第百二十四話
第百二十四話です。
前話に名前のみ出たキャラについて、少しばかり修正いたしました。
ダリア→ベルン
今回からイリスの視点となります。
カイトの奪還。
ヘンディルの城の援軍を待たずにシフと共に追跡へと向かったリーファは、いつもののほほんとした様子からかけ離れた目つきで―――目の前に存在する崩落した遺跡を睨みつけていた。
「やはり、カイトの気配はこの中から感じる」
「見て、あそこに隙間が空いてる」
リーファが指さした方向を見れば、そこにはちょうど人が一人分が通れるほどの隙間がある。
改めてその周りを見れば、遺跡の入り口は崩壊し見る影もない。
「ここを、脱出したのか?」
「ああ……」
私の問いにシフが頷く。
ここまでくる間にカイトとシフ、ライムとオロチの因縁について聞いてはいたが―――彼は、この世界に来て間もない間に、そのような試練に立ち向かっていたのか。
「オロチ……串焼きにして食べてやる」
「あー……シフ」
「気にするな。気が昂っているのだ」
いや、どうみてもまともな状態とは思えないのだが。
リーファの様子を気にしつつ、隙間から遺跡に入り込む。
中は暗く、少し先の空間すらも見えないので、松明を付ける。
「造形・土人形」
地面から土を集め、作り出したゴーレムに松明を持たせる。
明かりをつけても尚、暗い。
この状況で魔物からの襲撃に備えなくてはならないのは、中々に厳しいな。
「……どういうことだ……!」
先頭にいるシフが呆然とした声を零す。
動揺を表すかのように、尻尾をぴんと立たせた彼? にリーファが話しかける。
「シフ、なにか分かったの?」
「なにもいない」
「……?」
「ここには、オロチの気配も、他の魔物の気配も全く感じられないのだ。以前、ここに暮らしていた私からすればありえないことだ」
暗闇に包まれた周囲をみると、確かに魔物の気配が全く感じられない。
オロチの住む遺跡は多くの魔物が潜む場所。
そんな場所がここまで静かなのは不気味すぎる。
ニーアならば「あはは! すっげぇ楽しそう!」とか脳が溶けたような言動をとっているところだな、とバカなことを考えながら追加のゴーレムを二体ほど地面から作り出す。
「索敵はゴーレムにさせる。行こう……カイトを助けに」
「うむ! そうだな!! 弱気になるのはまだ早い!! リーファ、行くぞ!」
「うん、私も頑張る」
こくり、と勢いよく頷いたシフは気丈な様子でリーファと共に松明の明かりで照らされた暗闇へと進んで行く。
その姿を見ながら、少し遅れて私も歩み始めるが、先ほどの台詞が恥ずかしくなってしまい顔を手で覆ってしまう。
「~~っ!」
今までこんな真っすぐな善意の言葉を口にしたことがあっただろうか。
私の記憶の中では、基本的に魔王軍の外道共の悪口と、エルフ族の人でなし共への悪口しか口にしていなかった。
だから、自然とそんな台詞を口にしてしまったことに途端に恥ずかしくなってしまった。
「心を強く持て、私……!」
ここに来たのはカイトを攫った存在への接触だ。
最低限の成果としてオロチの脅威度と、こちらで捕獲できないかの調査。
オロチという悪名高い魔獣を手中に収めることができれば、魔王軍にとって大きな武器になることは間違いなしだ。
「……大きな、武器か」
私の故郷のエルフ達への憎しみは、増している。
あんな場所跡形もなくなってほしいくらいに思っているし、むしろ消えてもらっていた方が世の為だろう。
だが、ヘンディル王国という地で人並みの安らぎを知ってしまった私は、元の環境に戻れるのだろうか?
