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第百六十八話

第百六十八話です。

 着替えを済ませた後、部屋の外でもう一度集まった僕達はすぐに食堂へと向かった。

 食堂の入り口の前で落ち込んだ様子のセーラさんと、いつも通りの無表情のイオさんと合流し、食堂に入る。

 お昼時とあってか、それなりに人が集まっており先ほど共にウィルさんと戦った勇者達もいる。

 その面々の中で、食堂から出ようとしている男性を見つける。

 ちょうどすれ違うところだったので、声をかける。


「こんにちは、フィグロさん」

「おう、カイトか。今から昼か?」

「はい。フィグロさんはもう食べたんですか?」


 食堂から出ようとしていたので、食事はもう済ませたのだろうか?

 僕の質問に彼は、頭を押さえながら頷く。


「ああ、俺がいると気まずい空気になると思ってな。飯は早めに食うようにしてんだわ」

「そんなことないと思いますけど……」

「初日に悪目立ちしているからな。自業自得ではあるが、一度認識された印象はそうそう変わらねぇんだ」


 自嘲するように口にしているが、本人はそれほど気にしていないようだ。

 うぅむ、ああいう渋い感じは憧れるものがあるな……。


「カイト、顎に手を当ててどうしたの?」

「いや、僕も髭を伸ばせば、ああいうダンディな感じになるのかなって」

「三十年すればなるんじゃない?」

「そこまで待たないとダンディにはたどり着けないの……?」


 遠い道のりすぎる……!

 顎に手をやりながら席を探していると―――、


「カイト君」

「ん? あれ、ハルトさん?」


 名前を呼ばれて振り返ると、ハルトさんがそこにいた。

 彼を見てどこかにヘキル君がいるかと身構えてしまったが、彼はここにはいないようだ。


「弟はいませんよ。時間があるのなら話をしたいのですが、いいでしょうか?」

「ええ。構いませんよ。リーファ、僕はハルトさんと食べるから、僕抜きで食べてきてくれ」

「カイトがいなくなると男女比が偏る」

「既に四対一だろうが」


 もう大分偏っていると思うんだけど。

 むしろ僕がいない方が会話に花が咲くだろ。

 さすがに冗談だったのか、頷いたリーファがチサトたちに僕がハルトさんと食べることを知らせにいってくれる。

 その姿を見送った僕は、ハルトさんと共に近くの席に座る。


「すみません。折角のお食事を邪魔してしまって」

「いえいえ、そんなことありませんよ。正直、肩身が狭い思いもしてましたし」


 僕以外は全員が女性なのだ。

 色々と気まずいものがあるし、会話の内容によっては僕も参加できないものもある。

 なぜか、同性のはずのリーファも同じことが起きるけども。


「勇者様二人の慕われようから見て好色な方だと思っていましたが……」

「それこそありえないですよ。むしろ、リーファが何かをやらかさないように―――」


 瞬間、側方から何かが飛んでくる。

 咄嗟にそれを受け止めると、それは丸められたテーブルナプキンであった。

 見れば、むんっ! とした表情のリーファがいるが―――額に血管が浮き上がるほどの僕の眼力にすぐさま怯えた子犬のように、怯えた様子を見せる。


「後で説教だな……」

「か、カイト君?」

「いえ、なんでもありません」


 ここで叱ってもいいが、彼女の立場もあるので今回ばかりは後で叱ることにする。

 しかし、僕の言葉も悪かったから、合わせて謝ろう。


「とりあえず、先に食事を頼みましょうか」

「そうですね」


 朝食とは違い、昼時は頼んだ食事を運んできてくれるのでゆっくりと話せる。

 まずはその前に注文をしなければならないので、僕はメニューを取り出し、それを使い魔達と一緒に見る。


「どれがいい?」

「うぅむ、魚もいいが肉もいいな。むむ、ここではドラゴンの肉も扱っているのか……でもでも、この怪鳥ステーキというのも気になるぞ……」

「シャァ……」

「キュー」


 無料なのでお金を気にせずに頼むことができる。

 どの料理もおいしそうなので僕は、シフ達が食べたいと候補に挙げたものを最後に選ぶことにする。


「……」

「ん? どうしたんですか?」

「いえ、君のようなテイマーはこれまで見ることはなかったので……。なんというべきか、使い魔との距離が近いんですね」


 驚いた様子で料理を選ぶ僕と使い魔達を見ていたハルトさん。

 セラさんもこれぐらいだったけれど、テイマーの基準も他の国によって変わっていくのかな?

