第百六十三話
炬燵で寝落ちして、寝ぼけて朝の六時に間違って更新してしまいそうなったアホが私です。
第百六十三話です。
今回はセーラ視点となります。
ヘンディル王国は魔物の力を宿す影の勇者。
フィルゲン王国は異なる世界からやってきた水の勇者。
そして、そんな二人の従者を務めるのは、常識外れの魔物使い。
以前からそのことは知っていた。
というより、イオが従者になる以前は、魔物使い―――アリハラ・カイトを私の従者にしようと考え、気まぐれにそこらへんを歩き回っていた。
結局は他の勇者の従者になったと聞いて残念がったものの、イオという可愛くて信頼のできる従者が私の元へ来てくれたので結果オーライではあった。
しかし、しかしだ。
「いくぞぉぉ! リーファァァァ!」
「オオォォォ!!」
風と電撃を纏いながらお爺ちゃんに向かっていくその姿は、とてもテイマーとは思えない。
黒い影に包まれたリーファも、その動きはカイトと同じく人のそれを遥かに超越している。
私が放つ矢もチサトがせわしなく動かしている水を器用に避けながら果敢にお爺ちゃんに攻撃を行っている。
「面白いわねぇ……!」
あれがアリハラ・カイトか!
あれがリーファ・ウルガルか!
私の国で集められた情報以上に面白い!
そして―――、
「二人ともすごく動くじゃん……! 前より滅茶苦茶になってるじゃん……!」
大量の水を操り、その上で別々の動きをさせながら的確にカイトとリーファの援護をしている勇者、チサトもすごい。
味方の防御、敵の視界の阻害、吹き飛ばされた時の緩衝材としての水、全ての作業を並行して行っている彼女の能力と、それを可能にする大量の魔力はまさしく尋常のものではない。
「だけど、相手はそれ以上の化物……!」
カイトとリーファの攻撃は、お爺ちゃんに当たる寸前で弾かれてしまう。
彼が一度、指を向ければ目に見えない衝撃波のようなものが放たれる。
「ユラン!」
「シャァ!!」
驚異的な反応で魔力の盾で防御する彼だが、それでも衝撃に耐えられず彼の身体は後方へ吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ!」
「カイト君!」
彼が壁に叩きつけられる前に、チサトが水の壁で衝撃を緩和させる。
強烈な衝撃を受けても尚、すたっと立ち上がった彼は、槍へと変化させた武器を伴って突っ込んでいく。
対してお爺ちゃんは、鞘に納められた剣を手に取る。
「さあ、来い」
「オオオ!」
電撃に包まれた槍と、鞘がぶつかり合う。
しかし響くのは鉄がぶつかり合う音ではなく、ただ電撃が迸る音だけ。
槍の先端は、鞘に触れる直前で見えない何かに止められていた。
「な……これは……」
「力は抜いてる。こいつは十分に突破できるが、お前さん達にそれができるかな?」
「ッ! カイト!!」
「おっと」
リーファが地面から槍状の影を伸ばすも、それらもお爺ちゃんに触れる直前に阻まれてしまう。
いや、あれは阻まれているというより弾かれているのか?
お爺ちゃんの能力を観察しながら、魔筒から矢を放ち気を逸らす。
「やっぱ、弾かれちゃうか……」
見たところ、あの能力は任意によるもの。
そうでなきゃ、さっきリーファとカイトの攻撃を掴んで防ぐ意味はないからだ。
「さぁて、私にも矛先が向いてきたわねぇ……!」
お爺ちゃんの指がこちらへ向けられると同じタイミングで横に駆ける。
次の瞬間には、私の立っていた床が何かに押し潰されるように、陥没する。
「ま、まだ来るの!?」
まだこちらに指が向けられていることにパニックになりながら全力で走る。
私の動きを見ているのか、ワンテンポ遅れて攻撃をしているようだけど……当たれば間違いなく、一撃で気絶させられてしまう。
走りながら、魔筒を右手のみで持ちながら狙いもつけずに放つ。
「最近の魔具は便利だな」
それでも手すら動かずに弾かれてしまうのだけど!
やっぱり、滅茶苦茶すぎない!?
私の矢、鉄板くらいなら容易に貫通できるのに!
