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第百四十二話

第百四十二話です。

 セラさんとの模擬戦を終えた僕達はそのまま訓練も終了し都市に帰ることになった。

 ニトさんには治癒魔法だけではなく、訓練疲れで動けない僕達の分までご飯を作ってもらってしまったのでかなり迷惑をかけてしまった。

 後でちゃんとしたお礼をしなくてはいけないな……。

 セラさんは……うん、最後の最後まで衝撃的な言動と行動ばかりしていたけど、それでも指導は本物だった。

 オロチの遺跡から宿へと戻った頃には、夜になっていた。


「明日はしっかりと休みをとって、試験に備えなくちゃな」


 夕食後。

 シャワーを浴びた僕は寝間着に着替えた後、使い魔達と共に自室で身体を休めていた。


「本当は訓練の仕上げもしてよかったけど……」

「いや、下手に疲労を溜めた状態ではリック殿には勝てない。ここは肉体的にも、精神的にも体調を万全にして試験に挑むべきだろう」

「それもそうか……」


 シフの言う通りだな。

 この七日間の訓練でできることはやってきたつもりだ。

 あとは今まで培ってきたことを出し切ることだけ。


「気分転換がてらに、買い物に行ってみたらどうだろうか?」

「……あー、たしかに最近そんな暇なかったし、そろそろ買い出しに行くべきか……」


 メリアに攫われたことについての報告と先日の訓練で、ごたごたしていたからな。

 明日休むってんなら、その時に不足しているものを買いにいくか。


「前の寝間着は、遺跡に置いて行っちゃったからな……。あともう一着買っておかなくちゃ。あと、必要なものとかあったっけ?」

「キュ!」

「ああ、ライムの水筒も新調しなくちゃね。今までの戦いでボロボロになっているし」


 革の部分とか傷ついているし、水筒も凹んでしまっている。

 年季が入っていると言えば聞こえがいいけど、戦闘中に壊れでもするとシャレにならないので新しいものを買ってしまおう。

 ……僕の身の回りのものはそれほど買いそろえる必要はないな。

 なら、使い魔達の為のものを買おうか。 


「それと、ユランのための寝床か」

「シャー!?」


 僕の使い魔になってからはシフと同じように枕もとでとぐろを巻いて眠っていたが、さすがに三体となると窮屈そうにしていた。


「……いや、それなら皆の分も用意するべきか」

「む、私達の分をか?」

「うん、今まで枕もとに寝てもらっていたけど、寝る場所としてはあれだからね」


 バスケットを用意して、そこに厚手のタオルケットを引く感じでいいかな。

 ハクロは、大きめのタオルケットを床に敷こう。

 頭の中で買うものを考えていると、シフがゆっくりと首を横に振る。


「いや、私はいつも通りの場所で構わないぞ」

「え、そう?」

「おぬしの傍が一番落ち着くからな。ライムはどうする?」

「キュ!」

「寝床が来るならそっちでも寝てみたい、らしい」


 どっちも試したい派か。

 チャレンジ精神旺盛なライムらしいな。

 ライムに頷きながら、僕の傍らのベッドの上で欠伸を零しているハクロへと声をかける。


「ハクロもそれでいい?」

「ウォン」


 こくりと頷いてくれるハクロの頭を撫でる。

 なら、明日は買い物だな。

 改めてそう決めた僕は、次に壁の方へと身体を向ける。


「リーファ、君はどうする?」

『私も行くー』

「よし」


 しっかりと返事をしたリーファに頷く。

 彼女の声に、シフがやや引いたような声を漏らす。


「な、慣れとは怖いものだな……」

「?」

「いや、おぬしが気にしていなければそれでいいのだ……うん」


 そんなシフに首を傾げながら、僕はテーブルに置いてあった読みかけの本を手に取る。

 この世界の魔物について記された図鑑のようなもの。

 少しばかりの絵とかなりの密度の文字が書かれたものではあるが、文字の勉強と知識を蓄える意味ではこれ以上にない教本なので、少しずつ読むことにしているのだ。

 読書を始めてから、静かに時間が流れていく。


「……ん?」


 大体、一時間ほどが経った頃だろうか、ふと周りに目を向ければハクロ、ユラン、ライムはいつのまにか眠ってしまっていた。

 唯一起きていたのはシフだけで、彼は窓の外の景色をジッと見つめながら物思いにふけっているようだった。


「シフ」

「むっ、どうした?」


 こちらを振り向いたシフが、窓際からベッドへと降りてくる。


「大丈夫か?」

「……何がだ?」

「あの遺跡でのこと、悩んでいるんだろ?」


 以前、メリアがシフに口にした言葉。

 シフの記憶が本物ではないことや、彼の使命について。

 自分の存在を揺るがすほどの秘密。

 メリアにあったらそれを聞きたかったけれど、彼女はこの場を離れてしまっている。


「正直、私もよく分からないのだ」

「……」

「私は何者で、どこからやってきた……なんのために生まれてきたのか」


 俯いていたシフが、僕を見上げる。


「おぬしの身体に起こっている異変も私のせいだろう」

「……いや、そんなことは……」

「私は、あの遺跡に招き入れられた者に肉体強化……純魔転生の術式と呼ばれるものを植え付ける役割を与えられていた。……偽りの記憶のままにな」


 シフの記憶が偽物というのならば、多分……そうなんだろうな。

 僕という純魔の魔力を宿す者に、肉体強化という形で純魔転生という訳の分からない術式を植え付けられた。

 そしてそれは今もなお僕の魂と深く結びついて―――もう引きはがすことは無理なのだろう。


「だが、おぬしが言ってくれたように。あの遺跡でおぬしと出会ったそれからの日々は、誰に作られたものではない私自身の大切な記憶だ」

「シフ……」

「ならば、今はそれだけで十分だ」


 シフの瞳には先ほど感じられた悲壮さはなかった。

 多大な信頼を向けられた僕は、彼に強く頷く。


「それに、おぬしは神獣と深く関わる運命にある。ならば、いずれ私の出自も分かるかもしれないからな。これからもよろしく頼むぞ、我が主よ」

「ああ、よろしく。シフ」


 今一度、言葉を交わす。

 言葉にしてすっきりしたのか、シフは小さな欠伸を零す。


「僕達もそろそろ寝るか」

「うむ、明日も早いからな」


 今一度眠っている使い魔達を確認し、明かりを消す。

 ベッドに横になり目を瞑ると、明後日行われる金の冒険者への昇格試験のことを思い浮かべる。

 リックさんは強い。

 今の今までも、僕の前では彼は本気の力を発揮していなかった。

 油断してかかれば、一瞬で倒されてしまうほどの相手だ。


「……ちょっとだけ、楽しみだな」


 だからこそだろうか、そんな強い人と戦えることに高揚している自分がいる。

 昇格試験、どのような結果に終わっても悔いの残らない戦いをしよう。




久しぶりの日常回でした。


※『殴りテイマーの異世界生活』第一巻についての追加の活動報告を書かせていただきました。


MFブックス様公式サイトにて『殴りテイマーの異世界生活』第一巻の表紙が公開されました。

興味のある方は、ぜひ活動報告をご覧になってみてください。

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