第百六十九話
第百六十九話です。
勇者招集というのは結構暇である。
他の勇者との交流を主にしているという名目ではあるけど、さすがに三日目となれば顔合わせも済んだことで、各々の生活をしていくことになる。
セントレアルの施設内の図書館に入り浸って本を読んだり、ラウンジでカイト君やリーファ、それに最近友達になったセーラとイオと話したりする。
今夜もそんな感じで時間が過ぎていくんだろうなぁ、と思っていたが今日はちょっと違った。
カイト君が従者同士の交流会に行ってしまったのだ。
『じゃ、二人とも行ってくる』
従者達が集まる部屋へと向かったカイト君の表情は妙にわくわくとしたものだった。
普段、迷惑をかけてる部分もあるし、今日くらいは彼に息抜きしてもらうのもいいかなと思う。
「チサト、暇」
「お菓子あるから食べてなさい」
「何言ってるの? もう食べたよ?」
「待って、全部食べたの? 私の分は?」
見れば、全てなくなっている……!
私の糖分が……!? 許すまじリーファ!
私は怒りのままに、ごろごろしてるリーファの頬をつねった。
「うぅー」
「この食いしん坊め! 私のお菓子を返しなさい!」
「チサトが太らないように手伝ってやった」
「オーケー、戦争だね!?」
こいつァ、もう堪忍袋の緒が切れたぜ……!
なにが酷いって、この子本当にどれだけ食べても太る気配がないのだ。
わなわなと震える私に、リーファはフッと笑みを浮かべる。
「チサトは非力だから、私には勝てない」
「今から貴様をくすぐる」
「あ、やめ―――」
そのままリーファに飛び掛かりわちゃわちゃと戯れる。
見事、リーファに勝利を収めた後、また読書を再開させていると、不意にリーファが口を開いた。
「カイト、今どうしてるかな……?」
「うーん、彼が行ってから一時間くらいだよね」
まだ始まって間もないくらいだろう。
従者同士での話だ。
きっと積もる話もあるのだろう。
主である私達の話とか。
……。
「いやいやいや」
さすがにそれを気にするのは野暮な話だろう。
ここは主として、どっしりと構えて待つべきだ。
それがカイト君の主である私の―――、
「なに話してるか、気にならない?」
「すっごい気になる」
駄目だ、やっぱり気になる。
リーファの問いかけに即答してしまう弱い私。
こういうところが自分が面倒くさいと自覚する所以なのだが、今は気にしないでおく。
「じゃあ、ちょっと見てこよう」
「ちょっとだけだからね? 確認したらすぐ帰るからね?」
そうと決まれば、上着を羽織って部屋を出る。
交流会を行っている場所は、カイト君が話していたのでそちらへまっすぐ向かう。
同じ施設内なのでそれほど時間を掛けずに目的地に到着できたのはいいけど……。
交流会が行われているであろう部屋の前には、なぜか人が集まっていた。
その全員が息を潜めて中の様子を伺っていたり、耳を澄ませている。
「……何やってるの?」
『シィー!』
珍しく困惑したリーファが声をかけると、集まっていた面々―――勇者達は人差し指を口に当て静かにしろと言うジェスチャーをする。
手招きされたので、そちら近寄るとセーラもいることに気付く。
「フッ、やっぱり貴方達も来たのね」
「まさかこれって……」
薄々彼らが何をしているのか察しながら部屋の中を覗き込むと、中から楽し気な声が聞こえてくる。
『ジャンさん、その話本当ですか!?』
『ああ、マジのマジだよ。カイト君! いやぁ、さすがに従者に選ばれた決め手が髪型だとは思わなかったぜ!』
『どういう基準ですかそれ! 嘘じゃないんですか!?』
『もしかして、光るものが見えたとかそういう感じだと思うんだよね! まっ、光ってるのは頭だけど!』
かつてないほどにテンションの高いカイト君がスキンヘッドの人とすっごい楽しそうに話している。
彼の隣では、綺麗な紺色の髪が特徴の少女、セーラの従者であるイオが膝にのせたシフを無心に撫でつけている。
『かわいい……かわいい……』
『わ、私はシェイプシフターだと言っているのに……!』
彼らの前の席では、ヘキルの従者のハルトさんが泣きながらコップ片手に何かをぶつぶつと呟いている。
『お、弟は……! 弟は、ああなる前は本当にいい子で……! 今もいい子だけど、本当はもっといい子で……! くそ、なんで俺は五年もの間あの子を放っておいてしまったのだろうか……!』
『おいおい、ハルト。もう酔ったのかー? 俺ァ、まだまだいけるぞー!』
あんまりな光景を一度頭の中で整理してから、セーラへと向き直る。
「———なにこのカオス」
「交流会よ」
「これは交流会じゃなくて、宴会の間違いじゃ……?」
「交流会よ」
二度も言われたら押し黙るしかない。
しかし、改めて中を見れば本当にカオスだ。
何人かお酒が入っているのか、酔っぱらているし。
「イオも羽目を外すことが少ないから、勧めてみたけどまさかこんな面白い光景が見れるとは思わなかったわね……! そのまま隣の彼も篭絡してくれれば最高よ……!」
「ちょっと待て」
「え、何かしら?」
こてんと首を傾げるセーラに、この野郎と思う。
そういう打算深い性格をしているのは分かっていたが、まさかあれか?