 そんなことを考えながらそれぞれの料理を頼んだ僕は、ハルトさんがなぜ僕と話をしようとした理由を尋ねてみる。


「理由の一つとしては個人的に君と交友を深めたかったからですね」

「そうなんですか?」

「ええ、歳も近いでしょうし」


 え、と思いハルトさんの年齢を聞いてみると19歳だそうだ。

 それでも僕の方が年下だけど、物腰も柔らかいし、身長も高いからもっと年上だと思っていた。

 イリスさんとは別の意味で大人に見える人だ。


「ヘキル君はどうしていますか?」

「……あれから部屋を出てきていません。昨日のあの戦いは、それだけ衝撃的なものだったのでしょう」

「……大丈夫なんですか?」


 怒りに我を忘れ、周りの人を巻き込むような攻撃を彼がしてしまったことは事実だ。

 僕としてもいい薬になったと思わなくもないけれど、それはそれとして引きこもったままというのはハルトさんにとっても、ヘキル君が勇者という使命を担っている国にとってもいい事態ではないだろう。


「きっと大丈夫でしょう。弟は驕りがちで、癇癪持ちで、人を見下しがちですが、なにより負けず嫌いなのです」

「結構ハルトさんも言いますね」

「そりゃあ、従者である前に兄ですから」


 照れくさそうにそう言葉にしたハルトさん。

 ようやく彼の素のようなものが見えたような気がする。


「正直な話、騎士学校の教育課程を終えて実家に帰省した時は、ヘキルの変化に驚いたものです。知らぬ間に勇者となって、知らぬ間に人目には出せない性格になっていたのですから」

「元々はあんな性格じゃなかったってことですか?」

「ええ、ヘキルは三人いる兄弟の末っ子だからか、両親も祖父母もかなり甘やかしていたようで……」

「あちゃぁ……」


 甘やかされた結果、ああいう性格になってしまったと。

 それはなんというか……親の愛情ゆえのなんとやらか……。


「ヘキルの従者になったのは、私以外に従者になれる者がいなかったということと、打たれ弱く精神的に脆いあの子の助けになれればいいと思ったのですが……今思えば、叱れる時に叱っておくべきでしたね」

「ははは……」


 頭を押さえるハルトさんに苦笑する。

 ヘキル君とハルトさんにも色々と複雑な事情があるんだなと思った。

 そうしている間に食堂から料理が運ばれてくる。

 僕とハルトさん、そして小皿に乗せられた使い魔達の料理がきたことを確認し、食事を始める。


「ああ、そういえば、従者同士で集まる催し物があることはご存知ですか?」

「ええ、初日に聞きました」


 パンを手にとりながら返答する。

 たしか従者同士での交流会みたいなものだよな。


「それが今日の夜に行われるそうです」

「え、急ですね」


 いきなりだな。

 まあ、特にやることもないので参加するのだけども……イオさんはこれを知っているのだろか? 知らなかったら僕の方から伝えておくか。


「ちょっと楽しみですね」

「ええ、私自身まともに話した方は君しかいないですし。それぞれの王国の話や、主である勇者についての愚……積もる話もできれば楽しそうです」

「ハルトさん、今愚痴っていいかけませんでした?」


 聞いてみると彼はにこりと笑みを浮かべるだけだ。

 ……ヘキル君のことは弟として大事にしているみたいだけど、やっぱりストレスとか溜まっているんだろうなぁ。


「なんだか、僕達って結構似ているかもしれませんね」

「と、いうと?」

「従者をしているのに保護者気分」

「! ……ははは、そうですね。ええ、分かります」


 人差し指を立ててそう言葉にした僕に、ハルトさんは微笑んだ。

 しかし、従者同士での交流会か。

 不安もあるけど、ちゃんとした交流ができればいいなぁ。



従者限定の交流会。

またの名を、勇者愚痴り大会。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ハルトは例えば腹違いとかで逆らえないのか?と心配したけどそんな事は無かった! 良家の次男どころか三男坊なら納得出来るし、矯正の過程が楽しみです。 カイトはリーファの飼いぬsじゃなくてオカ…
[一言] きっと勇者のほうも従者の愚痴もしくは自慢大会になるでよ。 ...しかしリーファって一応ヒロインの一人だよね?お茶目カマして調教されてるところしか見ないような気がするんだけど...
[一言] >従者限定の交流会。 >またの名を、勇者愚痴り大会。 あるいは、うちの子自慢大会byオカン
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