第百三話
第百話です。
僕達の自己紹介を聞いて、なぜか気絶してしまったイリスさん。
まずイリスさんの様子を確認した僕とリーファは、彼女がまだ疲れがとれていないと判断し、一旦部屋を後にすることにした。
一階の食堂に降りるとメルクさんが夕食の準備をしており、その場にはライラもいたので夕食を食べることにした。
「いやー、今日はお客さんがいっぱいだねー」
「お客さんというより、一人は運び込まれて、もう一人? は監視のために連れてきたようなものですけど」
夕食のステーキを口にしながらライラが上機嫌な様子でそう言葉にする。
多分、純粋に宿の住人が増えたことが嬉しいのだろう。
「でも、まさかカイト君にデュラハンが任されるとはねぇ。デュラハンのことはギルドで、すっごい話題になってたからね」
「ぐ、具体的には?」
「常識外れのテイマー! また波乱を巻き起こす! って感じ。私的にはセラさんかカイト君のどちらかって思ってたけど」
僕とセラさんの二人には絞れてたんだ……。
「ほら、セラさんって真っ当なテイマーだけどちょっと常識外れなところあるし、カイト君は他とは違ったテイマーだけど、常識的なところがあるから」
「そ、そうか……」
でも、まあ話題にはなるだろうなぁ。
セラさんの話を聞く限り、それなりに珍しい魔物らしいし。
「シフ、あのデュラハンのことはどう見る?」
「うむ?」
僕の足元に置かれたお皿の肉を食べているシフが、僕を見上げる。
その隣で別のお皿で食べているライムは、夢中で肉を食べている。
「正直、なんとも言えんな。悪意がないのは確実なんだが……記憶が欠落しているというのがな」
「なにか引っかかる点でも?」
「そこまでではない。ただ……あのデュラハン、少しばかり幼いように思えてな」
「記憶がないからじゃないのか?」
「その可能性もあるが……うーむ」
シフでもよく分からないようだ。
まあ、それはおいおい調べていけばいいか。
セラさんも協力してくれることだし。
「カイト」
「ん、なんだ? リーファ」
「イリスさん、これからどうするんだろうね……」
そう考えていると、対面の席で食べているリーファが口を開いた。
いつの間にか三杯目のお代わりに突入していることに戦慄しながら、今は二階で眠っているイリスさんのことを考える。
「多分、この国じゃ行く当てもないんだろうな。お金もないだろうし……」
「え、そうなの? 行き倒れてたって聞いてたけど、そこまで深刻だったんだ」
イリスさんの現状を知り、驚くライラ。
「できる限り、僕達も助けたい……けれど、まずはイリスさんが目を覚ましてからだな」
「そう、だね。最初にイリスさんの話を聞かなきゃ。姉さんのことも……」
もしかしたら、魔王軍に関わっているかもしれないから。
ライラとメルクさんがいる手前、口には出さなかったが、彼女の言いたいことは分かっていた。
「———ん?」
「どうした? 口元にソースついてるぞ」
「むぐぐ……カイト、後ろ」
手元の布で口元を拭ったリーファは、通路のある食堂の外を指さす。
そちらへ振り返ると、そこには遠慮するように食堂を覗き込む鎧姿の人影がいた。
「……デュラハン?」
「!?」
いや、なんで驚くの?
『ば、ばれた!?』と言わんばかりのリアクションをとるデュラハン。
気になって下に降りてきちゃったのかな? 慌てふためくデュラハンに苦笑した僕は、自分の隣の椅子を引きながら手招きをする。
「!」
がしゃがしゃと足音を響かせながら、僕の隣の席にやってきたデュラハンはやや遠慮気味に座る。
その様子を見ていたライラとリーファは、目を丸くさせている。
「なんだか……」
「思ってたより違うね……」
たしかにいかつい見た目から想像できない奥ゆかしさだ。
二人の視線に晒されたデュラハンは、気まずそうにしていたが、ふと、僕の前にあるステーキの乗せられたお皿へと目を向ける。
まるで興味を示すかのように兜の奥からガンミしているデュラハンに気付いた僕は、お皿を見せながら話しかけてみる。
「もしかして、食べたいの?」
「え、カイト君。さすがにデュラハンは食べられないと思うよ……?」
「うん、さすがに無理」
「カイト、デュラハンには食べる口が存在しないぞ」
ライラ、リーファ、シフの順番で否定されてしまったが、隣のデュラハンはというと―――、
「でも、すっごいブンブンと首を縦に振っているんだけど……」
「「「嘘ぉ!?」」」
もう勢いで吹っ飛びそうなくらいに首を振るデュラハンに、声を上げて驚く二人。
僕としては半分冗談だったので驚いてしまったけれど、まあ……食べてみたいというのなら……。
「えーっと、どうやって食べさせたらいいのかな?」
「!」
聞いてみると、おもむろに被っている兜をずらしてみせるデュラハン。
ずれた隙間から見えた鎧の中は空洞だ。
そ、そこにいれればいいの?
大丈夫? 足の底に滑り落ちたりしない? 肉の匂いついちゃうかもしれないよ?
戸惑いながらも、フォークに一口サイズに切ったステーキを乗せる。
「ちょっと行儀が悪いけれど、これでいいかな?」
スッと、兜と鎧の隙間に一切れの肉を差し込む。
予想ではそのまま重力に従って落ちるかと思いきや、差し込んだフォークが謎の力により引っ張られる。
「おおう!?」
一瞬の抵抗に驚きながらフォークを引き抜くと、乗せられた肉はきれいさっぱりなくなっていた。
「え? え? す、吸い込まれたけど、食べれたの?」
フォーク片手に困惑していると、ガシャン、と兜をかぶりなおしたデュラハンがこくこくと頷く。
その挙動はどこか嬉しそうだ。
ど、どうやって食べたのかは分からないけれど、美味しく食べてくれたみたいだし……魔物の身体って不思議だぁ。
「ふ、不思議な生態だな。デュラハンの捕食はよく分からんぞ……」
「へぇ、頭じゃなくて胴体で食べるんだね……」
これから、デュラハンの分のご飯も用意するべきなのかな?
試しにそう訊いてみると、首を横に振られたあとに「少しで良い」的なジェスチャーをしてくれたので、それほど多くはいらないようだ。
こんな大きな鎧であれだけの食べ物で十分だなんて、つくづく謎の多い魔物だなぁ、デュラハンって。
この鎧は胴体でものを食べます。
兜に中身はありません。
胴体に人の身体も遺体などもありません。
でも、食べれます。




