第百六十二話
第百六十二話です。
黒の冒険者と名乗った老人、ウィル・エンテスタさん。
その圧倒的な実力で、半数の勇者と従者たちを倒されてしまった。
今は彼が呼んだという医療班の方々によって医務室へと運ばれているが、現在の問題は僕達が彼とどう戦うかという問題になった。
勿論、全員が彼と戦うつもりだ。
黒の冒険者というとてつもない実力を持つ方との実戦。
例え、ボコボコにされて気絶させられようとも、彼と少しでも戦った経験は得難いものになるはずだ。
それに僕とリーファはボコボコにされ慣れているので、気にしないという理由もある。
「どういう風に戦う?」
気絶していた勇者達を運び終えた訓練場の端っこの方で僕達はウィルさんと戦うための作戦会議のようなものを行っていた。
戦うメンバーは僕とリーファとチサト、そしてセーラさんの四人だ。
普通なら一対一での戦いが望ましいのだが、ウィルさんから「一遍にかかってこなけりゃ一瞬で終わるぞ」という警告をいただいたので、そうすることとなった。
「参加できなくて申し訳ありません……」
しかし、イオさんはメンバーとして参加することができなかった。
理由としては彼女の魔法は、水を操るチサトとは連携する上で相性が悪いからだそうだ。
「私の魔法は植物を操る魔法ですので……」
「本当は花の匂いとかで相手を惑わしたり棘とかで攻撃できるんだけど……下手すると味方も巻き込んじゃうし、なにより水を操るチサトの魔法とも相性が悪いから、今回は見学ってことで許してちょうだい」
植物系か、フィルゲン王国の金の冒険者さんとは少し違ったものなのかな?
あちらは草って感じだったけど、こっちは花がメインなのかもしれない。
「とりあえず、私とチサトが後方で支援するわ」
「私は構わないけど、セーラが?」
「ええ、近接戦闘もできなくはないけど、リーファとカイト君がいることだし私は後方の方がいいかなって」
そう言ってセーラさんは、足のベルトから黒色の板のようなものを取り出した。
折りたたんであったのか、ガチャンという小気味のいい音と共に展開されたソレは、僕とチサトにとってはどこか見覚えのあるものだった。
「え、それ銃?」
「ジュウ? いえ、これは魔力装填式の魔筒ね。ヴィングル王国での試作品の一つだけど私の魔法と相性がいいから使っているのよ」
魔筒、というが見た目は一昔前の銃だ。
僕自身、それほどミリタリーとかには詳しくないけど映画とかに出る銃身の長い銃と少し似ている。
違う点と言えば、デザインが角ばった近代的なものっぽいところか。
とにかくかっこいい。
「これは装備している術者の魔法の系統そのものを打ち出すことができるの。炎系統なら、そのまま指向性を持たせた炎を出せるって感じでね」
「セーラの魔法は?」
リーファの問いかけにセーラさんは掌に魔力を集める。
魔力は細い棒状へと変わり、彼女の掌へと収まる。
これは、もしかして矢か?
「私の魔法は“矢”の形状変化型よ。えへへ、地味でしょ?」
「ちょっと地味だと思う」
「こら」
ストレートな感想を口にするリーファを小突く。
「いいよいいよ気にしなくて、我ながら地味だと思っているけど、こう見えても応用は効くからさ。ま、それは戦いが始まってからのお楽しみってことでね」
矢を作り出すということは、僕も使えるのかな?
今回、矢を持ってきていなかったからもしかしたらお願いするかもしれないな。
「じゃあ、私とセーラで支援するからカイト君とリーファが攻める感じでいいね?」
「それでいい」
「僕も異論はないよ」
「うむ、即席ではあるが、現状ではこれがベストな戦術だろう」
リーファと僕とシフが頷いたのを確認したチサトとセーラさんは、無言で佇んでいるウィルさんの方を向く。
しっかりと待っていてくれたあたり、いい人そうなのだけど、実際はそうだろうか。
「準備が整いました」
「おう、用心深いのはいいことだ。さっきの奴らは連携することなく俺に突っ込んできたからな」
頭には帽子に変身したシフ。
右手に剣に変形したライム。
左腕に魔力の盾を展開させるユラン。
使い魔達の臨戦態勢が整ったところで、魔物としての力を解放したリーファと並ぶようにウィルさんの前に出る。
「良い面構えだ。それなりに修羅場をくぐってきているようだな」
「「……」」
「ま、語り合うこともないだろう。お前らは俺に力を示してみろ」
瞬間、僕とリーファの間を縫うように緑色の閃光のようなものがウィルさんへと飛んでいく。
「お?」
飛来したなにか―――緑の矢は、寸分たがわずウィルさんの頭部へと直撃し、閃光を散らす。
唖然とする僕とリーファが後ろを見ると、ガッツポーズをしているセーラさんの姿がある。
彼女の持っている魔筒の先端から彼女の魔力と思われる緑色の残滓が煙のようの立ち上っている。
「よっし、直撃ね!」
「な、なにやってんですか、セーラさん!?」
「戦いは常に先手必勝よ! 本当は遠距離からの不意打ちで仕留めたいけど、あの人隙とか全然見えないから真っ向から不意を打ってやったわ!」
め、滅茶苦茶だぞ、この人。
後ろに下がったイオさんが物凄くげんなりとした顔で頭を抱えている当たり、これが平常運転のようだ。
「……迷わず頭を狙ってきたか。思い切りがいいな」
緑の矢の直撃を受けたウィルさんは、魔力の残滓を手で払いながら感心した様子を見せている。
「やっぱり防がれたわね! チサト!!」
「え、ええ!」
セーラさんの声に応えたチサトが自身の両手から大量の水を放出させ、それらをウィルさんへと向かわせる。
屋内で作り出された大量の水はウィルさんを呑み込もうとするが、水はまるでウィルさんを避けるように弾かれてしまう。
彼の身体の周りを何かが護っている……?