ヘンディル王国には冒険者としての生活、穏やかで、心優しい人々との交流。
魔王軍での作業に追われる毎日、文句と催促しかしてこない魔王への対応、好き勝手に動き回り減らず口と煽りを飛ばしてくる外道共と関わっていかなくてはならない。
……これ以上考えるのはよそう。
こんな状況なのにため息をつきながら、前を向くと不意に前を歩いていたシフとリーファの歩みが止まっていることに気付く。
「シフ、どうしたの?」
「ここに、階段がある」
たしかに下に続く階段がある。
「この先にカイトが?」
「うむ。だが、本来この場所に階段なんてなかったはずなのだ」
……シフという魔物は、とても頭がいい。
その思慮深さと、判断力は侮れないものがある。
そんなシフが自身が住んでいたであろう場所を見間違うはずがない。
だとするなら、この階段は―――、
「何者かが作った。それか、元から存在していた隠されたもの、ということか?」
「考えたくもないがな。この先にカイトが連れていかれたというのならば、私達は向かわねばならない」
松明を持たせたゴーレムに階段を照らさせると、かなり奥まで続いているようだ。
さきほどより警戒を強めながら、一段一段着実に階段を降りていく。
「カイトって、変な人に好かれやすいの」
階段を降りていく最中、先頭を歩いているリーファが前触れもなくそんなことを呟いた。
変な人? ……いや、ちょっと待て、なにを人ごとのように言っているのだろうか、この娘は?
姉のニーアほどではないが、リーファも十分に変な子だと思うのだが。
「ゴリラのお姉ちゃんとか、チサっ……フィルゲン王国の勇者に、挙句の果てには神獣にまで好かれてる」
「そ、そうなのか……」
「今回も、そうなんじゃないのかと私は睨んでいる」
今の短い会話の中にとんでもない情報が混ざっていたのだが、大丈夫なのだろうか?
……このような状況だが、話の内容には興味がある。
あ、あまり得意ではないが、情報を聞き出してみるか。
「神獣に好かれているとは、どういうこと―――」
「ッ、待って。奥から何か来る」
ナイフを構えながら階段の奥を見るリーファ。
彼女が戦闘態勢に入るのを見て、控えさせていたゴーレムを動かす。
「! オロチか!?」
「ううん、とても小さい、なにか。イリス、照らして」
「あ、ああ」
ゴーレムに指示を出し、階段の下方を照らすように松明を照らすと、たしかにこちらへ黒い小さななにかが階段を必死に這いずりながら登ってこようとしているのが見える。
脅威……ではないようだ。
それほど大きくもなく、敵意は感じない。
「……白い、蛇?」
魔物、ではあるのだろう。
私達の姿に気付いた蛇の魔物は、小さな鳴き声を上げた。
「シャ、シャァー!」
「むっ!?」
鳴き声を聞き、ぴくりと尻尾を動かしたシフは蛇へと近寄る。
懸命に何かを伝えようと、続けて鳴き声を上げる蛇と、うんうんと頷く黒猫という不可思議な光景に肩の力が抜けそうになる。
「おぬし、ユランなのか?」
「「え?」」
「シャー!!」
呆気に取られる私達にこくこくと見覚えのある頷きを見せる蛇―――ユラン。
鎧の魔物とばかり思っていたユランが、まさかこんな、かわい……小さな蛇の魔物だったなんて!
……持ちかえりたい衝動に駆られてしまうがここは堪えなければ……!
「……話を聞かせてもらうぞ」
「シャァ……」
厳しい目つきのシフに、ユランは項垂れる。
予想外の出来事の連続だが、カイトを連れて行ったユランがこの場にいるなら、彼も近くにいるかもしれないな。
カイトを探しながら、彼を連れ去った張本人であるユランの話をシフを通じて聞き出すとしよう。
もうバレバレだったと思いますが、ユランは小さな白蛇の魔物でした。
鎧に手を入れた際、カイトの指を舐めていたのは、スキンシップのようなものですね。
セラが鎧の中に頭を突っ込んだ時は、ガチで焦っていました。




