第百六話
第百六話です。
公園広場の掃除が始まってから八日。
最初は終わりが見えない草むしりから始まった作業だけれど、今は違う。
いつの間にかご近所に住む方々が手伝いにきてくれたおかげで、目に見える速度で公園広場は元の美しさを取り戻していく。
正直な話、最初こそはギルドからの依頼―――作業感覚で行っていた掃除も今では、達成感のようなものを感じていた。
しかし、それも終わりに近づこうとしていた。
「カイト、そこ、そこにあるぞ!」
「おお、ありがとう。シフ」
地面でごみを探していてくれたシフの指示に従い、最後のごみを拾う。
そのままゆっくりと立ち上がって周りを見れば、あれほど荒れ果て、汚れていた公園広場が綺麗な姿を取り戻していた。
街の人々が散歩などで通る通路沿いで伸び放題だった雑草やゴミも片付けられ、濁っていた噴水の中も綺麗に磨かれ、今や透明な水が波紋を作っている。
「……これで、終わりだな」
色々と感慨深い気持ちになりながら、後ろへと振り返る。
そこにはこの数日間、掃除を手伝ってくださった街の人々の姿がある。
振り向く形で彼らと向き合った僕は、持っていたゴミ袋を地面へと下ろし、大きく息を吸う。
「皆さん、お疲れさまでした! 今日をもって広場の清掃を終了させていただきます!」
皆さんに聞こえるように、そう声を出すとその場にいる手伝ってくださった人達が拍手をしてくれる。
子供達とその保護者さん達、中にはおじいさんとおばあさんも手伝いにきてくれており、その人数は30人以上といってもいい。
「ありがとねぇ、カイト君」
「貴方が始めてくれたおかげで、この公園が綺麗になったよ」
「いえ、僕だけの成果ではありません。皆さんが手伝ってくれたからこそです」
一人でやっていたら、そこそこのところでやめていただろう。
最後までこの公園を綺麗にできたのは、やっぱり街の人の手伝いがあったからこそだ。
「カイト兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
街の人々と言葉を交わしながら、掃除用具などの後片付けを行っていると子供達とユランと―――なぜか彼らに混ざったリーファが駆け寄ってくる。
とりあえず、自由すぎるリーファをスルーしながら、子供たちの視線に合わせてしゃがんだ僕は彼らに笑いかける。
「終わったら、報酬であまくるみを買いに行こうか」
「「わーい!」」
「わーい!」
「あ、リーファは自分で払ってね」
「そんなっ!?」
なぜに驚く。
しかも子供達に混ざって君は何を言っているのか。
リーファは頬を膨らませながら、握りこぶしを掲げる。
「不平等! 私にも奢って!」
「リーファお姉ちゃんは、慎みを覚えるべきだと思うの」
「おれもそー思う」
子供に忠告される勇者とは……。
しかしそれでも、ふくれっ面を戻さないリーファ。
でも、いつも城の勉強を休まず行ってくれているし、そのご褒美くらいはあってもいいかもしれないな。
「……はぁ、しょうがない。勉強も頑張っているようだし、君の分も買うよ」
「え、いいの? やった! 大好き!」
「はいはい。全く、調子いいんだから……」
すぐに上機嫌になるリーファに苦笑すると、足元にいるシフが呆れたように嘆息する。
「私が思うに、カイトはなんだかんだでリーファに甘すぎると思うぞ」
「きゅ……」
いや、リーファも頑張っているからね……。
そろそろ、後片付けも終えるので、子供達と共にその場を移動するべく声をかけようとすると、近くにいるユランが男の子を肩車していることに気付く。
ユランの周りには、肩車されている男の子を羨む子供たちがいる。
「すすめー、ユラン!」
「ずるい! おれも乗せて!」
「あたしも!」
大人気だな。
まるで、着ぐるみかロボットみたいな扱いをされてはいるけど、どちらも楽しそうだ。
子供達と戯れているユアンの姿に、肩に跳び乗ってきたシフは穏やかな口調のまま言葉を発する。
「子供に好かれるのは、ある意味で性格を表しているといってもいいな。……私もこの数日間、ユランのことを見てきたが、彼は悪い魔物ではないと思う」
「僕も同じ意見だ」
ちょっとホラーチックな部分はあるけど、彼が凶暴で人に仇名す魔物ではないのは僕だけじゃなく、周りにいる人々も知っている。
「……うぅむ、だとすればだ」
「どうしたの?」
「いやな、ユランの詳しい正体が判明すれば、あやつをおぬしの使い魔にするのもいいと思ってな」
「使い魔……か」
「ああ見えて力もそれなりにあって賢いからな。もちろん、ユランの意思が最優先されるが、そういう選択もあると考えていてくれ」
僕としては彼が使い魔になるのは大歓迎だけど、彼は記憶を失っているからまずはその問題をなんとかしなければならないだろう。
使い魔にするにしても、まずは彼の意思だ。
それを曲げることは絶対に許されない。
「カイト、そろそろ行こ」
「ん? ああ、分かったよ。皆、そろそろ行くよー」
リーファに急かされたことで我に返った僕は、子供達とユランに声をかけながら報酬を受け取りにギルドへと向かうのであった。
●
ギルドで報酬を受け取り、屋台に向かった僕は皆にあまくるみを買ってあげた。
その後に、子供達全員をそれぞれの家へと送り届け、宿へと帰った頃には周囲は暗くなっていた。
「イリスさんは明日冒険者の試験なんですよね?」
「ああ」
僕、リーファ、ライラ、イリスさんの三人と、シフ、ライム、ユランの三体での夕食。
パンを食べているイリスさんに、明日の試験について話しかけると彼女はこくりと頷いてくれる。
「合格しなければ、私は出ていかなくてはならないからな……」
出会った当初と比べて、明るくなった瞳が暗く淀む。
それを察した僕は、すぐさまフォローへと回る。
「いえ、しばらくの間は僕達がお金を出しますよ」
「うん、私も構わないよ」
「……」
僕とリーファがそういうと、イリスさんがやや沈痛な面持ちで胸を押さえる。
ここ数日で何度も見た仕草だが、本人曰く「感動に打ち震えている」らしい。
怪我とか病気ではないらしいけれど……不思議な仕草もあったものだ。
「ざ、罪悪感に負けるな……私……」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ! 少し感極まってだな、ははは……」
ぎこちなく笑ったイリスさんに首を傾げつつ、彼女の隣にいるライラに話しかける。
「ライラ、明日の試験官の人って分かる?」
「ううん。試験官はベテランの冒険者から選ばれるんだけど、人によって対策も立てられちゃうから当日まで明かされないようになっているんだよね」
「僕の時はリックさんだったけど……」
「あの人は特別厳しい人だからねー」
たしかに厳しかったなぁ。
僕もリーファもてんで相手にならなかったし。
「まあ、誰が試験官を務めようとも、私のやるべきことは変わらないさ」
「応援しにいきますからね」
「私も行くよー」
僕とライラに続くようにリーファも手を挙げるが―――、
「いや、君は城で勉強だよ」
「チッ」
下手くそな舌打ちをするリーファ。
抜け目がない、と思っているとまたイリスさんが胸を押さえて呻いている。
「善意に負けるな、イリス……うぅ」
この数日間見てきたけど、やっぱりこの人はちょっと変わった人なのかもしれないな。
イリスに襲い掛かる光の誘惑。




