第百三十六話
第四章開始です。
メリアとの邂逅を経て、僕の周りは慌ただしいことになった。
まずは僕がオロチのいる遺跡に攫われた件について。
そもそもがオロチの遺跡にメリアという神獣がいること自体知られていなかったので、勿論城では騒ぎになったらしい。
僕とリーファはジェシカ様や臣下の方々に質問攻めにされたが、なるべく遺跡で起こったことを隠さずに説明した。
それに結構な時間がかかったけれど、城の方々の表情は依然として焦燥に駆られており、事態がどれほど予想外なものだったかを理解させられてしまう。
「とりあえず、貴女が勇者だって公表するわよ」
「え、突然……」
遺跡での騒動から半月が過ぎ、ようやく報告やオロチに関する話が終わりを迎えたところで、僕とリーファはジェシカ様に、呼び出されていた。
そこで知らされたのは、リーファを勇者として公表するということ。
少し急すぎる気がするけど、時間的には大分待った方なんだろうな。
「もう、勇者招集とかも色々と切羽詰まってきているし、貴女も実力的にも問題ないわ。礼儀作法は……」
「大丈夫、完璧……!」
「とりあえずは及第点だけど、この際目を瞑るわ」
「不満っ!」
頬を膨らませぷんすか怒るリーファ。
まあ、このタイミングで目の前のお菓子に手を伸ばさなくなった時点で相当成長しているだろう。
僕がリーファをなだめていると、この部屋に入った時点でジェシカ様に抱えられたシフが、やや疲れたような目で彼女を見上げた。
「女王殿、カイトはどうすればいいのだ?」
「カイトについても公表するわよ。ヘンディルとフィルゲン両国の勇者の正当な従者としてね」
「そちらも決まったのか?」
「ええ、もう悠長にしていられる状況じゃなくなったしね。多少無理にでも話を進めてやったわ」
「い、いいんですか? それ」
そう口にすると組んだ手に顎を乗せたジェシカ様は僕へと視線を向けてくる。
「貴方は物語で言うお姫様気質があると、私は見抜いたの」
「はい? 僕は男なんですけど」
「よって、貴方には貴方を守る勇者が必要と判断したの」
「僕は男で、従者なんですけど!?」
「安心しなさい。あちらの勇者もとても喜んでいたから」
全然喜べないんですけど!?
たしかに今までの騒動を振り返ると、攫われたりとかしてるけども。
しかし、あのチサトがどのように喜んだというのか。
「近いうちに勇者の公表するから、ちゃんと覚えておいてね。あともう一つは、今後のギルドでの身の振り方についてよ」
「身の振り方?」
「貴方達のことが公表されれば、今までのようにはいられない。それは分かっているわね?」
まあ、そうだろう。
今までのようにブロンズの冒険者として依頼を受けることも難しくなってくるかもしれない。
「勇者とその従者である貴方達が、いつまでもブロンズでいることは体裁的にもまずいわ。……本当はもっと早く上げるべきだったのだけど、問題が重なったり、リーファの教育計画が重なってしまったのでそれどころではなかったのも事実だけどね」
「カイトも肉体面での問題もあったしな」
肉体強化を使うことを避けていたから、戦闘を避けた依頼を受けていたからな。
その状況で上のランクに上がるのも色々と不自然だった。
「肉体強化か……」
正直、今でも得体の知れない力だけれど、もう使わないという選択肢を選んでも意味がないのは、自分が一番分かっている。
いや、それ以前にこれからのことを考えていると、下手に使わないよりかはいざという時にしっかりと力を制御できるようにしていかなければ駄目だ。
自身の掌を見つめて頷いた僕は、ジェシカ様へと視線を向ける。
「分かりました。それで、ランク・シルバーへの昇格についてですけど」
「いえ、貴方達が昇格するのは金の冒険者、ランク・ゴールドよ」
「「……は?」」
「まだ決まったわけではないけどね」
銀じゃなくて、金?
リックさん達と同じランクになるというのか?
さすがにそれはいきなりすぎじゃないか?
「ちょ、ちょっと待ってください! ここは順当にシルバーに上がる方が先じゃないんですか? できれば、そういう不自然な形に……えーと……」
駄目だ、どうやっても丁寧に言えない!?
さすがに“権力でゴリ押しする”って言葉を丁寧語に変換するのは、今の僕じゃ無理だ。
口どもっている僕を見かねたのか、リーファが代わりに口を開いた。
「ジェシカ様。権力にものを言わせて上に押し上げるのは嫌。上がるなら自分の力でやる」
「え、違うわよ?」
あっさりと否定したジェシカ様。
シフを抱いたまま人差し指を立てた彼女は、にやりと笑ってみせる。
「ちゃーんと、きっちりとした理由があるから安心しなさい」
「……どういう理由なんですか?」
「これまでの貴方達の功績と、金の冒険者からの推薦状、その他諸々……それと昇格を決めるのは公式な場での試験になるわ」
もしかしてベヒモスの時の僕達の動きを評価したのか?
金の冒険者からの推薦状も気になるけど、公の場の試験とはいったい……?
「ま、試験はどちらかというより、貴方達が金の冒険者たり得るかを知らしめるものであって、どちらかというより見世物に近いかもしれないわね……多分」
多分て。
随分と曖昧な言い方をされるんですね……。
「昇格については、勇者の公表よりも前に行うから覚えておいてね」
「「はい」」
僕とリーファが頷くと、ジェシカ様は満足そうに頷く。
「そして、セントレアルで各王国の勇者達が招集される話は覚えているかしら?」
「うん」
「そろそろ日にちが決まるそうだから、そっちの方も準備をしておいてね」
多分、リーファが勇者として公表するのも、僕の従者としての話も、セントレアルの勇者招集に影響されてのことなのだろう。
フィルゲン王国に引き続き、また遠くの場所に行かなければならないのが少しだけ不安だけど、リーファとチサトの従者となるからには、しっかりと気を引きしめなくちゃな。
「さて、今日のところはこれくらいかしらね」
「……あの、思ったのですが……」
「何かしら?」
「どうして、わざわざジェシカ様が説明してくださるんですか? 説明だけなら他の人にできると思うんですけど」
話すことが終わったのか、手元の紅茶に手を伸ばしたジェシカ様に気になった質問をしてみる。
僕の問いかけに、顎に指を当て悩む素振りをみせた彼女は、すぐにこちらへ顔を向ける。
「貴方達の様子を確認できるし、名目的に仕事を休んでティータイムができるからかしらね」
「ジェシカ様、さいてー」
「それはどうかと思うぞ」
「おっと貴方達、不敬の罪で捕えさせちゃうぞー?」
ジト目で睨むリーファとシフにからからと笑いながら茶化してくるジェシカ様。
分かってはいたけど、やっぱり掴みどころのない人だなぁ。
ともかく、金の冒険者への昇格に、勇者としての公表、それに勇者招集と、まだまだ大変なことが僕達には待ち受けているようだ。
とりあえずまずは金の冒険者の昇格試験に集中していこうか。
今回は導入のようなものとなります。




