第百三十九話
第百三十九話
ランク・ゴールドへの昇格試験への内容は、金の冒険者と戦って力を示すことだった。
僕達の対戦相手として選ばれたのは、リックさんとスノウさん。
奇しくもどちらも魔力を武器の形へ変化させる形態変化の魔法の使い手だけれど、彼らの戦闘能力は僕が知る中でも群を抜いているのは確かだ。
「さて、どうしたもんかな……」
「うむ……」
ベルセさんから試験についての説明を受けた後、宿へと帰った僕達。
今は夕食を済まし、食堂の椅子に座りながら試験について考えていた。
「しっかし、まさか君達も金の冒険者への昇格する話をされてるとは思わなかったよ」
「ん? 君達もってことは、ライラも?」
同じ宿に住んでいる先輩冒険者、ライラが頷く。
今の今まで彼女の実力を知ることはなかったけれど、まさか彼女も……。
「私は断ったけどね」
「え? どうして?」
「もうちょっとだけ経験を積みたいってこともあるけど、まだまだキールとフランと一緒にパーティを組んでいたいからかな?」
「そういう理由もあるんだ……」
正直、僕達もそういう理由で断りたいところだけど、それは無理なんだよな。
僕達にとって金の冒険者への昇格は、勇者と従者としての力の証明を意味している。
国の象徴的な存在ともいえる勇者がランク・ブロンズの冒険者だったら箔がつかないだろう。
「僕が戦うのはリックさんで、リーファがスノウさんか」
「ははは、受けなくてよかったと思ったー。さすがにゴリゴリの戦闘特化のあの二人とは私も戦いたくないしねー」
「ライラでもそう思うほどかー」
「でも力を試すには、最適な人選だとは思うよ? あの人たちの攻撃に対応して、一時でも互角に戦うことができれば、それだけで凄いことなんだから」
リックさんは、僕にとっては何かと縁のある人だ。
冒険者になるための試験で試験官を担当してくださったり、グリフォンの討伐に連れて行ってくださった。
フィルゲン王国に行く前は修行なんかもつけてくれたので、ある意味で僕にとっては先生や師匠といってもいい存在なのかもしれない。
「とにかく、君達の試験が楽しみだよ。かなり話題になりそうでもあるからね」
「え? 話題?」
「君達が思っている以上に、街の人達は君達のことを知っているってことだよ。……それじゃ、私はそろそろ部屋に戻るとするね」
「あ、はい。おやすみ」
「おやすみー」
そこで立ち上がったライラは、明日の遠征依頼の準備があるというので自室へ戻って行ってしまう。
街の人達は知っている、か。
たしかに今までギルドの依頼をこなして、街の人々とも交流してきたからな。
……それはそうと、さっきからテーブルで頭を突っ伏しているリーファに触れてやるか。
「リーファ」
「相手代わって」
「切実だな……」
「だって、あの人怖いもん。無表情で攻撃してくるもん」
たしかに。
実のところ、表情の機微くらいは以前施してもらった訓練で分かるようにはなったけれど、元々あまり感情を表に出さない人なのだろう。
だけど、彼女の槍さばきと形態変化で作り出された槍を扱う技は生半可なものではない。
「でも、私とキャラが被ってるから頑張る」
「お、おう……」
「そうと決まれば訓練、といいたいところだけど……シフ、試験はいつだったっけ?」
「たしか、十日後だな。かなり早いぞ」
今日を除くと九日か。
それまでにやるべきことが沢山あるな。
「僕はユランを含めた新たな戦術の組み直しと、肉体強化に慣れること」
「私は純魔覚醒をもっと扱えるようにと、できることをもっと増やすことだね」
今日のギルドの訓練場の模擬戦を通じて、やらなければいけないことは見つかっている。
後はそれを含めて伸ばし、基礎的な能力を上げていくだけだが―――、
「でも問題は……訓練する場所がないってことなんだよな」
「うん……」
「力をつけたカイトとリーファにとって、公共の場であるあの訓練場は狭すぎるからな。貸し切りにすればいいが、さすがにそれをするのは横暴すぎる」
王国の訓練場も使用させてもらうまで時間がかかるらしいので、これも駄目だ。
試験までの時間は驚くほど短い。
理想的な訓練の場としては、しっかりとした広さがあって、周りに危険が及ばず―――且つ、練習相手がいることだ。
「シャァー!」
「ん? ユラン?」
僕の腕に乗り可愛らしくないたユランに視線を向ける。
なにか案があるようなので、シフに訳してもら―――いや、待てよ……蛇?
