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第百三十七話

第百三十七話です。

 金の冒険者への昇格。

 一応の試験があるとはいえ、いきなりブロンズからゴールドにまで上がるとは思いもしなかった。

 しかし、僕にはまだその心構えができていない。

 冒険者になってからまだ半年も経っていないし、つい前は自分の力を抑え込んで草むしりをしていた身だ。

 そんな僕がいきなりゴールドに上がってしまっていいのか自分自身が疑問に思ってしまっている。


「———カイト、ボーっとするな!」

「……っ!」


 シフの声に我に返り、前を見ると眼前に迫る黒色の刃が見える。

 咄嗟にそれを右手に握りしめた剣へと変形したライムではじき返す。

 弾かれた黒い刃は、溶けるように地面に戻り影へと戻る。

 その影を踏みしめながら、魔物の力を解放した状態のリーファが、影を引き連れながら僕へと襲い掛かってくる。


「練習だけど、手加減はしない」


 振るわれる爪を剣で迎え撃つ。

 そうだ、今はギルドの訓練場でリーファと模擬戦をやっているんだった。

 鈍った体を本調子に戻すため、んでもって僕と彼女が新しく得た力を試すための模擬戦だ。


「その姿のままでも大分安定しているね!」

「カイトのおかげかな! もう、貴方の魔力なしでもこの姿になれるみたい!!」


 地面から迫る刃を電撃を纏わせた手刀で崩しながら、今の彼女の状態を確認する。

 うろ覚えだけど、リーファは操られた僕との戦闘の最中に、僕の血を取り込み魔物としての力を解放した。

 そのせいか、彼女は僕の魔力を用いずに純魔覚醒を行えるようになれた。


「影纏い・追い薙ぎ!」


 肉体強化を用い、感覚を強化させながら振り下ろされた爪を防ぐが、その次の瞬間には彼女の背後から遅れて影で作られた爪のようなものが迫る。

 時間差での攻撃か!

 僕は、左腕で影の爪を受け止めるように構える。

 このまま受ければ怪我をしてしまうが―――、


「シャァァ!!」


 僕の新しい仲間がそうはさせない!

 左腕に巻き付いた白い蛇———ユランが、左腕を覆うような鱗模様の魔力の盾で防ぐ。

 使い魔 ユラン。

 メリアが作り出した魔物であり、強固な魔力の盾を作り出す蛇。

 限度はあるけれど、僕が魔力を注ぎ込めばそれだけ強く、大きく展開できる!


「つ、ついに猪なカイトに防御手段が!?」

「君は一言多いな!?」

「影槍!」


 だけど、これでライムを武器のままにして戦うことができるようになったのだ!

 籠手のように纏われた鱗状の魔力を突き出すように構え、リーファの足元から次々と伸ばされる影でできた槍を叩き落とす。

 そのまま踏み込みと共に、ライムを剣から棍棒へと変形させながら突きを繰り出す。


「ふん!」

「当たらないよ!」


 自身の影に沈み込み、近くの木の影に現れるリーファ。

 なら、次の変形だ……!

 片手で持った棍棒を横薙ぎに振るいながら、さらに鞭へと変える。


「シフ!」

「おう!!」


 一瞬にして鞭が電撃を纏う。

 それを目にしたリーファは、跳躍に合わせて鞭を回避しながら、宙返りからの踵落としを繰り出した。


「くっ……!」

「硬……ッ!」


 魔力の覆われた左腕で防御するも、彼女の底上げされた身体能力は強力だ。

 肉体強化と魔力の盾の上からでも衝撃を通してくる……!


「まだまだ、これからだよ!」

「来い!」


 着地と同時に腰から引き抜いたナイフを構えるリーファにすぐさま鞭を引き戻し、剣へと変えリーファとの近接戦へと切り替える。


「ッ、影ふ―――」


 彼女の足が僕の影を踏みつけようとしたところで、すぐさま後ろへ跳び下がる。

 そのまま着地を狙って襲い掛かってこようとしたリーファに、シフの電撃を纏わせた左手からハクロを放つ。


「雷電ハクロ掌!」

「むぅ!?」


 影に包まれた腕をクロスさせ、電撃を纏ったハクロを受け止めたリーファ。

 地面に着地した僕に、やや高揚とした笑みを浮かべた彼女は電撃が少しも効いた様子はない。

 そのまま両手を地面につけると、自身の影を大きく広げ始める。


「影を広げて、面で攻める……!」


 自身の半径10メートル以上の範囲にまで影を広める。

 そのまま立ち上がった彼女が、手を上へと掲げると影に波紋が浮かび、いくつもの槍が空へと突き出され、それらは指向性を持ちながら僕へと向かってくる。


「降り注げ! 影槍!!」

「ちょ、ちょちょ、それは危なくない!?」

「カイトなら大丈夫でしょ!」


 にしても、本気でやりすぎだろ!

