第百三十八話
第百三十八話です。
あの後、マイさんにめっちゃ怒られた。
たしかに訓練場ででかい攻撃ぶっぱなして暴れまわったら、怒られるのが目に見えていた。
完全に僕達の自業自得なので、目が据わった彼女に説教をされた後に、荒れた訓練場を僕とリーファで直すことになった。
その後、僕達はギルド長に呼ばれてギルドの上階の一室に足を運んでいた。
「随分と絞られたみたいだね」
苦笑いをしているギルド長、ベルセさんに乾いた笑みを返す。
隣には疲労のあまりテーブルに突っ伏しているリーファがいる。
テーブルの上には、話を聞こうとしているシフがおり、ライムとユランはそれぞれの定位置で昼寝をしている。
「……ベルセさんは、その……大丈夫ですか?」
長い間会うことができなかった娘、イリスさんとの再会を果たしたはずが、彼女は僕達の前から姿を消してしまった。
父親である彼がショックを受けないはずがない。
そういう心配もあって、そんな質問をしてみたが……彼は、いつものように優し気に微笑んだ。
「気を使わせてしまってすまない。でも、私は大丈夫さ」
「ですが……」
「まずあの子と再会できたこと自体が奇跡みたいなものなんだ。……それに、文面だけではあるが、あの子は私を父親と認めてくれた。……なら、今急ぐ必要はないさ」
「そう、ですか」
イリスさんは、どうして出て行ったのだろう。
もしかしてメリアに何かをされた?
だとしても、なにを?
もし次に会うことがあったら、ちょっと怒りながら聞き出してみるか。
「さて、話を始めようか。カイト君、リーファを起こしてもらってもいいかな?」
「はい。おーい、起きろ」
「む、む……起きる……」
疲れてスライムのようにぐでーっとしていたリーファがテーブルから起き上がる。
前は数分くらいごねていたはずだが、これも城での英才教育の成果なのかな?
「それで、女王様から聞いているだろうけど、私からも説明をさせてもらうよ」
僕達に確認するようにしたベルセさんは続けて言葉を発する。
「君達は、金の冒険者への昇格試験を受けてもらうことになる」
「「はい」」
リックさん達の実力をこの身で味わった僕からしてみれば、かなりの不安があるが、色々な事情があるというのなら受けるしかないのが現状だ。
「まず初めに説明することは、金の冒険者に昇格する条件についてだ。それについては聞いたかな?」
「えーっと、冒険者としてのこれまでの功績と、金の冒険者からの推薦状……とかですか?」
「うん。でもそれだけじゃないんだ」
「その前にまずはランクについて説明しなければな」と呟き、立ち上がったベルセさんは背後のホワイトボードのような板に、ペンで何かを書き始める。
二つの丸に書かれたこの世界の文字、そこには“ブロンズ”と“シルバー” と記されている。
「本来、冒険者という枠組みはシルバーとブロンズという二つの枠組みだけで十分なんだ。元々の名前は違ったものだったしね」
「そうなんですか?」
「しかし、時代も変わって、ギルドに求められる依頼の水準と難易度が高いものに変わっていくにつれて、下手に死傷者を出さないためにギルドは依頼に関する制限と、新たな序列の枠組みを作ることになったんだ。……この話も300年くらい前の話ではあるけどね」
ギルドもそれなりに長い歴史のある組織ということか。
「そこでできたのが金の枠組み、ランク・ゴールド。常人では決して達成できない依頼を解決させることを可能にする者達———そして、その一員として新たに加わるのが君達、ということになる」
だとすると、かなり重要な序列になるということじゃないか。
緊張する僕に、ベルセさんが視線を向けてくる。
「各国のランク・ゴールドの基準はかなりあやふやだ。このヘンディル王国のギルドの長を務めている私が主眼に置いているのが、戦闘能力、状況判断能力、依頼達成能力だ。他にもあるが、挙げるとキリがないので、おおまかな基準がこの三つとなる」
「……三つ」