「そうか……オロチがいたか……」
「シャァ!」
「ユランもそれが伝えたかったらしい。たしかに、オロチの遺跡の周りは人気もないし、訓練する場所にはうってつけだろう。入るには、ベルセ殿の許可も必要だろうが……うむ、悪い案ではないな」
遠くない場所に清流もあったし、水も確保できる。
訓練場所としてはまさしく、うってつけの場所だ。
「よし、リーファ、明日から一週間の強化合宿だ」
「うん! ……がっしゅくってなに?」
「そうと決まればさっそく準備だ!」
「お、おー!」
とにかく訓練に行くことを理解したリーファが握りこぶしを掲げる。
そうと決まれば明日は僕はギルドに、リーファは訓練をしに行くことを城に伝えにいかなくては。
許可が下りない可能性もあるけど、それはそれで後で考えよう。
一週間ほど山籠もりしにいくようなものなので、早速服やら野営用の道具屋らの準備に取り掛かるため、自室へ戻ろうとすると、台所で食材の仕込みをしているメルクさんを見つける。
彼女は、呆れたようなため息をついている。
「はぁ……突拍子のない行動に出るのも同じか。まったく先が思いやられるな……」
なにやらお疲れのようだ。
お世話になっている身としては、あまり無理はしてほしくないなぁ。
そんなことを思いながら、僕は明日の準備をしに自室へと戻るのであった。
翌日。
結果だけでいうなら、ギルドからも城からもオロチの遺跡に向かうことを許可してくれた。
その代わり、ギルドからは治癒魔法使いであるニトさんの同行を約束された。
治癒魔法使いはギルドでも重要な存在から留守にするとまずいのでは……? と思ったが、彼女の後輩にあたる治癒魔法使いが数人いるらしいので、自立的な意味でニトさんなしで治癒魔法使いとしての仕事をさせてもらうとのこと。
当のニトさんは、そりゃもう滅茶苦茶不機嫌だけれども。
……いやまあ、ニトさんが不機嫌なのは僕達のせいだし、その怒りも甘んじて受けるつもりだ。
しかし、この訓練。
偶然ギルドに居て、偶然僕と遭遇し、偶然僕とベルセさんの話を聞いていた人が、僕達の指導役として参加することになった。
その人は―――、
「よしこの金の卵共! おっと、金の卵はあくまで言葉の綾さ、断じて金の冒険者になるひな鳥である君達をなじったわけではないからね! ……今クスリとも言わない君達への好感度は下がったが、それはともかくとして、なんとなく暇でギルドをうろついていたら君達が昇格のための訓練をすると聞いて、面白そうだからついてきた!!」
リックさんとスノウさんと同じ、金の冒険者であり、僕の先輩テイマーであるセラさんである。
……どうしよう、とんでもねぇ人がついてきてしまった。
都市の出入り口で合流したリーファが、目を点にしながら僕を見ている。
「セラさん」
「フッ、なんだい? 僭越ながら、人にものを教えるのは得意でね。君達の訓練を手伝うことも―――」
「五分間だけオロチに触ってもいいので、帰ってください……」
「きゅん。セラの好感度が上がった」
しまった、地獄だ。
いや、本当に教えるのが上手な人なので……よくよく考えれば、日常的におかしな行動にでるこの方が人にものを教えるのが巧いという事実が理不尽そのものだ。
「帰りたい……なんで、私ここにいるんだろう……」
死んだ目の治癒魔法使い、ニトさんは僕達と同じような荷物を背負いながら、そんなことを呟いているのであった。
セラ、指導役としては有能なのも理不尽。
やさぐれ治癒魔法使いニト、なぜかいつも巻き込まれる。
次回は日記回を予定。
土日はお休みなので、次の更新は月曜となります。