「後で使い方教えてあげましょうかぁ!?」
「カッ、まともに老人扱いされるとはな、こりゃ骨身に染みるな」
走る私に指を向けているお爺ちゃんの左右から、カイトとリーファが攻撃を仕掛ける。
それに合わせて、チサトが水で作り出した礫を打ち出していく。
再びお爺ちゃんの周囲が激戦化すると同時に、私は水に濡れた床を滑るように止まり魔筒を構える。
「ありがと! 助かったわ!」
とりあえずお礼を言葉にしてから、照準を合わせ、援護の光の矢を放つ。
魔筒―――魔法を外付けの道具で強化して打ち出すこの魔具の性能は、実はそれほどでもない。
あくまで手足の延長にあたるものであり補助の域を出ないものでしかない。
「装填!」
私の魔法は矢の形状変化型の魔法。
矢の形に変化する魔力を、魔筒に籠めることで光の矢として打ち出すことができる。
勿論、魔筒を介さなくても操ったり放つことはできるけれど―――私はあえて魔筒を用いて魔法を放つ。
「チサト、想像力よ!」
「急になに!?」
「想像力こそが、魔法を強くする!」
水の操作に集中しているチサトに声をかけながら、掌に魔力を集める。
浮かび上がるは幾重にも重なった緑の矢。
それを魔筒に籠め、右手からさらに魔力を注ぎこむ。
「合わせなさい!」
「ええい、無茶に応えてこそ勇者……!」
チサトが自身の元に引き寄せた水を、球体上に集める。
彼女が水を解放すると同時に、魔筒の引き金を引き連射式の矢を解放させる。
「轟け、嵐の矢!」
光線のように放たれる水の奔流と、一気に解放し撃ちだされた矢。
それらは真っすぐお爺ちゃんへと向かっていく―――が、その前に、射線上から横に跳んだリーファとカイトが、私達の攻撃に合わせて同時に魔法を放とうとしている姿が視界に移りこむ。
「シフ! ハクロ!」
「電撃だな!」
「ウォォォォン!!」
黒い手袋に包まれた手から放たれた電撃と風が、チサトの水に付与され威力を増す。
「私も! 影槍!」
続いてリーファの黒く染まった足元から伸びた幾本もの影でできた槍が、私の矢に追随するように繰り出される。
予期せぬ形で四人の技が重なり一つの攻撃となり、お爺ちゃんの立っている場所に直撃する。
大量の水しぶきが舞い上がり、雨のように降り注ぐ。
「まだ、足りねぇな」
でしょうね、この程度の攻撃で倒れるくらいなら黒の冒険者だなんて呼ばれるはずがない。
傷一つどころか、水にすら濡れていない様子のお爺ちゃんに、冷や汗をかきながら笑みを浮かべる。
魔筒に矢を装填させながら、どうしようか、と考えていると前で戦っていたカイトとリーファがこちらに戻ってくる。
「カイト、このままじゃアレを突破するのは難しいよ?」
「ああ、分かってる」
カイトが頷くと、リーファは手に持っていたナイフを納める。
そして何を思ったのか隣にいるカイトに手を差し出した。
「魔力、ちょうだい」
「……暴走するかもしれないぞ?」
「ある程度は抑えられる。しても、あの人相手なら問題ない。カイトは……噛まれないように気を付けて」
「はぁ、簡単に言ってくれるよ……」
困ったように笑った彼は掌に魔力を集めはじめる。
それは見たことがないほどに綺麗な金色の光を放つ、純魔の魔力。
———お爺ちゃんはその場から動くつもりがないのか、こちらを無言で見守っているが、彼も興味深そうにカイトの魔力に注目している。
「チサト、セーラさん」
「うん?」
「なにかしら?」
掌に浮かべた球体上の純魔を手にしながら彼はこちらへ振り返る。
「今からリーファが暴れます」
「「え?」」
「そして、僕も暴れます」
「「「なんで!?」」」
二度目の宣言に私とチサトだけではなく、隣にいるリーファも声を合わせて驚く。
流れ的にリーファが暴走するかもしれない力を使うのは分かったけど、なんでカイトまで!?
「ウィルさんに普通の戦い方は通用しないから、僕はこれまで避けていた戦い方をすることにする」
「え、もしかしてあの遺跡の……」
「嫌な記憶を思い出すけどね。でも、ウィルさんと戦うには僕達のすべてでいかなくちゃならないからな……」
カイトがリーファに球体状の魔力を差し出す。
それを見て、にやりと頷いたリーファは魔力を手に取り、口に放り込んだ。
瞬間、リーファの足元から黒い影が立ち上り彼女の身体を覆っていく。
「ウゥゥ……!」
つま先から頭まで影そのもののように真っ黒な容貌へと変化した彼女は、獣のような唸り声をあげながら、視線の先にいるお爺ちゃんへと敵意を向ける。
「僕達も行くか、皆」
帽子を目深に被ったカイトが手に持っている剣を振るうと―――一瞬の変形と共に禍々しいノコギリへと変化する。
それに伴い彼の身体により強い金色の光が覆い、雰囲気がより刺々しいものへと変わる。
どう見ても勇者と従者という見た目ではない二人に、さすがの私も困惑せずにいられない。
「チサト、これどう思——」
「二人とも、本当にUMAみたいな生態してるなー」
「ちょっと。私を置いて、現実逃避しないで!?」
遠い目をしているチサトの肩を揺らしながら正気に戻させる。
と、とにかく、私達は二人を援護しなきゃ!
あの二人の急激な変化には驚いたけれど、あれほどの力ならもしかするかもしれない!
暴走モード解禁のリーファと、残虐戦闘解禁のカイトでした。




