第百五話 日記
第百五話、日記回となります。
ギルドに迷い込んだデュラハン、ユランの観察日記。
やっぱり監視しろと言われたからには、僕もユランのことをよく知らなくてはならないので、これを書くことにする。
一日に起こったこと。
身の回りで起こったことをできるだけ書き記すようにするので、もしかしたらユランとは関係のないことを書いてしまうかもしれないけれど、それはまあ気にすることでもないだろう。
とりあえず、最初の一日目から書いていこう。
一日目。
今日はイリスさん、ライラ、使い魔たちとユランと共にギルドで話をした。
内容は次の冒険者試験の日程についてだ。
僕の時は三週間ほどの時間はあったけれど、イリスさんが受けるという冒険者の試験は十日後だという。
さすがに次の機会にしたほうがいいと思ったけれど、イリスさんはこのまま受けるつもりのようだ。
僕としては心配だけれど、しばらくは下手に口を出さずに見守っていこうと思った。
次に話したのはユランについてだ。
むしろ、この観察日記にとってはここからが本題なんだけれど、ユランが僕の依頼に同行してもいいかと許可を求めてみたところ、簡単には許可できないと言われてしまった。
ギルドは信頼により成り立つ組織。
そこに所属する冒険者が野良の魔物を依頼に連れていくことは難しいらしい。
その時点で、ユランと共に依頼を受けることを諦めかけていた僕だけど、まだ話は終わってなく別の案を受付の方に出された。
それは依頼人からではなく、ギルドから出される依頼を受けること。
ヘンディル王国の都市内には公的な施設や場所などがあって、その関係の依頼ならユランを連れて受けることができるらしい。
ボランティアに近いものなので報酬は安いけれど、これでユランが危険な魔物ではないと認められれば、普通の依頼も受けられるということなので、頑張らなければならない。
作業は明日の朝から、公園広場の掃除と草むしりだ!
二日目
街の真ん中から外れた、それなりに人が通る公園広場がギルドに掃除を依頼された場所……なのだけど、想像以上に手入れが行き届いてなくてビックリした。
人が通る通路は最低限掃除されているけど、それ以外は草とゴミだらけだし、噴水らしき場所は濁って目も当てられないことになっていた。
これ以上、公園広場の惨状を書き記すのはやめておこう……。
まさかギルドからのボランティア依頼を受けたのが僕達だけだなんて思いもしなかったぜ……。
おかげで、僕とユランと使い魔たちだけで、どでかい公園広場を掃除するシュールな光景を作り出してしまった。
ユランは真面目にゴミを拾ってくれたりしてた。
一度説明したことはちゃんとやってくれるし、すごく賢い子なんだと思った。
でも……遠目でこちらを伺っている子供達がちょっと気になったな。
三日目
今日はリーファが城の勉強が休みというので、公園の依頼の手伝いにきてくれた。
こころなしか生き生きとした様子で掃除をしている彼女を見て、やっぱり体を動かしている方が性に合うんだろうなと思った。
そしていつのまにかユランの周りには昨日いた子供達が集まっていた。
鎧姿のユランが草むしりしている姿に興味を持ったのか、その子たちもユランを真似するように同じことをし始めた。
なぜか意図せず手伝いさんが増えてしまった。
四日目
今日はいやに周囲の視線を感じる日だった。
メルさん曰く、報酬の少ないギルドの依頼を率先して受ける人がいないためか、僕たちが公園広場を掃除をしている姿は珍しいらしい。
それに、この広場を通る人々はだいたい同じなので、三日も掃除をしていれば普通に挨拶されるくらいに馴染んでしまっていた。
今日は通路沿いに転がっているゴミ拾いだ。
綺麗な石を見つけたユランと子供達が、喜びながら僕の元にそれを見せてきたのが微笑ましかったな。
とりあえず、今日のギルドからの報酬で子供達とユラン、使い魔達にあまくるみを買った。
今日の報酬をほぼ使い切っちゃったけど後悔はない。
五日目
なぜか掃除をする人が増えた。
しかも、ギルドの冒険者じゃなく近所に住んでいる人達だ。
近所の住人の方々は汚れる一方だった公園に思うところもあったらしく、僕達が一人と一騎と二匹で掃除しているのを見て、手伝いに来てくれたらしい。
いや、ありがたいけど……本当にありがたいけれど、僕が“公園広場のお掃除テイマー”って呼ばれているのは、どういうことなの?
六日目
いつの間にか人が増えて、数十人規模で公園広場の掃除をしていた。
いつの間にか、僕の使い魔たちがマスコット枠になっていた。
いつの間にか僕が掃除を手伝ってくれている人々のリーダーとして皆を率いていた。
頭を抱えるしかない。
なんでこうなったの……?
シフは「人を率いる才があるのだな!」といってくれていたけど、あまり嬉しくない。
様子を見に来てくれたライラとイリスさんの唖然とした表情が今でも忘れられない。
七日目
なんかボランティア日記みたいになっているから、今日はユランのことを書こう。
僕が見た限り、ユランの記憶が戻っている様子はない。
相変わらず兜と胴体の鎧の隙間から、ご飯を食べている。
……さっきユランの部屋を訪ねてみた時、ちょっと不思議なことがあった。
別に姿がどこにもなかったとかじゃなくて、明かりをつけていない暗い部屋の中で、ユランは静かにベッドの上に座っていた。
部屋に入って声をかけた僕に反応もせず、こと切れた人形のようにただ座っている。
それにだんだんと怖くなっていると、部屋のどこかでカサカサと何かが這うような音が聞こえた後に、ハッとした様子でユランが動き出した。
正直、気絶しそうなくらい怖かった。
だから今落ち着くために書いているけど、そういえばユランってどう考えても幽霊系の魔物だよね?
八日目
寝不足だけど書く。
ユランを怖がるのはやめよう。
今日、子供達に囲まれている彼を見て、考えを改めた。
例え幽霊系でも、ユランは別だ。
だんだんと綺麗になっていく公園を見ていると、なんというか達成感のようなものがあった。
あと少しで掃除も終わりだ。
名残惜しいけれど、最後の仕上げをしに今日は早く寝よう。
何も考えずにボランティアしていたら、周りの人がどんどん参加してきて大事になった下町のお掃除テイマーカイトでした。




