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第九十七話

第九十六話です。

 勇者同士の交流を目的にして赴いた、フィルゲン王国。

 リーファの従者として僕もついてきた先で、元の世界でクラスメートだった女子、チサトとの再会を果たすことになった。

 それから彼女と交流をしながらフィルゲン王国に滞在している最中、魔王軍が目覚めさせた巨獣がフィルゲン王国に向かっていることを知らされた。

 最終的には巨獣ベヒモスを退けることには成功したけれど、問題は残った。

 それは、僕が神龍フィーリヘルトと心を通わせた事実だ。

 この事実はフィルゲン王国の王様であるセルジ様とヘンディル王国の女王ジェシカ様と他の重要な立場にいる人たちしか知らされていない。


「思い返すと、本当に大変だったね。フィルゲン王国」

「そうだなぁ。最初に向かった時は、あんな大事に巻き込まれるなんて思いもしなかったよ」


 ヘンディル王国に向かう帰りの馬車。

 その中でやや疲れたような面持ちのリーファに僕は頷いた。


「うむ、もしかすると私達は魔王軍と見えない縁があるのかもしれんな」

「そんな縁、ごめんだよ」


 シフの言葉に顔を顰める。

 もうデウスとは戦いたくない。

 ほぼ一撃必殺の斧との近接戦闘で何度肝を冷やしたことか。

 魔法の黒煙だってハクロがいなければ厄介極まりない魔法だっただろうし。


「カイトの従者の話の時なんか、結構な騒ぎになってたね」

「ああ……」


 改めてチサトに僕が彼女の従者になると口にした二日後に、招待された謁見の場でその話が話題に上がった。

 内容に関しては、フィルゲン王国とヘンディル王国の勇者共有の従者ということについてだが、当然これには難しい顔をする人もいた。

 まあ、隣国とはいえフィルゲンとヘンディルはそれなりに離れているので、従者の共有というのもそう簡単な話じゃない。

 しかし、それが分かった上でチサトは継続してメルさんを仮の従者とすることを提案した。

 正直、その時のメルさんの表情は忘れられない。


『えええ!? 私、まだメイドに戻れないのですか!?』


 ようやくメイド業に戻れると思い満面の笑顔を浮かべていた彼女が、無表情の後に絶望の表情へと変わる。正直、心の底から申し訳ないです。

 それほどの多くの人達が反対をしなかった理由については僕がフィリと心を通わせたことが関係している。

 神獣と何かしらの意思疎通が取れる可能性のある僕は、良からぬ思想を持つ人々に狙われるかもしれないと判断され、実質的な後ろ盾が必要と判断されたのだ。


「ま、従者に関しては正式に決まってないから、ジェシカ様のお話を聞いてみなくちゃな」

「そうだね。まずは帰ってからだ」


 なにはともあれ、ヘンディル王国に帰れるのだ。

 ベヒモスの騒ぎと怪我のせいで、予定よりも長く滞在してしまったのでヘンディル王国にいた時のことを懐かしく感じてしまう。


「チサト、フィルゲン王国を出る時は見送りにきてくれたけど、少し寂しそうな顔をしてたな」

「うん。でも、また会えるから」


 まあ、隣国だしその気になれば会える距離にいるからな。

 それに何やら、勇者としての活動で意味深なことも聞いたし。


「……勇者招集、か」

「セントレアルで行われる催しって話だな。従者の参加も義務付けられているので、こちらの方も色々と興味深いな」


 シフは他の勇者が見れるというので楽しそうな様子だけど、僕としては不安な部分もある。

 数カ月先を予定された、勇者が集まるイベント。

 正確な人数こそは把握されていないが、相当な数の勇者の名を背負う人たちが集まってくるらしい。


「まあ、それは先のことだ。今は目の前の問題に取り組むべきだろう」

「そう、だね」


 シフの言っている問題とは僕の身体のことだろう。

 僕自身の意思で肉体強化を発動できるようになってしまったことを、シフに話したらやっぱりというべきか、使用を禁止されてしまった。

 僕としても怖いので使わないつもりだ。


「この力を使い続けると、僕はどうなるんだろうね……」

「分からん。だが、何が起こるか分からない内は使わない方がいいだろう。帰国次第、調べてもらうつもりではあるが……それまでは、肉体強化を使うのは我慢してもらう他ない」


 まあ、危険な依頼とかをギルドで受けなければいいだけだしね。

 当分は地域密着型のお手伝い依頼で生活していこう。

 そう心の中で決めていると、今度はリーファが心配そうな面持ちで話しかけてくる。


「本当に……身体は大丈夫なの?」

「ははは、今は大丈夫だよ。そう、一日に何度も聞かなくても心配はいらないよ」


 一日に五回は同じことを聞いてきているリーファに苦笑しながら手を横に振る。

 しかし、彼女の表情は至極真面目なものだった。


「だって、無理してるでしょ?」

「……」

「分かるよ。だって、今のカイト、前の私とそっくりだもん」


 そっくり、か。

 そうだよね、リーファも自分の魔物としての側面を怖がっていたよな。


「私もカイトと会うまでは自分の魔物としての一面を嫌っていたけど、向き合ってみればこの力は私の一部って分かったの」

「リーファ……」

「カイトの身に何が起こっているか私にも分からないけど、自分の力に負けちゃ駄目」


 リーファの言葉を聞いてから自分の掌を見つめる。

 自分の力に負けない……そうだな、その通りだ。

 デウスを倒した時も、僕は飲み込まれずに自分を保っていられた。僕がしっかりとした意思を持って力を扱えれば、暴走も抑えられるはずだ。


「でも、もしカイトが自分の中の力と向き合えたら……私と一緒だね」

「なぜに嬉しそうな表情……」

「え? そう見える?」

「うん」

「うむ」


 首を傾げたリーファに僕とシフが頷く。

 本人はそう思っていないのだろうけど、ちょっと口元が緩んでいたように見える。


「カイトのことは本当に心配してる。けど、その一方で、やっぱり私と姉さん以外に私と同じような存在って今までいなかったから……カイトがそうなりそうって考えると、私の中の魔物としての私が喜んでいるんだと思う」

「同族を見つける感覚か……」


 僕としては複雑だけどね……。

 本当にどうなってしまうのだろうか?


「あと、カイトが美味しそうに見えてくる」

「え?」


 突然のバイオレンス宣言!?

 すぐに対面の席に座っているリーファから距離をとると、彼女はクスクスと笑みを零した。


「冗談、でも引っかかあぃぃ!?」

「君の場合、本当に噛みついてくるから冗談に思えないんだけど……ッ!」

「おぬしは少し自分の体質のことを理解しろ……!」


 いや、割と今の言葉は心臓に悪いわ。

 したり顔のリーファにビリビリ電気ショックを食らわせた僕は、馬車の窓際に肘をつきながら、窓の外の景色を目に移す。

 この短い間で色々なことが起こった。

 魔王軍が動きだしたり、僕自身の身体に異変が起こったり。

 まるで先の見えない暗闇を歩いている感覚に苛まれながら、僕はただ過ぎ去っていく窓の外の景色を眺め、ただただ考えに没頭するのであった。 


第三章の始まりですね。

土日の更新はお休みなので、次回の更新は月曜となります。


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― 新着の感想 ―
[一言] というか暴走して自我を失い討伐されるか制御するかの2択だとしても、どうなるかわかってる畏怖とどうなるかわからない畏怖は違うからね。
2021/01/27 09:51 退会済み
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