第百話
閑話なしでの百話目。
やっぱり、早いなぁと思ってしまいます。
ギルドで受けた依頼で大工さんのキタンさんの仕事を手伝うことになった僕は、最初に指示された木材運びをしたあとに、キタンさんの仕事のアシスタント……みたいな作業を手伝うことになった。
本当はしっかりと経験と知識を積んだ職人にしか任せられない仕事らしいのだが、今日に限っては手が足りず、時間もないという理由から僕がすることになってしまった。
「ものづくりを趣味にする人の気持ちが分かったような気がする」
「人の手により、形になっていくもの。うむうむ、まさしくそれも人が生み出した叡智の一つと言えよう」
午前から午後、だいたい空が茜色になるほどまで手伝いをした僕は、いただいた報酬を腰のポーチに詰めながらギルドへと向かっていた。
元の世界では、なにかを作るって経験をしたことが美術の授業でしかなかったから、いざそれを近くで見てみると、すごく“いいな”って思えた。
「筋がいいって言ってくれたのは嬉しかったなぁ」
やっぱり色々な経験や交流ができるのは、いいな。
勿論、報酬も大事だけれど、こういう人との交流も一つの魅力でもあると思う。
改めてそう思いながら歩いていると、不意に水筒の中にいたライムが僕の手に飛びついてくる。
「キュッ! キュー!」
「ん? どうした? ライム?」
「む? なにやら見て欲しいものがあるようだぞ」
見て欲しいもの?
とりあえず、ライムに頷いてみると、僕の魔力を少しだけ吸ってライムが変形する。
最初に、片手で持てる銀色の金槌になると、また別の形に変わっていく。
「金槌に、ノミに……のこぎりか? 形を覚えててくれたのか?」
「キュー!」
しかもノミは、金槌の柄と繋がるようにしている。
やっぱりこの子の学習能力はすごいな……。
これならいつでも日曜大工ができるな……と呑気なことを考えていると、手元ののこぎりが禍々しい形状へと変化する。
柄は長く、のこぎりは鎌のように曲線を描き―――刃のギザギザ部分はホラー映画の怪物がもっていそうな刃物みたいになっている。
「いや、えぐいえぐい、そんな改良しなくていいから」
「キュ!」
「ライム曰く、こっちの方がかっこいいらしい」
「君ちょっとセンスがパンク過ぎない?」
一体、どんな魔物を相手にするための武器なんですかね。
さすがに人の目もあるのですぐに元に戻しながら、ギルドへと到着する。
入り口から入るとすぐに、酒場のある方から僕へと手を振っている人がいることに気付く。
「よっ、カイト」
「お久だねっ! カイト君!」
金髪の青年と、赤い髪の女性。
ヘンディル王国のランク・ゴールドの冒険者のリックさんにセラさんだ。
彼らの姿に気付いた僕は、速足で駆け寄る。
「リックさんに、セラさん! お久しぶりです! 二人ともどうしたんですか?」
「お前が帰ってきたっつーから、待ってたんだよ。こいつも同じだが、席が同じなのは偶然だ」
「当たり前だね。偶然じゃなければ、君と同じテーブルにはつかないさ」
そう言って睨み合う二人を諫めながら、断わりをいれてから同席させてもらう。
「カイト君、ご飯は食べた?」
「いえ、まだですね」
「じゃあ、ここで食べない? 私の奢りだ」
「い、いえ、そんな……」
奢りだと言われ、さすがに遠慮してしまっていると、セラさんの前の席で呆れた表情を浮かべていたリックさんが話しかけてくる。
「あー、遠慮しなくていいぞ。こいつ、ただ後輩に奢るっていう状況をやってみたかっただけだし」
「べ、べべべ、別にそんなことはないし! 適当なこと言うと殴るぞ!」
憧れだったんですね……。
いや、ちょっと分からなくもないけど。
セラさんは冒険者としてもテイマーとしても大先輩なので、恥をかかせるわけにはいかない。
「では、遠慮なくご馳走になります」
「見ろ、リック。こういう気遣いこそが、お前に欠けているものだ」
「気遣われているやつに言われたくねぇよ……」
ため息をつくリックさんに愛想笑いを返しながら、メニューを手に取り、シフとライムと一緒に覗き込む。
むっ、お持ち帰りできるのか。
ならリーファの分も頼んじゃおうかな。
「フィルゲン王国、大変だったみてぇだな」
「……もしかして、僕とリーファがしたこともご存知ですか?」
「あっちの金の冒険者に知り合いがいるもんでな。お前が巨獣との戦いに参加したことは知ってる。……あ、お前とリーファについては明かしてねぇから、そこんところは安心しろ」
そこのところは信用しているから心配はしていない。
リックさんは適当な部分はあるけど、大事なところはしっかりとしているのは分かっているからね。
「セラさんも?」
「そうだね。それなりに依頼をこなしていると、嫌でも知り合いが多くなっちゃうから」
だとしたら、無理に隠す必要もないか。
リーファが勇者だってことも、この二人は知っているんだし。
「いや、もう本ッッ当に大変でした。もう人の迷惑を考えない魔王軍幹部には殺されかけましたし、巨獣にも殺されかけましたし」
「また魔王軍幹部に襲われるとは、お前も運が悪いよな」
いや、本当に運が悪すぎますよね。
しかもベヒモスに襲撃される前に王国の市場で偶然遭遇していたとか、今考えると怖すぎる。
「それで、カイト君。聞きたいことがあるんだけど」
「はい?」
声を潜めたセラさんが話しかけてくる。
「フィーリヘルト、あれ、君に関係することだよね?」
「……」
え、なんで知ってるんですか?