ハニトラか? ハニトラなのか?
「くっ、そういう面白いことはカイト君以外でやってほしかった……!」
「私がいうのもなんだけど、チサトって結構変な子よね……」
やや引いた様子のセーラ。
でもカイト君、ドがみっつつくくらいにドドド鈍感だから別に心配してないけど。
「なんでこんなに騒いでいるのに気付かれないんだろう?」
「ご心配なさらず、私の風系統の魔法で声は届かないようにしておりますわ」
空気の振動を操る勇者、たしか……フレイと名乗った少女がそう言葉にする。
セーラとは違う風なお嬢様っぽい、というか名家のお嬢様らしいのだが、なぜそんなことを……。
そう尋ねると彼女は太陽を思わせる笑顔を見せた。
「こういうの憧れてまして、あと従者の弱みを握りたいと思いまして」
え、怖ぁ。
聞かなければよかったと後悔していると、彼女の隣に小柄な黒づくめの人影がいることに気付く。
人影は私の視線に気づくと、気だるそうにする。
「……ワタシの周りにいれば余程のことがなければ存在が気取られることはない」
すっぽりと黒いフードで頭と顔を覆った少年か少女か分からない人物がそう呟く。
気配を操るという不思議な魔法を持つシュラって名前の子だったか、個人的には女の子っぽい感じがするけど、そこらへんはどうなんだろ。
でも、この子はまともそうだ。
そう思っていると、彼女がブツブツと何かを呟いていることに気付く。
「なんだ、いつワタシは愚痴を言われるんだ……! 根暗か、気持ち悪いか? クソ、あのハゲ。頭のことしか話さねぇじゃねぇか……! 頭は不毛の癖に、会話には花を咲かせやがって……! 話題の中でもワタシは存在感が薄いって言うのかこの野郎……! もっとワタシのこと話せよぉ……!」
……聞こえてはいけない呟きを聞いてしまった気がする。
まともだと思った人が、血走った目でカイト君の隣にいるスキンヘッドの人を睨みつけているシュラちゃんの姿を見て普通にドン引きする。
「オーケー私は、見つかりそうになった時に、皆を影に逃がす」
「貴女は適応しすぎだと思う」
いつの間にか勇者達の仲間に加わり中の様子を伺い始めたリーファに素直に驚く。
なに自然に混ざってるの? おかしいよね?
その適応力の高さは流石としか言えないんだけど、今発揮するべきことじゃないよね?
「さすがにガチすぎると思うんだけど」
そう呟くと、セーラ達の視線が私に向けられる。
思わず慄いてしまうが、なんだ? 私がなにかしたのか?
「貴方の従者の感覚が鋭すぎるのが悪い」
「最初に気付かれて追い払われちゃったのよねー」
「マジで獣だぞ、お前の従者。多分、ワタシが魔法を解いたら、速攻で気付く」
「やだ、私の従者、頼れすぎ……?」
ちょっと優越感。
だけど、ここまで本格的に盗み聞きする必要があるのだろうか。
もうどこかの要塞に潜入できるくらいには本気すぎるんだけど……。
皆、それぞれの思惑のままに部屋の様子を覗き込んでいる光景を見ていると……ふと、近くの通路の角にこちらを覗き込んでいた黒い猫のような生物の姿を捉える。
「……」
「……!」
数秒ほど目が合い、びくりと身体を震わせた猫はそのまま頭を引っ込めてどこかに行ってしまう。
なんだ今の。
まさかカイト君の言っていた喋るネコだろうか?
「追いかけてみよう」
後ろの勇者達は放置。
不思議生物は控えめにいって大好物なので、好奇心のままに猫を追いかけることにした。
従者交流会の一方、勇者同士の個性バトルロイヤルも勃発中。
勇者フレイ
・いつも従者にからかわれるので、今回は弱みにつけこみたい。
・多分、この状況に最もわくわくしている。
勇者シュラ
・人見知り。
・従者選びの際、人前で話したくないので適当に指さしたら、偶然ジャンの輝く頭部へ。
・毒舌だけど寂しがり屋。




