいけない私の存在を隠してくれるのは非常にありがたい。
「さーて、私もどんどん射抜かせてもらおうかしら!」
腕を大きく振るったセーラが、多数の魔力の矢を自身の周囲に作り出す。
浮かんだそれらを目にも止まらない速さで魔筒から放ち、空と地上にいる魔物達を射抜いていく。
「だけど、これでも都市の全てをカバーできるわけじゃない……!」
砲撃もそうだけど、魔物は都市の至る場所に散らばってしまっている。
ここにいる魔物なら対処できるが、それ以外となると手が届かない。
そのままひたすらに空からの砲撃を防ぎ、魔物を片付ける時間が過ぎていく。
「ッ! チサト!」
「どうしたの!?」
五分ほど過ぎた頃に、セーラが空に集中している私に声をかけてくる。
依然として魔物達の注意はこちらに向けられていない。
なにかアクシデントでも起こったのか? と思い振り返ると、彼女は魔筒に矢を装填しながら声を張り上げる。
「魔物達に異変が起こったわ!」
「なに!?」
「なにかに引き寄せられるように移動を始めたの!」
セーラの言葉に地上の魔物達を見ると、たしかに魔物達はある一方向を見て駆けていくのが見える。
何かに引き寄せられる……?
気づけば、周囲全ての魔物達は何かに触発されるように雄たけびを上げる。
思わず身構えたその時、公園内の林から魔物とは別の何かが飛び出してくる。
「オオオォォォ!!」
「……カイト君?」
飛び出してきたのは、パーティに遅れてやってくるはずだったカイト君であった。
リーファとは合流できなかったのか、一人で行動していた彼は左腕にリザードマンを引っかけながら、私達のすぐそばの地面にその体を叩きつける。
「ふしゅぅぅぅ……、電撃ラリアットォ……」
「「「……」」」
シュラちゃんの魔法で私達の存在に気付いていない。
すぐに教えればいいのだが、腕に電撃を帯電させながら、色々とすんごい顔をしている彼の姿にこの場にいる誰もがドン引きしていた。
「「「ジャァァ!」」」
「カイト! なんだか知らんがここに既に魔物が集まっているぞ!」
「好都合! この先の広場で迎え撃つ!!」
「前から来るよ!」
シフの声と、彼とはまた別の声がカイト君から聞こえる。
あれ? カイト君、いつの間にそんなお洒落なマフラーを? 君のセンスじゃないよね、それ。
現実逃避気味にそう思っていると、彼の背後から数えきれないほどの魔物が飛び出してくる。
あまりにも尋常じゃない数を見て、彼がなぜ広場にやってきた理由を察する。
「まさかカイト君は……セーラ! カイト君を援護して!!」
「そういうことね! 本当に無茶だけど、これもまた嫌いじゃないのよね!!」
カイト君は施設内にいる魔物を広場に誘き寄せている。
その理由は多分、施設内にいる人たちと―――周囲の建物に避難している人達のためだろう。
彼の性格なら、一人でそうしようとしても不自然じゃない。
セーラの放った矢と、私の操った水がカイト君を追う魔物に殺到する。
「———援護!? どこから!」
「カイト君! 今魔法で姿が見えないけど、近くにいる!」
「チサトか!」
「こっちからも援護する!」
「助かる!!」
迷いなく頷いた彼はそのまま離れた広場に向かって走り出す。
頭上から彼に襲い掛かる数体のグリフォン。
すぐさま水で撃ち落とそうとするが、それよりも先に彼が跳躍し―――首に巻かれたマフラーの先端が鋭利な刃物のように変化し、一体のグリフォンの翼を切り裂いた。
「え、なにそれ」
シフ? いや、シフは帽子の姿で頭にいる。
ならあの黒いマフラーはなに?
翼を失いバランスを崩したグリフォンの首を剣で切り裂いたカイト君は、その体を足場にして左拳を構える。
「ユラン!」
「シャァァ!」
掌に浮かぶ鱗模様の魔力。
それらを横に振るうと、空中に盾のように展開され、グリフォンの吐き出した炎を防ぐ。
「次! 黒猫さん!!」
「な、なに!?」
「カイトはおぬしを腕に纏わせろと言っているのだ! 分からぬのか!」
「言わなきゃ分からないよぉ!?」
シフと同じような声がマフラーから響くと同時に、マフラーがカイト君の腕に巻き付く。
腕から剣のようにマフラーの先端が伸びたことを確認したカイト君は、右手の剣と合わせてグリフォンの首を挟み込むように突き刺し、その息の根を止める。
二体目を倒して彼は、最後の一頭へと狙いを定める。
「オオオォォ! 炎のハクロパンチ!」
「グェェ!?」
凄まじい気迫と共に飛び掛かった彼は、炎と風の纏った拳をその顔面へと叩きつけ、一瞬でグリフォンの意識を奪ってしまった。
「——よし、先を急ぐぞ」
そのまま地面に着地した彼の後ろには三体のグリフォンが地面へと落下する。
後ろを一瞥するまでもなく、先へ走っていく彼の姿に、セーラとシュラちゃんがこちらを見る。
「チサト、やっぱお前の従者おかしいぞ」
「こういう時、頼れるわねぇ。どっちが魔物か分からないけど」
「フッ、誉め言葉かな?」
私としては鼻が高いだけである。
とにかく、カイト君が純魔の魔力で魔物を惹きつけてくれるのなら、私達はひたすらに魔物達の相手を―――ッ!!
「……!」
悪寒のようなものを感じ取り、周囲を見回す。
セーラも同じものを感じたのか、魔筒を構えているがその“何か”は私達の存在に気付かないのか、それともあえて無視したのかは分からないが、一瞥もせずに駆けて行ってしまった。
「大変……カイトの方に向かって行ったわよ」
「うん」
微かに見えたのは白い人影。
まるで、リーファやカイト君のような人間離れした身体能力だった。
もしかしたら、さっきの人影は……。
すると、カイト君が向かった広場のある方向で金属が打ち合う音が響き―――それと同時に、白い靄のようなものが噴き出すように、その空間に溢れ出すのであった。
徐々にエンジンがかかってきたカイトでした。
リーファは動き回るカイトの翻弄され、出遅れてしまった模様。
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本日『無能狩人の事件記録~境界に立つ者~』の投稿を開始いたしました。
現在、五話まで更新。




