第百九話
第百九話です。
イリスさんが晴れて冒険者として活動することになった翌日、早速彼女はギルドで依頼を受けることにした。
彼女の依頼に付き添うのは、僕の使い魔達とユラン。
ユランにとっても初めての一般的な依頼なので、僕も色々と気を付けなくちゃならない。
「では、依頼を選んでくる」
「はい。僕達はここで待ってます」
ギルドのカウンターへと向かうイリスさんを見送る。
僕の時は畑を荒らすコボルドを撃退する依頼だったけれど、イリスさんはどんな依頼を選ぶのかな?
戦闘系の依頼はしないって言っていたけれど、やっぱり街の人の手伝いとかかな?
「イリス殿のことなら心配はいらなそうだが、一応気に掛けとくべきだな」
「そうだね……」
魔王軍関係で色々あったみたいだし、できるだけ僕達がサポートしないと。
密かに気合を入れていると、僕達の元に誰かが近づいてきていることに気付く。
ふと、顔を上げるとそこには見知った顔があった。
「……ベルセさん?」
「すまない。カイト君、少しいいかな?」
このギルドで一番偉い人、ギルド長のベルセさん。
彼は周りを気にするような素振りをしながら、僕へ話しかけてくる。
なんだろう? と思いながら頷く。
「……すまない、場所を移してもいいかな?」
「え、それは構いませんが……。シフ、ライム、ユランと一緒にいてもらってもいいかな?」
「うむ」
「キュー!」
「!!」
水筒に収まったままのライムをユランに渡した後、人の少ない壁際へと移動する。
改めて、ベルセさんの顔を見ると、どこか疲れているように見える。
「お疲れですか?」
「いや……寝不足なだけなんだ。心配はいらないよ」
……本当に大丈夫だろうか?
「彼女、冒険者になった少女、イリスのことだが……一体どういう経緯でここに?」
「……? イリスさんのことですか? どうして、彼女のことを……?」
「いや、この街では見慣れない子だったからね」
なんだろう、今違和感のようなものがあったような……。
見慣れない、という言葉については、ギルド長としてこの王国と深く関わっているベルセさんなら、疑問に思ってもおかしくない。
とりあえず、そこは説明だけしておこう。
「イリスさんは、行き倒れたところを僕達の宿に連れてこられたんです」
「行き倒れ!? な、なぜ!?」
「お金を持っていなかったらしくて……」
「お金を持っていなかった!?」
いつもの穏やかなベルセさんらしくないオーバーリアクション。
顔を青ざめさせた彼は、眩暈を起こしたように後ずさりながら何かを呟き始めた。
「彼らは、あの子にまともな金銭すらも与えなかったのか……?」
「ベルセさん……?」
「……あぁ、いや、すまない」
聞き取れはしなかったけれど、イリスさんのことを心配していたのだろうか?
……ベルセさんは、僕とリーファの事情を知ってくれているから、イリスさんが魔王軍に捕まっていたことを話しておくべきか?
一応、話しておこう。
正直、こういうのは頼れる大人の協力が必要だろうし。
「実は、彼女は魔王軍に酷い目に合わされていたようで……」
「なんだと?」
ベルセさんの目が剣呑な光を帯びる。
あの温厚なベルセさんでさえも、魔王軍の非道さに怒りを露わにさせる。
「それで、心に傷を負ってしまっているようで……」
「……そう、だったのか。ありがとう、カイト君」
「?」
できるだけ簡潔に話すと、ベルセさんはなぜか僕にお礼をいってくる。
なぜお礼を言われたか分からず首を傾げていると、僕とベルセさんの元に依頼書の内容が記された紙を手にしたイリスさんと、ユランたちがやってくる。
「カイト、依頼を受けてきたぞ。……む?」
僕と話しているベルセさんに気付いたイリスさんは、彼に軽く頭を下げる。
「おはようございます。ギルド長」
「あ、ああ、畏まらなくてもいい。……初めての依頼かな?」
「はい。何分初めてのことなので、まだまだ不慣れで手間取ってしまいました」
さきほどの話を聞いたからか、ややぎこちない様子のベルセさん。
しかしそれでも、柔らかい笑みを崩さずに彼女に話しかける。
「肩ひじ張らずに頑張ってみるといい。冒険者の誰もが通る道だからね」
「助言、感謝します」
「……ああ、うん」
しっかりとした敬語を口にするイリスさんは、もう一度一礼すると僕の方を向く。
「カイト、依頼者の元に向かおう。内容については歩きながら話す」
「分かりました。では、ベルセさん、僕達は依頼の方へ行ってきます」
「カイト君」
「はい?」
やや遅れてイリスさんについて行こうとした僕を、ベルセさんが呼び留めてくる。
それに振り返ると、そこには真剣な表情のベルセさんがいた。
「彼女を、頼んだよ……!!」
「え、ええ? わ、分かりました」
なんだろうか、色々な感情が込められた激励を送られてしまった。
それほど難しい依頼を受けるとでも思われたのかな?
戸惑いながら、先に行ってしまったイリスさんについていくと、ユランが僕にライムが入り込んでいる水筒を渡してくれる。
「ありがとね、ユラン」
「!」
ユランにお礼を言い、水筒を肩にかけていると肩にシフが飛び乗ってくる。
「ベルセ殿とは何を話していたんだ?」
「イリスさんのことだよ。ベルセさんは、彼女が外からやってきた人だって気づいてたみたい」
「むぅ、そうだったのか」
でも、少し様子がおかしかったな。
「ん? ……少女?」
ベルセさん、イリスさんのことを少女って言ってなかったか?
イリスさんは、大人びている容姿をしているし喋り方も大人っぽい。ちょっと失礼かもしれないけれど、少女と呼ぶほど幼くは見えない。
……。
「まあ、それほど気にするほどでもないか……」
面接する前に確認でもしたのだろう。
今は、イリスさんの依頼のことに集中しなくちゃな。
イリス関係の話がどんどん複雑化。
ドキュメンタリーかな?(白目)