あれが不可視の衝撃波の正体か……?
「なら、これはどうかしら!」
セーラさんが魔力に包まれた手を大きく振るうと、空中にいくつもの矢が浮かび上がる。
それらは重なるように集まっていき、一つの矢へと凝縮され―――魔筒へと装填される。
彼女は銃身を上へと向け、緑の矢を放った。
「弾けなさい!」
ウィルさんの頭上へ撃ちあがった緑の矢は一瞬の輝きを放つと同時に拡散するように弾け、雨のように落ちていく。
地味なんてとんでもない、かなりえぐい範囲の攻撃じゃないか……!
避けるか防がなければ当たる一撃。
しかし、それらもウィルさんの周囲を覆う見えない何かに弾かれていく。
「カイト君! リーファ! やっぱりあの人なにかに守られてる!」
「確認した! 僕とリーファで攻撃を仕掛ける! 皆、手加減はなしで行くぞ!」
「うむ!」
「キュー!」
「シャァ!!」
二人で全力でウィルさんへ向かっていく。
地面は水で満ちており、踏み出す度に水滴を飛ばしながら剣に電撃を纏わせる。
「私が視界を阻む!」
「なら、私は気を逸らすわね!」
ウィルさんの周囲を水の柱が立ち上り、彼の視界を阻害する。
その上で、セーラさんが尋常じゃないほどの緑の矢を連射させ、それらを四方から襲わせる。
水と矢、嵐のように荒れ狂う場所を駆け抜け、跳躍と共に振り上げた炎に包まれた斧を―――ウィルさんへと叩きつける。
「アックスボルケーノ!」
「影爪!」
挟み込む形で同時に繰り出される斧と爪。
完全に直撃したかに思われた一撃だが―――それらはウィルさんにたどり着く前に、彼が掲げた剣の鞘によって受け止められてしまう。
驚愕のままにリーファを見るも、彼女の振るった爪ももう片方の手で掴まれ止められている。
「なるほどな」
「「———!?」」
「いいぜ、お前ら」
これは、能力で止めたんじゃない……!? 単純な腕力で止められているのか!?
僕の肉体強化と、リーファの魔物の力すらも押さえ込むなんて、老人とは思えないほどの腕力だ!
そのまま放り投げた僕とリーファは、着地しながら再び武器を構える。
「奴の思惑に乗るのは気に食わねぇが、お前達のことは気に入った」
彼が払うように腕を振るう。
その瞬間に、セーラさんが放った矢もチサトが取り囲もうとした水が全て、弾きとび―――重力と反転するように、その場に浮かび上がる。
その中心でニヒルに笑って見せたウィルさんは、挑発するように人差し指を立てる。
「遠慮なく殺す気で来な。俺も、少しばかりやる気を出してやる」
改めて感じさせる実力差。
これが、黒の冒険者。
まだ力の一端すらも見せていないウィルさんを前にして、僕とリーファは高揚する気持ちを押さえられずに、今一度武器を握りしめながらウィルさんへと向かっていくのであった。
勇者 セーラ・ルージェス。
系統:“矢”(形状変化型)
・銃に似た形状の魔具を介しての射撃を得意としており、自身の魔力で作り出した矢を装填して放つ。
・放つ矢にはいくつかのタイプがあり、戦闘ではそれを使い分けている。
・近接戦闘もできなくはないが、どちらかというと遠距離からの狙撃が得意。
おかしい。
セーラはまともなキャラとして書くはずだったのに、なんでこんな不意打ち上等みたいなことに……?