 しかも範囲攻撃、今から回避しても間に合わない……!

 ッ、仕方ない!!


「皆! 前に考えた形態でいくぞ!」

「おう!」


 剣状態から大剣へと変え、両手で握りしめる。

 左腕に巻き付いていたユランが剣の柄に移動し―――柄周りに魔力の盾を作り出す。

 柄を持つ手に力を籠めると同時に、盾の部分を上へと向けて魔力を籠める。


「ぐぐぐ……!」


 僕の身体一つを覆えるくらいに広がった魔力の盾にいくつもの影の槍が降り注ぐ。

 槍は刃引きしているけど、肝を冷やしたぞ!

 槍を全て防ぐと同時に、僕は声を張り上げる。


「シフ、ハクロ! 燃え上げろ!!」


 シフが火炎付与で大剣に炎を灯し、ハクロがその風をさらに燃え上げさせ強化する。

 煌々と燃える大剣を見た彼女は、思いっきり頬を引き攣らせながら青ざめる。


「げぇ!? そ、それはちょっと危なくない!?」

「君ならこれくらい大丈夫!!」

「さ、させるかぁ!」


 リーファが人型の影を作り出し、こちらへ向かわせる。

 それなりの速さのある影の攻撃を、柄に展開させている魔力の盾ではじき返し、そのまま盾での体当たりして横に吹き飛ばす。


「これぞ攻撃と防御の両立形態! 名付けてテイマーズブレイドだ!」

「カイト!? その名は仮と言っていたはずだ!?」

「卑怯すぎる!! どっちかにしてよ!?」


 んな無茶言うな!?

 とりあえず、火を弱めながら眼前へと炎を纏わせた大剣を叩きつける。


「ふん!」


 瞬間、眼前が炎に覆われ、砂煙が舞う。

 本来ならば炎を一気に解放して眼前の敵を薙ぎ払う技なのだが、弱めても尚強烈な熱風が吹き荒れる。

 その威力に僕は、ちょっとだけ冷や汗をかく。


「……さすがにやりすぎたか?」


 いや、違う。

 僕は、先ほど突き飛ばした人型の影へと向く。

 すると僕に飛び掛かろうとしているリーファが視界に入りこむ。


「やっぱり避けてたか!」


 それを認識すると同時に、右手のライムを手放しながら、リーファの片腕を掴み取る。

 そのまま地面に倒れながら、リーファの右腕を極めるように腕拉ぎ十字固めを仕掛ける。


「どれだけ君の相棒をしていると思うんだ! 性格上そういうことをするのは分かってんだ……!」

「それはこっちの台詞ぅぅ……!」


 リーファの新たな技【影移(かげうつ)し】、影で作り出した分身と自身を入れ替える技。

 今の状態では、一体しか出せないがそれでも相手の攻撃をほぼ確実に避けられる技だ。

 だが、掴んでしまえばこっちのものだ!


「ここまでがっちり固めてしまえば影に潜り込むこともできまい!」

「それは、どうかなぁ!」

「む!?」


 地面に寝転がっている僕の影から、いくつも腕らしきものが伸びぽかぽかと叩き始める。

 地味に痛い!? あ、砂をかけてくるのはやめろぉ!?


「なんだ我慢比べか!? 魔王軍幹部すら脱出できなかったこの技から逃れられると思っているのか!」

「あんな毛むくじゃらのおっさんと一緒にすんな! 意地でも抜け出してやる!」

「いや、お互いに倒れたのだから一旦終わりでいいと思うのだが……」

「シャァ……」

「キュ……」

「ウォン……」


 シフ達のそんなツッコミをスルーして、我慢比べへと発展する僕達。

 周囲の視線を大量に集めていると、そんな僕達の元に誰かがやってくる。


「……」

「え? あ、マ、マイさん?」

「楽しそうだね?」


 ギルドでお世話になっている女性職員、マイさんだ。

 彼女はにっこりとした笑顔で僕達を見下ろしている。

 あ、やばい。

 目が全然笑ってない。

 僕とリーファは自然と正座になる。


「訓練場を使ってもいいけど、限度があるんだよ?」

「……はい」

「……すみません」

「久しぶりに体を動かせて楽しいのは分かるよ? うんうん、私も君達の元気な姿が見れて本当に嬉しい」


 優し気な声に思わず顔を上げる。

 リーファも、同じようにして彼女を見ると―――、


「でも、度が過ぎれば怒るよ?」


 ―――あの遺跡の戦いを経て、僕達は強くなった。

 それも急激に。

 だけど、それはいい話ばかりではなかった。

 ……いや、自業自得だけれども。


遺跡での戦いを経て成長したカイト達。

地味に範囲攻撃ができるようにもなっています。


カイト

・肉体強化の強化。

・防御型の使い魔、ユランの追加。


リーファ

・カイトの魔力なしでの純魔覚醒が可能となった。

・現状一体だが、影での変わり身が可能。

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