第百六十六話
第百六十六話です。
いつものように気絶した。
自分で言っていて情けなくなるけど、肉体強化に全力を振り絞ってその結果気絶した。
そして、目覚めたときには―――、
「ドコココ……?」
見知らぬ庭園の原っぱに寝かされていた。
いや、本当にここはどこだ。
僕達が泊まっている宿舎ではないのか?
「シフ達は……」
「君の使い魔達なら、今はチサトが預かっているよ」
「!?」
起き上がった僕に後ろから声がかけられる。
振り向くと、そこには緑色の髪の女性が立っていた。
顔は依然としてフードに隠されているが、フードから覗かせる綺麗な緑の髪色を見て、その人物が誰か気付く。
「……リオン、さん?」
「うん。そうだよ」
ヘンディルからセントレアルまでの道を魔馬で送ってくれたテイマーのリオンさん。
僕の声にフードを外す彼女。
露わになった素顔は優し気な印象を抱かせる顔立ちをしており、どこかメリアに近い人間離れした魅力のようなものを感じさせていた。
「どうして、貴女が……」
別れ際に意味深な発言を残した彼女が、どうしてこのような場所にいるのか?
もしや、僕をこの場に連れてきたのも彼女なのか?
「体、痛みはないかい?」
「あ」
そういえばテイマーズナックルを繰り出した衝撃で右腕が折れていた気が……。
他にも負荷がかかって怪我とかしていたはずだが、今確認してみるとどこにも怪我はない。
もしかしてリオンさんが治してくれたのだろうか?
「君は怪我もそうだけど、精神的にもかなり消耗していたからね。私がここで君の怪我とかその他諸々を癒したんだ」
「……どれくらい、眠っていたんですか?」
「一時間くらいだよ?」
「な!?」
う、嘘だろ、体感的には夜ぐっすり十時間くらい寝た後の、すっきりとした目覚めくらいの気分なのにたったの一時間だけだと!?
「ここの木々と植物は特別でね。ここにいるだけで、あらゆる生物に安らぎを与えることができるんだ」
なるほど、これが森林浴というやつか。
そう考えると空気も美味しく感じるし、気分も爽快なものになってくる。
元の世界でも一時期ブームになった理由もよく分かるな。
「気絶して一時間で目が覚めるなんて、すごいですね!」
「えーっと、そこまで驚くことなのかな……?」
「目算では、明日の朝くらいに起きると思っていましたから!」
「気絶から目覚める時間を計算してたんだ……」
やや引いた様子のリオンさん。
未だに得体が知れない人ではあるが、怪我も疲労も治してくれたのでお礼をしなくては。
とりあえず立ち上がった僕は、彼女に頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
「わっ、わわ! その感情は少し私には強すぎる! 押さえて押さえて!!」
しかし、なぜか止められる。
見ると額よりやや上の部分を手で押さえたリオンさんは頬を赤く染める。
「繋がりを得てしまったから、より強く感情が伝わってくるわけか……。これは気をつけなければ」
「?」
「取り乱してしまったすまない。もう大丈夫だよ」
軽く深呼吸をしたリオンさんに首を傾げていると、不意に彼女から手が差し出される。
なんだと思い、手元を見るといつも彼女がしていた手袋が外されている。
「私が誰か、それを説明するにはこれが手っ取り早いと思ってね」
「えーっと……」
「さあ、君も手を伸ばして」
言われるがままに手を伸ばす。
そのまま握手をした瞬間―――何かに引き込まれるような感覚と共に、僕の視界が別のものに切り替わる。
場所は、どこともしれない森の中。
人の痕跡すら感じさせない、完全な自然に満ちたその場所で視界の主は、太陽の光が木漏れ日として差し込む場所で―――一人の人間と相対していた。
『ハァー、ハァー、よ、ようやく見つけた……! よくも一か月も森の中を走らせてくれたわねぇ……! もう、追いかけっこは終わりよォ!』
肩で息をしながら視界の主を睨みつける金髪の少女。
これまでの記憶通りにその姿は霞がかってはいるが、確かにその人は僕が知っている女性の若かりし時の姿であった。
『これ以上、“森”を広げるのはやめなさい! なにがしたいのか分からないけど、これ以上は人間だけじゃなく他の生き物も生きられなくなる!』
『———、———、———』
『口が悪いわね! なら、お望みどおりにこっちのやり方で言うことを聞かせることにするわね!』
