第百四十一話
第百四十一話です。
七日間の訓練。
主にセラさんに指導してもらうことになった七日間であったが、結果としては僕達にとって有益な時間を過ごせたと思う。
セラさんがオロチの背ではしゃぎながら逃げ惑う僕達を襲わせようとしたり、僕のトラウマにピンポイントで攻撃してくる無茶苦茶をしてきたりはしたけれども……ま、まあ、あれは悪気はないだろうから忘れることにしよう。
「さーて、カイト君。準備はいいかな?」
「はい!」
遺跡にやってきてから八日目の朝。
オロチの遺跡の前でセラさんと相対していた僕は、自分たちの使い魔の様子を確認しながら彼女の言葉に頷いた。
セラさんとの模擬戦。
僕にテイマーとしての戦い方を教えてくれようとしているのかは分からないけれど、やるからには気を引き締めていかなければならない。
「カイト、油断はしないようにな」
「ああ、分かってる。胸を借りるつもりで全力で行こう」
「キュ!」
「シャー」
元気な声で答えてくれる使い魔達。
帽子に変身したシフを頭に被った僕は、棍棒へと変化させたライムを握りしめて構える。
「肉体強化……!」
肉体強化を発動させ、全身に力が行きわたるように強化させる。
この七日間で肉体強化の扱い方を練習しまくったから、前以上に効率よく動けるようになった。
「いつでもかかってきていいよ」
そう言葉にしたセラさんの傍らには炎に包まれた鳥、フレイムバードのフィードと、手と背中に炎を灯したモグラの魔物が現れる。
フィードは前に見た時があるけど、あのモグラはどんな魔物なのだろうか?
「キュウ!」
え、やだ可愛い。
モグラという生物自体図鑑でしか見たことないツチノコみたいな存在だったのに、なにあの生き物。
地面から頭を出しているモグラに胸打たれたように後ずさる。
「フッ、我が使い魔、グラコに心奪われたようだね……!」
「グラコ……その子の名前ですか?」
「ああ、土の中に潜む竜、“グランドドラゴン”のグラコちゃんだ。この子はね、本来の生息地とは異なる火山地帯で生まれ、炎の性質を宿した変異種でもあるんだ」
見た目はモグラだけどドラゴンなのか。
たしかに背中に鱗のようなものが見えるけど、やっぱり見た目がモグラだ。
「本当は君と語りたいこともあるけど、使い魔談議については後だ! さあ、もう一度言っちゃうぞ! いつでもかかってきていいよ!?」
「カイト、セラ殿は後輩であるおぬしの先制を受け止める形で戦闘を始めたいようだ」
「……それじゃあ、お構いなく」
落ち着け、使い魔についてはこの後に話せばいいだけだ。
今一度気合を入れなおしながら、棍棒を握りなおし―――そのままセラさんへ向かって飛び出していく。
一瞬で彼女へと接近した僕は、両手で握った棍棒を叩きつける。
「——ッ、躱された!?」
棍棒が当たる寸前に後ろに飛んだ!?
前を向けばフィードの足に捕まったセラさんが、空を飛んでいる。
「速いねっ! なら、この子の攻撃はどうかな!」
着地すると同時にフィードに魔力を与え、炎の鳥へと変える。
コカトリスの時とは違い、身体の大きさを変えずに強烈な炎を纏うフィードは、僕へと翼を用いての体当たりを仕掛けてくる。
「ユラン!」
咄嗟にユランに魔力の盾を発動してもらい防御するが車が激突したような衝撃に歯を食いしばる。
———ッ、この熱と速さは……!
「カイト、今度は後ろから来るぞ!」
もう旋回してきたのか!?
ギリギリで後ろを向き、防ぐが迫る熱を纏った空気が、僕の肌に刺すような痛みを与えてくる。
いや、肉体強化を纏っているからこの程度のダメージで済んでいるんだ!
少しでも解いたら、喉まで焼け付いてしまう!