魔物センサーから逃れられない的な……?
動揺を露わにさせないように、冷静に答えるんだ……!
「いや、違いますよぉ?」
「嘘が下手だね。まあ、隠さなくちゃいけないことなのは分かるよ。でも、私の直感の前には無意味さ」
なにそれ怖ぁ。
状況を把握した上で直感で推理されたの……?
「でも、隠したのは正解だよ。バレたら、厄介な連中に狙われることになるからね」
「今まさにそうだけどな」
「うるさい」
茶々をいれてくるリックさんを睨みつけた彼女は咳ばらいをした後に、真剣な面持ちで僕と目を合わせてくる。
「私が聞きたいのはたった一つだけ、触れてみた感じ、どうだった?」
「え?」
「感触を教えて欲しい」
もしかしたらこの人やべー人なのでは?
とっくの昔に僕の中で出ていた結論が再び頭の中で浮上する。
「え、えーと、きらきらしてて、すべすべしてました」
「なるほど」
すみません、こんな抽象的な感想になるほどと言われても、こっちが困るんですけど。
うんうんと頷きながらポケットから手帳を取り出し、何かを記し始めたセラさん。
「それじゃ、カイト君。他に……っ!」
顔を上げた彼女が僕に話しかけようとした―――その瞬間、ぞわりと背後から異質な気配を感じ取る。
背後を振り向けば、ギルドの入り口に異様なほど古びた黒い全身鎧を着た人が立っていた。
「気付いたか?」
「はい」
「あれ、人じゃないね」
ギルド内でも、何人かは気付いているようだ。
さりげなく各々の武器に手をかけ、鎧の人物の様子を伺っている。
「シフ、あれがなんだか分かるか?」
「分からん。だが敵意や悪意はない……ように見える」
……まさか魔王軍の新たな襲撃か?
いつでも動けるようにライムを右手に乗せ、シフに帽子に変形してもらう。
「———」
全身鎧の何者かはギルド内をきょろきょろと見回しながら、ゆっくりと歩を進めていく。
ギルド内の一部が緊張に包まれている中、鎧の人物は―――入り口近くの段差に足を躓き、それはもう勢いよく転んでしまった。
「「「は?」」」
僕も含めて呆気に取られた声を零してしまうが、鎧の人物の兜の部分が勢いよく外れ転がっていくのを見て、さらに驚愕する。
頭がない。
甲冑を外れ、そこにあるはずの生身の頭が、そこにはなかった。
「首無し騎士……?」
セラさんがそう呟くと、魔物と判断された鎧の人に冒険者たちの殺気が送り込まれる。
気づいていなかったギルド内の冒険者たちが騒然とする中、殺気を一身に集めたデュラハンは、あたふたとしながら、ない自分の頭を確かめる。
「———っ!?」
頭がないことに気付きあわあわと手を動かしパニックに陥ったデュラハンだが、床に落ちた兜を探そうとして勢い余ってまた転んでしまう。
なんともいえない様子のデュラハンの姿に、殺気を向けていた冒険者達も気が抜けたように困惑した様子を見せるのだった。
書いてから気づく。
のこぎり武器に黒い帽子……啓蒙高まりそう。
そして、満を持してドジっ子型デュラハンさんの登場です。




