閑話 その後の話 / 忍び寄る魔の手
今回は閑話となります。
分割するのもアレなので、繋げての更新です。
閑話 その後の話
ベヒモスを撃退するために用意された弩弓。
その組み立てと整備のために私は、砦へと向かった。
戦闘力がなく、魔具の知識だけがあるブロンズの冒険者だった私だけれど、自分が生活するフィルゲン王国のためになるのならって思って参加してみたのはいいけれど……ベヒモスとの戦いは私が想像していた以上に怖いものだった。
「はぁぁ……」
第三の砦すらも破壊されて、もうフィルゲン王国は終わりだーっ! って絶望していたら、ベヒモスと水でできた巨人が殴り合いしたり、ありえないくらいに大きいドラゴンが出てきたりして、本当に訳の分からないことが立て続けに起こったりした。
その末に、いつの間にかベヒモスが住処に帰ってて、全てが終わってしまっていた。
「アルカ、どうしたのよ。そんな落ち込んでさ」
「ちょっと……悩みがあってね」
結果としてベヒモスは街に入ることはなかったので、日常はすぐに戻ってきた。
砦の後片付けを終えたノリのいい冒険者がギルドに戻るなり、ベヒモス撃退祝いの酒盛りだー! とか叫び出して、お祭りじみたことが始まってしまったけれど、自分だけは素面のまま頭を抱えていた。
「あ、もしかしてあのすごい力の子のこと?」
「……」
同僚の女冒険者、シィルの言葉に肩を震わせてしまう。
そう、今まさに私が頭を抱えているのはベヒモス襲撃の際に知り合った少年、アリハラ・カイトのことなんだ。
アリハラ・カイトといえば、勇者様が探していた異世界人だって話だ。
しかも、それが隣国のヘンディル王国の勇者の従者で、その上で勇者と一緒にいた黒髪の獣人の可愛い子がヘンディルの勇者だって?
この割と国家機密なことを、なぜにどうしてブロンズ冒険者の私が知ってしまったのだろうか。
「いやぁ、あの時はびっくりしたよー。4人がかりで持つ杭を一人で軽々と持って。その後は魔王軍の兵士達に連れ去られたって聞いたけど、結局は無事だったんでしょ?」
「そ、そうらしいね」
むしろあの状況から普通に生還したって事実が普通じゃない気がする。
私から見たら、彼の首に縄が思いっきりかけられていたから……。
「あれで、従者様じゃないって驚きよねー」
「……ねぇ、シィル。あんた口は堅い方?」
「ん? まあ、口が軽かったらそもそも冒険者は務まらないし、堅い方だと思うよ」
駄目だ。
この秘密を私だけで抱えるのは辛い。
せめて、信頼する友人に相談相手になってもらおう。
ただし勇者とかについては話さないでおくけども!
「その、さっき言ってた人の本名さ……えーと」
「なによ、もったいぶらないでよ」
「……ちょっと、耳貸して」
襟を引き寄せ、誰にも聞こえないように彼の名を教える。
数秒ほど固まった彼女は、手に持ったジョッキを落としそうな勢いで思い切り後ずさった。
「ええええええ!?」
「ちょ、シィル!?」
思いっきり驚きの声を上げる彼女を諫めるが、突然の大声にギルドの視線が私達へと集まる。
すぐさま、なんでもないと手を横に振って席に座りなおすと、ギルド内には元の賑やかさが戻る。
「……ふぅ、危なかった」
「ちょっと、どういうことよ! あの子の名前がアリハラ・カイトって……ほ、本物だったの?」
「だから、こんなに頭を抱えていたんだよ……」
「た、たしかに勇者様と仲良くしてたし……」
そう、考えれば考えるほど彼が偽物という可能性が低いのだ。
何よりあの基本的に、誰にでも冷たい印象の勇者様が、心を許している時点でやばい。
そしてなによりやばいのが―――、
「あ、でも、アルカって前に酔っぱらった勢いで……」
「そうなんだよぉぉぉ! あたいとか、すっごい変な呼び方で参加しちゃってんだよぉぉ!」
悪ノリでアリハラ・カイトの本人を見つける催しに入り込んだ私は、まさかまさかのそのままの姿でアリハラ・カイトを名乗ってしまったのだ。
本人は知らないのは分かっている。
だけど、罪悪感というか、羞恥心のようなものが私を苛んでいくのだ。
「あの子、普通にいい子だったから余計に罪悪感がすごいんだよ……」
「でも、彼がそうとはねぇ。聞いた話だと、まだ冒険者になってから三ヵ月しか経ってないんだって?」
「……らしいね」
初めて会った時も凄まじい身体能力でゴブリンを蹴散らしていたけど、あれはブロンズの動きじゃなかった。
「やっぱり、私達みたいな冒険者とは違うのかしらね?」
「テイマーみたいだったけれど、そもそもの戦い方が違うみたいだからなぁ」