少女の身体に金色の光が満ちる。
僕の肉体強化と同じ輝きに目が眩むと同時に、目の前の景色が遠ざかっていく。
我に返ると、僕の視界にはリオンさんと繋がれた手が映り込んでおり、僕の胸には僅かな高揚のようなものが残っていた。
「リオンさん、貴女はまさか……」
「そう、私の名はフィリュリオーン。君がこれまで会ってきたメデュラリアムとフィーリヘルトと同じ神獣さ」
三体目の神獣との遭遇。
思わず立ち眩みを起こしかける僕に、リオンさんは申し訳なさそうな顔になる。
「ショックを受けるのも分かる。それについては謝る。私も君と接触する口実が―――」
「テイマーじゃ、ない?」
「ショックを受けるとこそこなの……? あ、やばい、この話がこんがらがる感じ、彼女とそっくりだ」
ようやく一般的なテイマーのことを知れたと思ったのに、まさか神獣だったとは。
騙された以前に、同じテイマーとしって浮かれ気分だった自分に恥ずかしくなる。
「正直、メリアと比べれば普通なのでそこまで驚きはないんです……」
「私としては驚いてほしかったんだけど……」
メリアなんて寝起きに膝枕かまされてそのまま身動きを封じられていたからな。
……言葉で表すと自分がどれだけ異常な状況に置かれていたのかを思い知らされてしまう。
「いや、意外と普通でしたし……」
「大丈夫、君価値観とか歪んできてない……? メデュラリアムになにをされたんだい?」
世界広しといえども神獣に価値観の心配された人間は僕くらいだろう。
全然嬉しくない……。
でも、実際アプローチの方法は、メリアと比べれば全然普通なのだ。
「貴女も、僕に用があるんですか?」
「そうだね。でも今日は顔合わせのつもりだったから後にするよ」
「気絶している僕をここまで連れてきたんですから、もっとなにかあるんじゃ?」
「なんだろう、その、悪気はないけどグサッとくるのだけど……」
頬を引き攣らせながら胸を押さえて呻くリオンさん。
しかし、すぐに立ち直った彼女は人差し指を立てながら続けて言葉を発する。
「本題に入るとすれば、その時は君の主の一人であるチサトが一緒でなくちゃならない」
「チサトが……?」
「ああ、なにせ君達が召喚されたことに関しての話でもあるからね」
「……は?」
僕達が召喚されたことに関係する話?
いや、そうだ。
よくよく考えれば勇者召喚術式はセントレアルが配ったものだ。
そしてセントレアルにいるリオンという神獣。
そこから考えれば、僕とチサトが異世界から召喚されてしまった原因に、この人も関わっているのかもしれない。
問い詰めたい衝動に駆られるが、これはチサトもいなければならない話なのは分かっているので、ここは一先ず引き下がることにした。
「君達がここに滞在している間に、説明する場を設けよう。それまでの間、君は自由に過ごすといい」
「自由に……?」
「ウィルに気に入られたようだからね。彼との戦いは君達にとって実りにあるものになるだろう」
ウィルさんとも既知の間柄のようだ。
そこに地味に驚いていると、何を思ったのかリオンさんが前触れもなく飛びついてきた。
予想外の行動にまともに動けず抱擁された僕は、リオンさんの見た目から想像もできないほどの力に、背骨が軋むのを感じる。
で、デジャブ……!
「今日の戦いはとてもよかった。予想のさらに上をいってくれて私も、とても嬉しいよ」
「……」
「私は君の味方だ。これだけは何があっても変わらない事実だということを信じて欲しい」
そのまま抱擁を解いた彼女は僕の手を取る。
上機嫌な様子の彼女は、子供のような笑顔でその場を歩き出した。
「さあ、外まで案内しよう。チサトもリーファも君を心配しているだろうしね」
「……あい」
し、神獣ってのはデフォで力が強い人ばかりなのだろうか?
リオンさんに手を引かれながら、僕は庭園を移動する。
しかし、その時―――木々の間に黒い猫の姿を見つける。
「ん?」
もう一度そちらを見ると、何もいない。
気のせいだったのかと思いながら首を傾げながら、僕達は庭園をあとにするのだった
森林浴で全回復のカイトでした。
明らかにウィル爺さんとヒルデの時とは、テンションと態度が違うリオンでした。
このリオンをウィル爺さんが見たら、気味が悪いとドン引きします。
土日の更新はお休みなので、次回の更新は18時からとなります。




