第百二十七話
後書きにて、重大発表があります。
第百二十七話です。
異形の弓から放たれる白銀の矢。
ソレはゴーレムを砕き、貫き、それでもなお勢いは止まらずに遥か先の暗闇へ突き進んでいった。
あんなものが生身に当たれば、致命傷は免れないだろう。
貫き、崩れ落ちるゴーレムを目にしたカイトは、無傷の私とシフを見ると―――後ろから襲い掛かろうとしたゴーレムを振り向きざまに拳で貫く。
「———ライム」
弓に変形していたライムがさらなる異形へと変わる。
さらに大きく、強靭なものへと変わった長弓を手にしたカイトは、槍のように振るい残りのゴーレムを薙ぎ払った後に―――先ほどより一回り大きな矢をマントから手に引き寄せる。
「ま、まさか、カイト!? 当たらなかったのが攻撃範囲のせいだと思っているのか!?」
「あんなもの当たったら致命傷どころか、身体が吹き飛ぶぞ!?」
文字通りに木っ端みじんだ!
とてつもなく重い音で、つがえた矢が引き絞られる。
「おおおォ!」
すぐさま目くらまし用のゴーレムを作り出そうとすると、リーファがカイトへと飛び掛かる。
矢を放とうとしていた彼が、素手のままの左手でリーファの爪を掴み取る。
リーファの爪が手に食い込み、鮮血が迸るが―――それでも彼は止まらない。
「いい加減に目を覚ませ!!」
「……っ!」
長弓を持つ右手も動かそうとするが、それもリーファは押さえつける。
リーファとカイト。
遺跡の中で相対する二人は、組み合ったまま動かなくなる。
「イリス殿!」
「ッ! 泥の土人形!!」
シフの声に頷いた私は不定形のゴーレムを作り出しカイトへと掴みかからせる。
リーファが抑えてくれたおかげでようやく掴めた!!
「固まれ!!」
ゴーレムを遠隔で固め―――カイトの身体を覆うように拘束させる。
右腕の二の腕部分と下半身、そして上半身の半分以上を固められたカイトに、さらにリーファが自身と周囲の影を使って、カイトとライムをがんじがらめに縛り始める。
四肢を封じ。
変形しようとするライムを影で包み込み。
その上で力で勝っているリーファでようやく押さえることができた。
「これでカイトを―――」
「イリス!!」
ゴーレムと影で完全に動きを封じられているカイトを押さえているリーファが、必死の表情で私に声を張り上げてくる。
「私ごとゴーレムで固め続けて!! もう……ッ、私以上に力が強くなっている!」
「魔物の力を解放したリーファの力を上回るだと……! そんな力、どこから……!」
ゴーレムで固めた部分が罅割れ始めている!?
至近距離でリーファの姿のみを視界に納めているカイトは、さらに強い金色の光を纏っていく。
組み合った右手の爪を、カイトの左手と繋げるように合わせたリーファは、それでも歯を食いしばりながら必死にカイトを押さえ込もうとするが―――その時、彼の左肩を覆っていた土と影の拘束が不自然にはじけ飛んだ。
「なっ!?」
カイトの肩から現れたのは、ユランと似た姿の半透明の蛇。
彼の左肩のマントから現れ、その身体に覆いかぶさるように現れた白い蛇は影の拘束を噛みちぎってしまう。
「———っ、あ」
なんだあれは。
見た目こそユランとは同じだが、明らかに違っている。
白い蛇は、その鎌首を上げるとカイトを押さえているリーファの肩に噛みつく。
『シャァァ!』
「く、うぅ!?」
土の拘束を完全に砕いた彼は腕力のみでリーファを押し返し、逆に掴み取りながら近くの壁に投げつける。
壁に背中から叩きつけられて動かなくなったリーファに、左手を向けると―――半透明の白い大蛇が大口を空けて襲い掛かる。
「ここまできて、リーファをやらせるか!」
ここでリーファがやられてしまえば終わりだ!
大量の魔力を地面へと注ぎ込み、リーファとカイトの間を遮るように周囲に何重もの土の壁を作り出す。
「リーファ、無事か!?」
「う……」
「シュ、シャァ!」
「駄目だ! 気絶しているぞ!」
「っ、一旦この場を離れる!!」
気絶したリーファをゴーレムに背負わせた私は、移動しながら目くらまし用の壁と人形を作りながらその場を移動する。
背後から、破壊音が聞こえてくる。
それから逃げるように、私は不気味な明かりに照らされた通路の端を進んで行く。
●
暗く、淀んだ道の中を歩いていた。
肌に突き刺さりそうな寒さ。
先は見えず、ただ暗闇だけが支配する闇の中をただ虚ろな思考のまま進んで行く。
私は、なにをしていたんだっけ?