私達のようなブロンズの冒険者は、戦闘とは別の技術的な方面に秀でているものもいる。
私の場合は、魔具関係。
一般家庭にある魔具の修理や点検などをして、依頼を解決させるのが主な仕事だ。
「もう一度会うことがあったら、お礼を言いたいな……」
私はカイトに何度も命を救われた。
せめて、感謝の言葉を伝えたかったけれど、彼の居場所はなぜか分からない。
何度目か分からないため息をついていると、シィルが私の背を強く叩いてきた。
「っ、なにすんだ! 痛いよ!?」
「いや、どことなく浮いたオーラを感じたから……」
「理不尽すぎるだろ! どういう理由だよ!」
そもそも浮いたオーラってなんだよ。
もう、シィルのせいで悩んでいるのがバカらしくなってきた。
生きているなら、またいつか会えるだろう。
その時にお礼とか、他の言いたいことを話そう。
閑話 迫る魔の手
長い眠りについていた。
とても、永い……眠りの中で私は、ずっと来るべき目覚めの時を待っていた。
ようやく目覚めることができた時、私の前には、私が導くべき適合者様がいるはず―――だった。
しかし、想像とは違って瞳を開けた私の前には古ぼけた遺跡と化した神殿と―――血の染みついた布切れが置いてあるだけだった。
他には、神殿の守りと適合者様の保護を頼んだ私の力の断片が形となった三つ首の大蛇しかいない。
―――私の、適合者様はどこだ?
そう訊くと大蛇は口の端で噛んでいた血のついた布の断片を見せてくる。
間違いなく、それは失われし純魔の血。
人間共が根絶やしにしようとした魔力の証。
―――だが、その血の持ち主はどこだ。
大蛇の答えに私は激怒した。
純魔の魔力に引き寄せられて、食らおうとした?
危うく殺しかけた?
私は、怒りのままに三つ首の大蛇を痛めつけた。
収まらない怒りに狂いそうになるが、それと同時に言い知れぬ喜びもあった。
目覚めた適合者様は、眼前の愚かな大蛇から逃げ切った。
その事実は紛れもなく、適合者様が適合者様足りえる成果とも言えるからだ。
―――……っ。
私は、手に持った血の付いた布を口に含む。
血に含まれた僅かな魔力の残滓が、一瞬にして私の身体に巡る。
懐かしい、金の純魔の魔力。
この世界で失われた純粋で、淀みのない力。
適合者様の血を取り込み、繋がりは得た。
あとは、適合者様と私の意思が繋がるのをただひたすらに待つしかない。
●
その繋がりを意識したその時、私は自身の視界を通して見ている者の心に触れた。
温かく、優しさに溢れた魂。
その中に荒々しい側面も見られるが、それでも暖かな魂の光は陰りを見せなかった。
「適合者様、私の、私の名は―――」
ようやく、ようやく適合者様との繋がりを得ることができた!
これで私も、私達の悲願を叶えることができる!
喜びの感情のままに、私は自身の名を口にしようとしたその時、不意に適合者様との繋がりが途切れてしまう。
さきほどの温かさも、なにも感じない。
感じるのは自身の身体の冷たさだけだった。
「き、られた」
拒絶された。
その事実を私の頭が受け入れようとはしない。
あの愚図をいたぶるところを見られたのか?
「いや、違う」
無理やり繋がりを断ち切られた。
他の第三者の手によって、無理やりに。
考えられる可能性は一つしかない。
あの龍の仕業だ。
奴はとことん、適合者様を私に近づけさせたくはないようだ。
「ふざけるなよ……」
怒りのあまり、噴水を覗き込むために支えにしている大理石を素手で砕く。
私達は長い時間を待っていたんだ。
失われた純魔の使い手の出現を。
それを、こんな形で終わりにさせていいわけがない。
「……まずは、あの方を知ることから始めよう」
自身の右腕に左手を添え、そのまま力任せに引きちぎる。
千切れた右腕を即座に再生させながら、左手にある千切った右腕を宙へと放り投げる。
それは黒い煙に包まれると、右腕の形から別のものへと形を変えていく。
「静かに、気付かれないようにことを進めろ」
あの龍に気取られては終わりだ。
ゆっくりと、着実に事を進める。
「私から切り離したお前も、また私だ」
「———」
切り離した右腕が小さな蛇に変わる。
私の力の断片。
あの役立たずの大蛇にすらも劣る力しかもっていないが、あの龍にも気づかれることはない。
「く、ふふふ」
今のうちに能天気な顔を晒しているがいい。
必ず、奪われたものは取り返す。
最後に笑うのは、この私だ。
改めて、純魔関係の設定がかなりえぐいことになっていることを再確認。
とりあえず、人間にとって都合の悪い歴史は改ざんするに限りますね(ゲス)




