第百七十五話
第百七十五話です
リオンさんの口から明かされた数々の事実。
僕とチサトはリオンさんが仕込んだ失敗前提の召喚術式により召喚されてしまったこと。
僕とシフの出会いが偶然のものじゃなく仕組まれたものであること。
そして、僕の身体に起きている変化。
「———はぁ」
暗い部屋の天井を見上げながら大きなため息をつく。
眠れない。
いや、正確には眠りが浅いとでもいうべきか。
「くそ……色々と考え事が多すぎて、四時間くらいしか眠れなかったぜ……!」
「いや、結構満足に寝ているではないか」
「ん?」
枕元から聞き慣れた声。
首だけを動かして声のする方を見れば、小さな体を丸くしているシフの姿がいる。
「君は眠れなかったのか?」
「……ああ」
「……」
シフは僕のために作られた魔物。
そんなことを聞かされた上に、いきなり兄弟がいるなんて聞かされれば驚くのも無理ない。
……窓の外は薄っすらと明るくなってきているな。
「ちょっと散歩でも行かない?」
「……いいのか?」
「ああ、結構目が覚めちゃったし」
こういう時こそ気分転換だ。
幸い、施設は早い時間から入り口が解放されているらしいし、何よりセントレアルの職人の朝は総じて早いので、普通に今からでも外も歩ける。
まだぐっすりと眠っているユランとライムを毛布で囲んだ後に、シフを抱えて部屋を出る。
「……」
「……」
暫し無言のまま閑散とした廊下を歩く。
朝だからか、空気がやや肌寒く感じるが、かかえているシフの体温がいい感じに温かい。
「なあ、カイト」
「んー?」
「私はこれから、どうするべきなのだろうか……」
シフの言葉には力がない。
きっと、夜の間ずっと考えていたのだろう。
「私は偽りだらけの存在だ。持っていた記憶も偽りで、自分の種族すらも偽りだった。しかも……おぬしに純魔転生などというものを知らず知らずのうちに押し付けてしまった」
「……」
「知らなかった、などという言い訳などできるはずがない。私はおぬしから普通の人間として生きる道を奪ってしまったようなものだ」
ああ、そうか、シフは僕のことを考えて責任を感じてくれているんだ。
てっきり自分の存在のことを思い悩んでいると思っていたけど、どうやら僕はテイマーとしてまだまだらしい。
……よし。
「あ、そういえばリオンさんに聞くのを忘れてたことがあった……」
「え?」
唐突にそう口にする僕にシフがこちらを見上げる。
リオンさんに純魔転生の術式について知らされた時、最初こそ衝撃を受けたが自分でも驚くほどに現実を受け入れることができた。
多分、フィーリヘルト、メリアと二人の神獣と関わってから予感していたのかもしれない。
「純魔転生って、角とか生えるようになるのかって……」
「は? ど、どういうことだ?」
だからこそ、自虐ネタに昇華させることができるのだ……!
つまり、無敵……! 今こそリーファの天然さを見習う時……!
「いや、見た目がちゃんと人間ならいいかなって」
「そういう問題か!?」
「僕にとっては、そういう問題でしかないんだよ」
もう元の世界に帰れないのは分かり切っている。
そもそもが純魔の魔力という特異な能力を持ってしまった時点で、僕は元の世界でも普通の人生は送れない。
なら、いっそのこと割り切って前を向き続けるしかない。
例え、自分の身体が変わろうとも。
「誰の思惑だろうとも、僕達は今日まで一緒に戦ってきた。僕に会う前の記憶が偽りのものだとしても、それからの記憶は紛れもない本物なんだ」
「……」
「君はこれからどうするべきかだって? そんなの決まっているだろ、これからも変わらない。君は僕の使い魔で、この世界で最初に会った友達だからな」
「カイト……」
例え、仕組まれていたとしても、誰にも否定させるつもりはない。
作られた命? 僕に魔術を植え付けた? そんなの今更どうだっていい。
「それにリオンさんだって言ってただろ?」
「?」
「僕と会ったことで君の魔物としての生が始まったって、ならその時から君はもう自由ってことじゃないか」
たしかにそう言っていたはずだ。
シフのやることは既に終わっているのなら、それから先は自由だ。
「そうか、その通りだな。ありがとう、カイト」
「力になれてよかったよ」
幾分か元気を取り戻したシフが、顔を上げる。
そのまま僕の身体をよじ登り、肩へと移動する。
「私はこれまで通りおぬしの使い魔として力になる」
「これからもよろしく」
「ああ!」
元気になってくれてよかった。
場所は施設から、外へと移動する。
日も上がってきて、暖かな日差しが道へと差し込んでいる。
「カイト、私の兄弟についてなのだが……」
「ああ、そのこともあったね。……そういえば君はオスなのか!?」
「いや、私に明確な性別はないから、比喩だと思うぞ」
なんだかんだで気付かなかった言葉に驚いていると、シフが冷静に訂正してくれる。
「シフと同じ魔物というと、僕が見た子のことかな?」
「私と瓜二つらしいから、ほぼそうだろう」
声もちょっと高かったけれど、かなり似ていたな。
でも明確に違う点は呼称がボクだったということだ。
……。
「……シフと並んでいる姿を見てみたいな」
「おぬしの願望が訊きたい訳じゃないぞ……?」
「え、僕、今なにか言った?」
「無意識!?」
思わず心の声が口に出てしまったようだ。
シフも、リオンさんが“兄弟”と口にした存在を気にかけているようだ。
「会ってみたいのか?」
「できることなら……私と同じ存在というのなら、話をしてみたい」
シフの言葉を聞いて、一つ頷く。
他ならぬシフの我がままだ。
できるだけ叶えてやりたい。
「———よし、なら全力で協力する」
今日で五日目。
猶予は今日を入れて三日あるが、最終日は帰らなくちゃいけないので実質二日しか時間はない。
「ウィルさんとの訓練が終わったら、今日はシフの兄弟を探しに行こう」
「いいのか?」
「もちろん。僕ももう一回あの子に会いたいし」
「……むしろ、そっちが目的なのでは?」
ジト目で見てくるシフから視線を逸らす。
とにかく、今日はシフの同族の捜索だ。
リーファとチサトも誘おう。
「人海戦術で猫探しだ……! やるぞ、シフ……!」
「私はシェイプシフター……ん? 私はシェイプシフターではないとしたら……うーむ」
何やら自身のアイデンティティを模索し始めるシフ。
まずはこれまでと変わらず無茶な特攻をせずにウィルさんに一撃を見舞うこと。
その次にシフの兄弟を見つけにいくこと!
新たな目標を胸にしながら、僕は明るく照らされたセントレアルの街中を進んで行くのだった。
前向きになったシフでした。
土日はお休みなので、次の更新は来週の月曜になります。




