第百七十七話
第百七十七話です。
こうして話してみるとウィルさんは普通の人だなって思えた。
普通の、すごく姿勢とかしっかりしている老人……と言うのは失礼かもしれないけど、とても僕達を腕力だけで圧倒できる存在だとは思えなかった。
「リオンさんってあえて話すことを隠したりとかしますよね?」
「そういう奴だ。大抵のことは知っているが、それを誰にも教えはしねぇ。自分の中に答えが出ていればそれでいいっていうのが基本だ」
「やっぱりかぁ。昨日の話もあえて何か隠されているとは思いましたけど……」
「カイトよ、今おぬし結構罰当たりな話してるぞ」
げんなりとしたシフが、ウィルさんと会話している僕にツッコんでくる。
でも、やっぱりリオンさんは僕に何かを隠しているようだ。
———違和感の出所からして、神獣が暴れる時代が来るというところか。
言っていること自体は事実だろうけど、まだ何かある……かもしれない。
「こうして俺とお前さんが話しているところも奴は見ている」
「そうでしょうね」
「随分と慣れた様子だな」
「実際、慣れていますから……あはは」
隣の部屋にいるリーファとか、こちらを見つめるユランの視線から感じる、あの子のものではない意志だとか。
とにかく見られていることには慣れてしまっている。
笑ってそういう僕に、ウィルさんは不憫な人を見るような目を向けてくる。
「———俺ァ、そろそろ戻るぞ。ジジィの長話に付き合わせちまって悪かったな」
「いえ、僕も話せてよかったです」
足元の石段にかけていた剣を手にし、腰を上げたウィルさんを見て僕も立ちあがる。
やはり動きに淀みが感じられないことに、内心で感嘆としながら、黒い猫について聞くのを忘れていたことに気付く。
「ウィルさん、僕の使い魔と同じ黒猫を見ませんでしたか?」
「ああ、あいつか。それならお前達が泊っている施設に住んでるぞ」
「そうなんですか!?」
灯台下暗しとはまさにこのことだろうか。
たしかに施設内で目撃されてはいたけど、まさか住んでいる場所まで同じだったなんて。
「……じゃ、明日な」
「はい! ありがとうございました!!」
手をひらひらと振りながら建物の方へ歩いていくウィルさん。
彼の姿を見送った後は、僕は先ほど聞いた情報をリーファとセーラさんに伝えにいくべく、彼女達の元へと向かう。
二人が黒猫を探している場所は結構近い。
「お、早速見つけたな」
リーファらしき後ろ姿を発見。
視線の先の道を横切った彼女に小走りで駆けよる。
「ん? あの子、なにか食べてるな?」
「そのようだな」
よく見れば彼女は紙袋のようなものを抱えて、空いた手に饅頭のような丸い食べ物を口にしている。
まあ、基本的に自由時間なので何を食べてもいいので文句はない。
ある程度まで近づくと、先にリーファが僕の気配に気づく。
「この心安らぐ感覚……カイト!?」
「どういう気付き方だよ」
魔物混じりの彼女にとって純魔の魔力はそういうものなのは分かっているけども。
呆れる僕に、右手に持っていた饅頭のような食べ物を口に含んだリーファは紙袋の中から同じもの二つ取り出し、僕へと差し出してくる。
「ふぁい」
「ありがとう。これは?」
「ふぁー、ふぃむふぁむー」
「飲み込んで話なさい」
「ふぁーい、ふぁふぁ」
「誰がママだ」
「なんでそこだけ通じるのだ?」
いや、ニュアンス的にしっかり言ってたじゃないか。
とりあえず一つを三等分にさせて使い魔達に分けてあげる。
山菜が練り込まれているのか緑色の生地に包まれた饅頭の中には、とろとろになるまで煮込まれた肉が入っている。
とても美味しそうなので、シフ達に均等に分けたことを確認しながら僕も一口食べる。
「美味いな」
「うむ」
「キュー」
「シャァァ」
甘辛く煮込まれた豚肉とそれを包み込む生地。
肉まん……と似ているが違う。
だが、美味い。
本当、こちらの世界の食べ物には驚かされるな……。
「リーファ、これなんの食べも―――」
「すいませーん、この魔鳥の塩焼き串、10本ください」
「いくらなんでも食べすぎじゃい」
ほくほく顔で焼き鳥のいれられた包みを受け取ったリーファの首根っこを掴みその場を移動する。
「か、カイトなにするの!? もっと食べ歩きたいのに!?」
「リーファ、今日の僕達の目的を言ってみろ?」
「? ……シフの兄弟を探すんだよね? カイト、何言っているの?」
なぜ僕がそんな目で見られなくてはいけないのだろう。
袋から取り出した焼き鳥を食べるリーファ。
歩きながら串ものを食べるのは危ないので、とりあえず道の端に移動する。
「カイト、私は何も食べたいからこれを買ってたわけじゃない」
「ほう、なんだ? 言い訳か? 言ってみろ、僕を論破できるならな」
「シフは食いしん坊。なら、食べ物で釣れるんじゃないかと思った」
もぐもぐと焼き鳥を食べているリーファの言葉にシフが勝ち誇った表情を浮かべる。
「フッ、私が食いしん坊だと? おぬしじゃあるまいし、そんなことがあるはずが―――」
「あ、シフ、これ食べる?」
「む、くれるなら食べるぞ」
リーファが差し出した焼き鳥をもぐもぐと口にするシフ。
この光景を見る限り、リーファの作戦もあながち間違っていないな……。
シフ本人には自覚はないけれども。
「そういえばリーファはセーラさんの場所、知ってる?」
「うん、セーラは、捜索の基本は忍耐にあるのよ! って言いだした後茂みの中でじっと通りを監視してた。寝っ転がりながらやってたから、すっごい変な光景だったけども」
「なにやってんだあの人」
やべぇ、すげぇ近づきたくない。
ここはいっそイオさん呼んでからいくべきだろうか。
でも彼女を置いて戻るわけにもいかないので、呼びに行こう。
リーファにウィルさんと話したことを伝えながら、歩きだす。
「自由に動ける時間を考えると、勇者招集は明日で最後なんだね」
「そうだね。なんだかんだで楽しかったよな」
僕の言葉にリーファが頷く。
実際、色々な勇者や従者さん達と知り合えたし、最初の時ほどの不安はどこにもなかった。
「でも、シフの兄弟も明日までに見つけなきゃな」
「そこまで気負う必要はないぞ……?」
正直、シフが落ち込んでいる姿はもう見たくない。
この子にそういう表情をさせないために、頑張って黒猫を探してシフと会わせよう。
今一度決意を新たにさせながら、僕達は視界に見えた犬や猫のように茂みに上半身を突っ込んでいるセーラさんの元へと向かって行く。
———結局、その後僕達が泊っている施設内を探しても黒猫はどこにもいなかった。
僕達を避けているのか、単純に探している場所が違っていたのかは分からないが、僕達が黒猫を探せるチャンスは明日だけになってしまったということだ。
黒猫探しに、勇者と従者による最後のパーティ。
少しだけ胸騒ぎがするけど、最後まで諦めずにシフの兄弟は探していきたいな。
もしかしたら、次回は閑話になるかもしれません。