「ぐっ、ぬっ、うぅ!」
ライムも盾のように変形させながら、連続して体当たりをしかけてくるフィードの攻撃を防ぐ。
「クォォォォ……!」
「そう何度も、食らってられるかァ!! ハクロォ!!」
フィードの体当たりが間近に迫ったタイミングでハクロを掌から放ち、軌道を変える。
すれ違いざまに見えたのは、炎に包まれた翼からジェット機のように炎を噴出させながら、加速し続けているフィードの姿。
翼は鋼鉄以上に硬く。
身に纏う炎は、ただそこにいるだけで脅威。
常にトップスピードを維持し続ける翼。
「……よし、本体を狙う! フィードを止めるのは無理だ!!」
「どうやらそのようだ! 本体であるセラ殿を狙うぞ!!」
真正面からぶち当たる必要はない。
続けて体当たりをしかけてくるフィードを横に跳びながら回避した僕は、腕を組んでこちらを見ているセラさんへと駆け出す。
「テイマーならば、使い手が弱点なのが定石! このまま貴女を狙う!!」
「ハハ、いいなぁ、君。そういうところも素養アリだ。だけどね……」
彼女の腕が腰に伸びると同時に、なにかがこちらへ飛んで―――って、危ない!?
魔力の盾を纏った腕で、こちらに迫った鞭を防ぐ。
弾かれた鞭には炎が纏われており、火花を散らしながら彼女の手元へと戻っていく。
「その弱点をなんとかするのも、私達テイマーなのさ!」
「でも!」
「後方注意だよ?」
「クォォォー!!」
背後からフィードの体当たり。
それを背中から直撃し、地面を転がる。
「ぬぐ……!」
「シャァー!?」
「い、いや、大丈夫!」
かろうじて、背中の肉体強化を強めて防いだけど、やっぱり視界外からの攻撃には反応が遅れてしまうな……!
「さあ、グラコ! 君の出番だ!!」
セラさんが地面を数回鞭で叩くと、地鳴りが響く。
危険を感じ、そのまま移動しようとするが、それよりも速く地面が罅割れ、火山のように炎が溢れだした。
周囲を囲まれた!?
周りを見ながら、一先ず逃げる場所を探していると、不意に地面から土くれと共に炎を纏ったモグラ、グラコが飛び出し鋭利な爪で襲い掛かってくる。
「キュウウウウ!!」
「なっ!?」
大きさ自体はフィードと同じくそれほどでもないが、その爪は溶岩のように赤く赤熱していた。
咄嗟にライムで受け止めようとしていた右腕を引きながら、繰り出された爪を避けるとグラコは水に入りこむように、再び地面へ潜り込んでしまう。
「カイト、上にも注意しろ!」
「分かって……る!!」
魔力の盾でフィードの体当たりを防ぎ、地面から襲い掛かってくるグラコの攻撃を移動しながら対処する。
上と下とで意識が散漫になるが、それでも対応できないほどじゃない。
「ここで押さえられていたら、金の冒険者なんて夢のまた夢だ! 全力で行くぞォ! シフ!!」
「おう!!」
「肉体強化! 全ッ開!」
全身に行きわたらせていた肉体強化に全力で魔力を継ぎこむ。
身体に力が漲り、感覚を最高にまで研ぎ澄ませた僕は、空のフィードと地面の中にいるグラコの気配を把握する。
「ユラン、上に魔力の盾を! フィードの攻撃を防いでくれ!!」
「シャァー!」
「んでもって僕は地面のグラコの動きを止める! ライム!! 大槌形態!!」
「キュ――!!」
僕の上方を覆う傘のように魔力の盾を変化させた後、大きなハンマーへと姿を変えたライムを思い切り振りかぶる。
場所は分かっている!
なら、あとは無理やり炙り出すだけだ!!
「オラァ!」
力の限りに地面にハンマーを叩きつける。
グラコの動きにより、地盤が緩くなっていた地面はハンマーの一撃により瓦解し、隆起する。
「きゅうううう!?」
衝撃で浮き上がる地面———その中にあたふたと手を動かしているグラコの姿を見つけた僕は、ロープ状へと変化させたライムを投げつけ、その動きを封じる。
よし! グラコは封じたから次は―――、
「君だぞぉぉ!」
「クォォ!?」
今しがた頭上の盾に体当たりしたフィードを睨みつける。
普通なら空を飛んでいるフィードを捉えることはできないけど、肉体強化で強化された身体能力なら跳べる!!