「まず戦闘力が低い者では、金の冒険者に向けられた依頼を達成することは不可能だ。依頼の失敗はギルドの信頼を落とすことに繋がるが、それ以前にどのような任務にも生存することのできる力を持っていることが何よりも重要だ」
まあ、それが重要なのは僕にも分かる。
依頼を達成しても肝心の自分が死んだら、意味がないからな。
「しかしまあ、うちで選ばれる金の冒険者はみんな曲者揃いでね。腕は確かだけど、性格に難があるのが多いんだ……」
「あ、あはは……」
リックさんは幾分か常識人だけど、セラさんがなぁ……。
あの人、オロチに食べられそうになると、オロチの身体を這いながら移動しまくるからびっくりした。
まさか蛇の上で蛇みたいな動きをし始めるとは思わなかった。
あの人、マジでなんなんだろう。
ドン引きする一方で、そのあくなき熱意に尊敬している自分がいる。
でも、そんなセラさんと比べて、僕は曲者ってほどでもないな。
どちらかというと―――、
「カイトの方が普通じゃないよね?」
「リーファの方が普通じゃないよな?」
「「……ん?」」
「カイト、リーファ。見苦しいからやめてくれ……」
無言のまま睨み合う僕達に、シフが小さな前足を頭に当てている。
喧嘩するほど仲がいい。
それは例に漏れずに僕達に適用されるだろうが、親しき仲にも礼儀ありという言葉がある……! いや、僕も同じことを口にしていたけれども……!
「ははは、君達も例に漏れずにだな」
ベルセさんの声に一先ず前を向く。
「しかし、僕とリーファは、貴方の言う基準を満たしているのでしょうか?」
「ああ。勇者とその従者としての活躍、個人の戦闘力を鑑みて、金の冒険者として遜色のない実力を持っているといってもいいだろう。……私個人としては、シルバーでもう少し依頼を経験してもらいたかったところだが……それを許される状況でもなくなっている」
今後行われるセントレアルの勇者招集に、リーファを勇者として公表することもあるからな。
悠長に待っていることもできないのだろう。
フィルゲン王国にいるチサトのように身分を隠して冒険者として活動しているわけじゃないから、しょうがない話とも言えるけれど。
「……昇格試験の内容については、その時その時で変えられている。前回の試験は確か……危険度の高い魔物、マンティコアの討伐が昇格の条件だったな」
「ほう、マンティコアとな。強力な獅子の魔物だな?」
シフが感心したように頷いて見せる。
なら、僕達も討伐メインの依頼なのかな?
「君達には特別な事情があることから、観衆の目につく場所で行われることになる」
「では、討伐関係ではない?」
「ああ、君達の実力を考えると可能性は低いが、討伐に際して何かしらの危険が降りかかる可能性もあるからね。魔王軍がいるならなおさらだ」
そういえば、魔王軍の問題もあったな。
あれが依頼に割って入る事態とか簡単に想像できそうで怖い。
最近、ようやく魔王軍と関わらなくなってきたのに、変なところでエンカウントしたくはない。
「試験内容は当ギルドに所属する金の冒険者との模擬戦闘。もちろん、殺し合いの戦闘ではないが、それなりに気合の入った戦いになることを覚悟していてくれ」
「金……!? あ、相手は?」
「リックとスノウだ」
「「……はい?」」
僕とリーファが声を揃える。
だって、そうだろう? まさか金の冒険者と戦うことになるなんて思いもしないし、その相手が僕達に戦い方を教えてくれたリックさんとスノウさんだって?
固まる僕達に、苦笑したベルセさんが話しかけてくる。
「勝敗に関しては関係ないと伝えておこう。昇格基準は、己が出せる実力を出し切って見せる―――そんな単純なものだ」
「……」
どうしよう、僕達に物理的に痛い記憶を与えた人達と戦わなくちゃいけなくなった。
明らかに実力も経験もあちらが上の相手に、僕達はどう立ち回ればいいのだろうか。
リック「楽しみ」(ワクワク)
スノウ「楽しみ」(獰猛)




