第百八十話
第百八十話です。
魔王軍の襲撃。
会場の天井に空いた穴から大量の魔物と、魔物の背に乗った魔王軍の兵士の集団が入りこんでくる。
その隙間から見える空には、海賊船のような雰囲気を抱かせる巨大な船が浮かんでおり、下方に設置された砲身から魔力で構成された砲撃をセントレアルに放っている。
「———ッ、私がいるここで、好き勝手できると思うな!」
潤沢な魔力に任せ、大量の水を発生させそれらを上へと向かわせる。
続けて入りこもうとした魔物を水で押し飛ばしながら、空から迫る魔力の砲撃を防御する。
「……ここからじゃ、街の砲撃は防げないか……!」
襲撃されているのはここだけじゃない。
あの船からの砲撃と、降り立った魔物はセントレアル全域に被害をもたらすはずだ。
会場に降りた兵士と魔物達が私達に牙を向く。
突然の事態ではあるが、ここに集まったのは各国で最も素質のある者として選ばれた勇者達だ。
「———たかが荒くれもの風情が! この俺に牙を向こうってのかよ!!」
勇者の一人、ヘキルが鬱憤を晴らすかのように放たれた電撃と突風が魔物達を吹き飛ばす。
続いて奥から襲い掛かる兵士を、フレイが腰から引き抜いたレイピアを振るい、衝撃波を繰り出し追撃していく。
勿論、私もリーファも負けじに応戦する。
「行くよ! リーファ!!」
「うん!」
同時にいくつも枝分かれした影と水を放ち、魔物を貫き兵士の動きを止めていく。
この場にカイト君がいれば、もっと連携ができたのだけど……彼は今ここにはいない……!
「やっぱり、チサトさんだけ魔法使いとしての素質そのものがずば抜けていますねぇ」
「マリーナ……!」
「カリーナですって。……んんっ! そろそろ敬語で話すの疲れたから、いつもの感じに戻そ」
壇上の上で愉快気にこちらを伺っているカリーナを睨みつける。
優し気な表情はなりを潜め、サディスティックに口元を歪めた彼女は、戦っている私達を見下ろした。
カリーナの後ろには、魔王軍幹部らしき人物が三人ほどおり、一目でそれなりの実力者だということは分かる。
「カリーナ。貴女は、この都市を気に入っていたのに、どうしてこんなことを?」
「どうして? どうしてって……」
頬に手を当てた彼女は、蕩けた笑みを浮かべる。
「綺麗なものって傷つけたくなるから」
「———は?」
「ここって綺麗よね。もう、白くて無駄がなくて……とっても、気に入らない。だから壊すの、バラバラの瓦礫にして、人も物も建物も皆、ぶっ壊して私色に染めるの」
あっ、この人やべぇ人だ。
あの髭オヤジ、デウスが割かしまともに見えるくらいにおかしい人だ。
「チサト、もしかしてこの人っておかしい……?」
「もしかしなくてもおかしいと思う」
「貴方達、お人形さんみたいに綺麗だから、壊し甲斐がありそうね」
「誰が人形、私は人間! お前変人、私常人!」
「チサト、どうしたの……?」
動揺のあまりラップ口調に……!?
うっとりとした顔でそう言葉にするカリーナにドン引きしていると、彼女の後ろにいる男か女か分からない中性的な人物が声をかける。
その頭に生えた獣を思わせる耳と尻尾から、獣人だということは分かる。
「いつまで無駄な話をしているんだい? 君の性癖とかどうでもいいから、さっさと戦おうよ」
「チッ、うるさいわね。クソ獣人」
「あー、あー、いいの? 僕にそんなこと言って、今魔王軍で一番成果上げてるこの僕にそんな不敬な態度とってもいいのかな?」
声もボーイッシュな女の子じみた声質だが、その言動が人を小ばかにするような感じがありありと感じさせる。
その声を向けられていない私でさえもイラっとしていると私達と一緒の場所にいた―――この場において最年長の勇者、フィグロさんが並々ならない怒りの声を上げる。
「プレガス……!」
「おや、おやおや、君はこの僕に大事な国を壊滅させられたフィグロじゃないかぁ! 君が不甲斐ないせいで大怪我をした相棒さんは元気にしてるかなぁ?」
「……ッ!」
フィグロさんの声に気付いたプレガスと呼ばれた魔王軍幹部は嘲りの笑みを向ける。
「あっ、ごめんね! 僕が人質にしたせいだよねぇ! でも、口約束だから別に君の相棒を助ける義理なんてなかったわけだけど、僕に怒らず、君の愚かさと弱さを恨んでね!」
「……、……ッッ」
ここで跳び出すわけじゃないのは分かっているのか、フィグロさんは怒りの形相のまま踏みとどまる。
まだ魔物は続々と上からやってくる。
もしかして、あの船が野生の魔物を連れてきたのだろうか……?