「ハァ!!」
力の限りの跳躍。
地上から砲弾のように飛び出した僕に、当然のように回避行動を取るフィード。
「甘い! ハクロォ! 僕の身体を吹き飛ばせ!!」
「ワオオオン!!」
僕の身体を旋回するように現れたハクロが体当たりを僕へと叩きつける。
フィードの“なんだこの人間!?”といいたげな視線を感じながらも、腕を大きく広げた僕は、勢いのままフィードの炎に包まれた体に飛びついた。
「ク、クォォ!? クァァ……」
「ハクロ、着地を頼む!!」
「ワォォン!!」
僕の純魔に当てられたのか、一瞬で大人しくなったフィードを抱えて、ハクロに助けられながら着地する。
セラさんの二体の使い魔を無力化することができた。
何より、僕は自分の力をコントロールできるようになったことが一番の成果ともいえる。
自分の成長を今一度噛みしめていると、僕の元にグラコとライムを抱えたセラさんがやってくる。
「うん、お見事。この子達相手にこれだけ戦えるのなら、リックとも十分に戦えるさ」
「ありがとうございました!」
「いいよいいよ、この子も思う存分に動けたみたいだしね」
抱えたグラコを見て、優し気に微笑むセラさん。
もしかして、フィードはともかくグラコと呼ばれたモグラの魔物は、比較的新顔なのだろうか?
「セラさんは、何体の使い魔を有しているんですか?」
「うん? うーん、この子達を含めて26体くらいだね」
「にじゅうろ……ッ!?」
「本格的に契約しているのはね。それ以外を含めるともっと多いよ?」
予想の三倍くらいの数が出てきて言葉を失う。
使い魔の数はテイマーの実力に直結している。改めて、先輩である彼女の凄さを再確認する。
「色々な場所に契約した子達がいて、その時その時に助けを求めたり、会いにいったりしてるんだ」
「へ、へぇ……」
「言い方を変えれば現地妻みたいなものだね!」
「すみません。その例えはマジで最低だと思います」
意図してやっていることなのかは分からないが、サムズアップしているセラさんにドン引きする。
「離れていても繋がっている。それもテイマーの形みたいなものさ」
「そうなんですか?」
「君は、私に近いテイマーだから、これからも沢山増えていきそうだね」
これからも頼れる仲間が増えていく。
そう考えると心が躍るけれど、相応に大変そうだなと思う。
「それよりさ……カ、カイト君。そろそろフィードを離してもらってもいいかな? その子、なんか借りてきた猫みたいに大人しくなっているけど……」
「あ、すみません。……ごめんね、フィード」
抱えていたフィードを解放すると、なにを思ったのか僕の肩に跳び乗り、前のように翼を頬へとすりつけてきた。
もしかしてこの子なりの親愛の証がこれなのかな?
すると、なにを思ったのかセラさんの腕の中にいるグラコも、彼女の腕の中から僕の方へと飛び込んできた。
「おわっ!?」
「きゅうー」
咄嗟に受け止めると、グラコはそのまま目を閉じて寝息を立て始める。
かつてない状況に困惑していると、目の前にいるセラさんがわなわなと震えていることに気付く。
「グラコちゃん!? フィードも……わ、私より彼の方がいいの!?」
「誤解を招く言い方をしないでください!?」
なんて言い方するんだ。
こちらへ来ようとしていたリーファとニトさんがぎょっとした顔をしている。
「私とは遊びだったの!?」
「あんた本当は分かって言ってるでしょ!?」
なにこのよく分からない修羅場。
感覚的にだが、僕の肩にいるフィードはセラさんの反応を面白がっているように感じる。
「でも悔しいけど……正直、興奮するものがある……! これも純魔の力か……!」
「そろそろ貴女を張り倒してもいいでしょうか!?」
これ以上、この人に口を開かせたら混沌しか生まないのでは!?
無駄にキリっとした顔でしょうもないことを口にする彼女に、僕は戦闘時よりもグッと疲れた感覚に苛まれるのであった。
一般テイマーからしてみても割と化物なセラ。
彼女の使い魔ガチパはえげつないことになっております。




