第百八話
第百八話です。
結果だけ言うと、イリスさんは見事冒険者試験に合格することができた。
あれだけすごい魔法が使えるんだから、落ちることはないと思っていたけれど、やっぱり無事に冒険者になることができてよかったと思う。
それともう一つ、いいことがあった。
それは、ユランが普通のギルドの依頼に連れていけるようになったことだ。
たった数日の間だけどギルドからの依頼を真面目にこなし、且つ街の人々と友好的な交流をしたことが認められたのだ。
「おめでとうだね!」
「おめでとうございます」
「おめでとー」
イリスさんの合格が知らされた日の夜。
僕達は夕食の席で、イリスさんが冒険者になったことを祝うことにした。
「あ、ありがとう……。しかし、こういうのは気恥ずかしいものがあるな……」
僕、リーファ、ライラの祝いの言葉に困惑した様子を見せるイリスさん。
僕とリーファが冒険者になった時も同じような祝い事をしたけれど、僕も同じような反応をした覚えがあるなぁ。
「ユランもよかったね。ギルドに認められて」
「!!」
僕の右隣に座るリーファの言葉に、左隣にいるユランがこくこくと頷く。
ユランの様子に僕も自分のことのように嬉しくなりながら、イリスさんへと顔を向ける。
「無事に合格できて本当に良かったですね」
「ああ。しかし、面接というものは些かあっさりしたもので驚いたな」
「そういえば、面接した人は誰だったの? 普通の職員さんだった?」
ライラの質問に、イリスさんは答える。
「ギルド長だったな」
「え、ベルセさんが!?」
「ああ、たしか、そう名乗っていたな」
僕とリーファの時は例外ばかりだと思っていたけれど、普通の試験の面接も担当してくれることがあるんだな。
「そういえば面接の最中、私を見ていやに驚いていたな……」
「驚く? ベルセさんが?」
「それほど気にすることでもないが……まあ、エルフが珍しいだけだったのだろう」
たしかに街でもエルフの人は見かけるけど、それほど多くないな。
この世界でのエルフという種族への認識は、耳が長いことと基本的に美男美女が多いというものだ。
僕も何度かすれ違った時はあるけど、皆整った顔立ちをしていた。
目の前に座っているイリスさんも、その例に漏れずに美人な人だと思う。
「そういえばさ、イリスっていくつなの? 今の今まで聞いていなかったけど」
今まで無言で夕食を食べていたリーファがそんな質問をした。
たしかにイリスさんがいくつくらいかは僕達も知らなかったな。
「私か? ……たしか、18くらいだと思う」
「「「え!?」」」
「なぜ驚く?」
容姿と喋り方からしてすごい大人びているから20歳前半くらいだと思っていたら、思った以上に歳が近かった……!?
あまりの驚きに質問したリーファも唖然としている。
「え、ちょ、待って、嘘。同い年?」
「よく数えてないから分からないがな。そもそも、エルフは早熟らしいからな。見た目の成長も早いのだろう」
特に気にすることでもないように、イリスさんはパンを食べ始める。
……なんだか、他人事のように自分のことを話すんだな。
もしかして過去になにかあったのか? 触れられたくないことだろうし、聞かないでおこう。
「ねぇねぇ、冒険者になったから依頼を受けに行くんだよね?」
「な、なんだ? 先ほどより距離が近くなったような気が……」
「同い年だからねっ!」
「訳が分からないぞ……?」
コミュ力の鬼、ライラが一気に距離感を詰めてくる。
そんなライラに戸惑いながらも、イリスさんは答えてくれる。
「……まずは宿泊費用を稼がなくてはならないからな。まずは簡単な依頼を受けてみようと思う」
「まあ、そのために冒険者になったみたいなものだからねー」
んー、と口元に指を当てたライラは、おもむろに僕に視線を向けると何かを思いついたように表情を明るくさせる。
「あ、カイト君。今、依頼とか一人で受けてるよね?」
「え? そうですね」
「じゃあ、イリスに冒険者の依頼とか色々と教えてあげられないかな?」
「それなら――」
「駄目、私がいる」
承諾する前にやや早口のリーファが、僕の声を遮る。
隣を見れば、チサトと初めて会った時と同じようなふくれっ面の彼女がいた。
「君は城でまだやることがあるだろ? 別にコンビを解消するわけじゃないんだから……」
「むんぅ……」
ライラとイリスさんには、リーファは依頼関係で城に向かっていると伝えている。
しょんぼりするリーファに苦笑しながら、もう一度イリスさんへと顔を向ける。
「僕なら構いませんよ。イリスさんがよければ、ですが」
「ふむ……」
思案するようにイリスさんが腕を組む。
数秒ほど考え込んだ後に、顔を上げた彼女は微笑を零した。
「説明は聞いたが、まだ冒険者という職がどのようなものか理解しきれていないので、頼んでもいいかな?」
「分かりました。それじゃあ、明日から早速依頼を受けてみますか?」
「そうだな」
ユランも依頼に参加できるようになったし、問題はない。
あとはどんな依頼を受けるかによるけれど、それもあまり心配しなくてもいいだろう。
「改めて、よろしくお願いします。イリスさん。明日は頑張りましょうねっ!」
「うっ……こ、こちらこそ、よろしく……」
一瞬、顔を顰めさせ胸元に手を当てるイリスさん。
またいつものアレかな?
苦しそうに見えるけれど、これって感動しているってことなのかな?
「もう何度も同じ反応してるよね。まだ慣れないのかな?」
「す、すまない……嫌な訳ではないんだ……それだけは本当だ」
ライラの言葉に申し訳なさそうに返すイリスさん。
その様子をジッと見ていたリーファは、一度僕へと視線を向けた後、意を決したような表情を浮かべ、イリスさんへと話しかけた。
「あの、さ。イリスさんは魔王軍となにか関係があるのかな?」
「ッ!?」
カタンッ! とイリスさんがもっていたスプーンがテーブルへと落ちる。
初めて会った日から、あえて避けていた質問。
いずれは聞かなくてはいけないことだけど、いざその時が来ると気まずい気持ちになってしまう。
「そ、それは、その……」
酷く狼狽した様子を見せるイリスさん。
声をうまく出せなくなっている彼女に、リーファは穏やかな声で話しかける。
「もう大丈夫。ここは安全だから、魔王軍なんか怖がる必要ない」
「……え?」
「魔王軍に囚われていたところを逃げ出したんだよね?」
「え、あ……ハイ」
確認するように質問したリーファに、イリスさんは呆然としながら頷く。
「噂に聞いていた魔王軍に、酷いことをされていたなんて……やっぱりとんでもない組織だね……! さすがの私も怒り心頭だよ……!」
あの温厚なライラも怒りを露わにさせている。
やっぱり僕達の推測は当たっていたということか。
できれば外れていて欲しかったけれど、やっぱりどうしようのない怒りってものは湧いてくるもんだな。
「帰る場所がないなら、ここにいてもいいんです。魔王軍が貴女を連れて行こうとしても、僕達が絶対に止めて見せますから……!」
「そ、そうか、あぁ、ありがとぅ」
さすがに動揺してしまっているのか、ややか細い返事が返ってくる。
そして俯いてしまった彼女は、また胸元を押さえてしまう。
「む、無償の善意が、わ、私を追い込んでくるぅ……」
やっぱり、魔王軍はいずれは止めなくちゃならないな。
もし、イリスさんのような境遇の人がいるとしたら、きっとその人たちも苦しんでいるだろうから。
スパイとしてはこれ以上にないベストポジションに収まるイリスさん。
尚、魔王軍にいた時と同じくらいのダメージを受ける模様。