たしか、カイトを助けるために、遺跡に入り込んで……神獣に操られたカイトと戦って、それで……。
ああ、そうだ。
私、負けちゃったんだ。
カイトを取り戻すはずなのに、負けてしまった。
―――大事な、人なのに。
私に心の安らぎを教えてくれた。
一緒にいる楽しさを教えてくれた。
“あなたのような汚らわしい獣は必要ないの”
白い蛇に肩を噛まれた時、耳元で囁かれた女の声。
私を嘲り、優越感に浸ったそいつの言葉が、耳から離れてくれない。
心の中に黒い淀みが広がっていく。
思わず歩を止めようとしていると、いつの間にか私はどこかの洞窟の中に迷い込んでいた。
『銀蛇に刺激され、ここまでたどり着いたか。“影”を受け継ぎし娘よ』
ぼんやりとしながら声のする方を見上げてみれば、そこには真っ黒い獅子のような獣がいた。
先端が白く染まった黒い鬣。
普通の獣とは比較にならないほどの巨躯。
誰も座っていない玉座の傍に控えるように座り込んだ獅子は眠そうな瞳で重い声を発した。
『純魔を、守れ』
影のように暗く、凍てつくような寒さを纏った獅子は、私を見下ろした。
私は思わず「どうすればいいの?」と言葉にしたが、それは声にはならずただ静寂だけが洞窟の中に存在していた。
だがそれでも伝わったのか、先ほどの荘厳な様子のまま目を開いた獅子は再び言葉を発する。
『血を、取り込め。今のお前なら、新たな可能性へと進めるだろう』
新たな、可能性?
首を傾げる私に構わず黒い獅子は続けて言葉を発する。
『本能のままに生きよ。我が愛しき影の娘よ。―――お前はいずれ、半身たる姉と共に同じ志を、同じ道を歩む運命にあるのだから』
今いる場所が夢なのか、そうでないか分からないまま目の前がさらに暗くなる。
黒い獅子の言葉の意味は分からない。
半身とは、姉さんのことを言っているのだろうか?
あの人と、同じ道を?
意味が分からないまま、徐々に視界が明るくなっていく。
ゆっくりと閉じていた瞼を開くと―――、
「め、目覚めたか! リーファ!!」
「よかった……」
「……シフ、イリス……?」
私の顔を覗き込んでいるシフと、肩の怪我の手当てをしてくれているイリスがいた。
周りを見てみれば、壁のようななにかが私達を覆っているけど、多分イリスがカイトから隠れるために作ってくれたものだろう。
……私は、カイトに負けて気絶させられてしまった。
「イリス、私の怪我の具合は?」
「見た目ほど酷くはない。戦う分には問題ないが……」
「カイトには勝てない……」
最初は勝っていた私の力も、肉体の負荷を度外視させたカイトには上回れてしまう。
それにあの白い蛇も厄介だ。
額を押さえ、思考を巡らせていると身体にユランを巻き付けたシフが私の前に歩み寄ってくる。
「先ほどの戦いを見て、カイトを操っているのはあの肩についている装備にあると私は見た」
「あの蛇が……?」
「ああ、あれはカイトと疑似的な使い魔契約のようなものを交わしているようだ。その繋がりもそれほど強固なものではない」
「なら、あれを引きはがせればカイトは元に戻せるかもしれないってこと?」
「そうとは限らん。あれをはぎ取った上で衝撃を与えれば、もしかしたら……という確率だ」
つまり、あの目障りなマントをはぎ取ってカイトに目覚めの一撃を叩き込めばいいということね。
できるかできないかは置いておくとして、もっと詳しく話し合うべきかな。
「カイトを一時的に抑えれば、あれを引きはがせる?」
「方法はある。私とユランが体を張らなければならないがな」
「シャァー!」
「……まあ、ユランはやる気だ。もちろん、この私もな」
元気よく一声ないたユランにシフが頷く。
その様子に肩の力を抜いた私は、一人考えをまとめているイリスに話しかける。
「なら、イリスはシフとユランを守って。私がカイトの動きを止めるから」
「……一人では無理だぞ」
「今の私ではね」
さっき見た夢。
あれが本当か嘘かは分からないけれど、ひとつだけ確信していることがある。
「カイトから、血をもらう」
右の掌を見ると、爪で攻撃した時についたカイトの血がついている。
何度もカイトの手に噛みついた時があった。
もちろん、ほとんど私の意思じゃないけれど―――僅かに血が口に入ったことがある。
正直、鉄の味しかしないという感想しか抱けなかったけれど、そこに含まれている魔力は、私の中の魔物を虜にした……と思う。
それほどの力と魅力のあるそれを取り込めば、私はまだもう少しだけ強くなれるかもしれない。
「リーファ?」
「シフ、イリス。作戦を始める前に、協力してほしいことがある」
純魔の魔力は、私に大きな力を与えてくれる。
だけど、それだけじゃ今のカイトには敵わない。
———魔力は、血に宿る。なら、賭けてみるのも手だ。
やるしかない。
カイトを取り戻すためなら、どんな無茶でもしてやる。
黒い獅子の台詞要約
・大事な人は守ってあげなさい。
・血を取り込んでステップアップしなさい。
・頑張れ娘。あと姉妹なんだから仲良くしなさい。
※※※
この度『殴りテイマーの異世界生活』がMFブックス様より書籍化することとなりました。
発売日は11月25日を予定しております。
これまで、拙作を呼んでくださり本当にありがとうございます。
これからもWEB版の方も更新を絶やさないように書き続けていきたいと思います。
書籍化についての活動報告を書かせていただきましたので、詳しくはそちらをご覧になってみてください。