それならこの異常な数にも説明がつくが―――、
「なんだあいつぶっ飛ばそう」
「ええ、そうね。あのしたり顔を吹っ飛ばしてやりましょう」
それを考えるよりも先に、今にも無計画に攻撃を仕掛けだしそうなリーファとセーラを止めなければ。
私とイオで二人を止めながら、水を放ち迎撃をしているとカリーナの方から断片的な会話が聞こえてくる。
『……アリハラ・カイトがいない』
『彼はタイミング悪く、ここには来なかったわよ』
『……奴が独断で動いたのはそのせいか。クソ、出遅れたか』
———カイト君を探している?
話しているのは一人だけ黒装束を纏っている正体不明の何者かとカリーナだ。
魔物達を迎撃しながら、かろうじて幹部達の声を耳にしていると、一緒にいるリーファが私に話しかけてくる。
「チサト、姉さんが来てる!」
「リーファのお姉ちゃんって……」
「そう、あのゴリラ!」
ゴリラって言い方はどうかと思うけど、たしかリーファと同じ魔物混じりでかなりの実力を持っていると聞いた。
「分かるの……?」
「近くにいるのを感じる。これまでなかったことだけど、それは確か。多分……カイトを狙ってる!」
「根拠は!?」
「純魔美味しい!」
「把握できてしまった……!」
その言葉だけで分かってしまうヤバさ。
それって割と本気の危機なのでは!?
「ガァァ!!」
「ッ!」
私達の攻撃をかいくぐり襲い掛かってきた赤いハイエナのような魔物。
咄嗟に水を放とうとする前に、横から突き出された銀色の剣が魔物の首を貫く。
そのまま魔物を蹴り飛ばした男、フィグロさんは私達の前に立つと―――魔法で作り出したと思われる銀色の剣を槍へと変形させながら、こちらへ話しかけてくる。
「話は聞こえていた。君達はカイトを助けに向かうべきだ!」
「っ! でも!」
「奴らの目的は俺達という戦力を一か所に留めておくことだろう。俺も同じことをやられたからな……だからこそ、君達は彼と合流し、都市に入りこんだ賊の対応をしてもらいたい! 今の状況で、勇者と同じかそれ以上の力を持つ彼の力が必要だ!!」
土系統の魔法なのか、鉄を操りながら魔物へと武器を振るうフィグロさん。
彼の姿を見てから、共に戦っている勇者達を見ると、皆一様に頷いてくれる。
……よし!
「分かりました! リーファはカイト君と合流!」
「うん、チサトは!?」
「私は上からの攻撃と、空を飛ぶ魔物をなんとかする!」
「別行動ってわけだね……!」
こくりと頷いたリーファは、自身の影に飛び込み、そのまま魔物の足元を通って最短距離でこの場から離れていく。
よし、私も宣言通りやらなくちゃいけないけど、ここでは無理だ。
私自身の魔力だけでは空からの砲撃も魔物の相手する分がない。
「水場のある場所なら心当たりがある! シュラちゃん! ついてきてもらってもいいかな!」
声をかけるは、先ほどから後ろで右往左往としているフードを目深に被った勇者、シュラちゃんだ。
彼女の前に従者であるジャンという人もおり、私の声に驚いた様子を見せている。
「ああ!? なんだお前! ワタシは勇者だけど戦闘向きじゃないから、連れて行くならこの肉盾のハゲ野郎を―――」
「貴女の力が必要なの!」
「え、ワタシ必要とされてる……? しょ、しょうがないなぁ! いつもは消極的で不意打ちしかしないワタシも頑張る時がきたってわけだ! いくぞ、ハゲ野郎!!」
「そのチョロさでよく生きてこれたなお前……」
一瞬でやる気になった彼女が了承したことを確認したから、私と彼女達の足元に水を作り出す。
このまま天井から外に出る。
間欠泉のごとく、跳び出そうとしたところでセーラが私の隣に、飛び乗るようにやってくる。
「セーラ!?」
「近くで守れる人が必要でしょ!」
「イオはどうするの!?」
「あの子にはここを任せるわ! 相性的にも、こっちの方が活躍できるしね!」
色々と思い切りが良すぎる……!
だけど、空に集中している間に守ってくれる人がいるのは私としても助かる。
そのまま私は、足元の水を勢いよく打ち上げ―――天井の風穴から屋外へと飛び出すのであった。
プレガスの嫌な奴感がすごい……。




