よし、これで全部揃ったね
二人はショッピングモールの中を歩く。この間来た時と同じように、キョロキョロと辺りを見回した。
その中で、リタは服屋が並んでいる一角で立ち止まった。じーっと店の外から並んでいる服を見つめる。その視線に気づいたフィルは、慌ててリタの目の前で手を振った。
「お、お菓子の家の材料買いに来たんでしょー」
「あ、うん、そうだね」
今度はリタが名残惜しげな顔をしてフィルに引っ張られた。フィルはホッと胸をなでおろす。さすがに一日で二軒も服屋に行くなんて考えられなかったのだ。
階段をおりると、食料品が並ぶフロアだ。この間はリタだけが来たので、フィルは初めて見る雰囲気に目を輝かせた。
「見て、このパンおっきー!」
「買う?」
「いーの?」
リタが頷くと、フィルは自分の顔を隠すほどの大きさのパンを抱えて嬉しそうに笑う。楽しそうで何よりだ、と思ったリタは、商品を入れるカゴを手にとった。
「それ入れていいよ」
「ありがとー」
「じゃ、クッキーの材料探そうか」
リタがそう言って辺りをキョロキョロと見ているうちに、フィルはタタタと走ってどこかへ行ってしまった。振り返った時にはもう遅く、そこにいたはずのフィルの姿はもうない。
「あれ、フィル?」
はあ、とため息をついたリタは、クッキーの材料を探しながらフィルも探す。迷子にはならないとは思うが、一度しか来たことがないところで一人になるのはリタが不安だった。
先に見つかったのはクッキー用の粉だ。数種類の粉が並ぶ棚の前でリタは考える。リタが名前の聞いたことのあるものは二種類あった。きっとどっちかだろう、とヤマを張ったリタは両方を手にとって考える。
「こっちか? うーん、こっちかも……?」
ブツブツと呟くリタの背後を、ふくよかな老婆が通った。彼女は独り言を言うリタを見てくすくすと笑い、トントンと肩を叩いた。
「あ、はい! す、すみません、邪魔でしたね」
「違うの違うの。何を悩んでいるの?」
邪魔だったのか、と商品を棚に上げ戻して立ち去ろうとしたリタを呼び止め、老婆はそう尋ねた。優しい顔で微笑む彼女に、リタは恥ずかしくなる。
「えっと、あの、クッキーを作りたいんですけど、どっちを使うんだったかなーと思いまして」
「あら、クッキー! いいわねえ」
ふふふ、と笑う老婆は、リタが迷っていた片一方を手に取ってリタに渡した。
「こっちを使うのよ。美味しいクッキーが出来るといいわね」
それだけ言うとヒラヒラと手を振って去っていく老婆に、リタは頭を下げる。手に残った商品をカゴに入れたリタの肩を、再び誰かが叩く。
「は、はいっ!」
「どーしたのー?」
「びっくりした、フィルか……」
きょとんとしているフィルの頭を撫で、リタはホッとした。ルールのわからない場所にいると緊張してしまうのだ。
「どこ行ってたの? 迷子になるよ」
「チョコレート探してたのー」
フィルは手に持っていた板状のチョコレートを二枚リタに渡し、ニコニコと笑う。それをリタがカゴに入れると、反対の手も見せた。
「あとこれとーこれもー」
一つは砂糖で出来た木が二本入ったもの、もう一つはカラフルで小さく丸いチョコレートだった。
「木?」
「家の前に立てるー!」
「うん、可愛いと思う」
「こっちはねー、屋根に乗せるー」
そう言ってフィルがカラフルなチョコレート菓子の箱を振ると、カラカラと鳴る。どうもフィルの頭の中ではお菓子の家の構造が固まってきているようだ。
「チョコレートにチョコレート? ま、いいか」
フィルが作りたいと言い出したのだからフィルの好きにさせよう、とリタは頷いてそれもカゴに入れた。
「もう全部買ったー?」
「あとは卵、かな?」
「よーし、探してくるー!」
フィルは余程このフロアが楽しいのか、再びぴょこぴょこと跳ねて行く。後ろを追いかけるリタが追いつく前に、フィルはUターンして戻ってきた。
「あったー!」
ポイっとカゴに卵を入れて、満足そうに胸を張るフィル。一度来たリタよりこの空間を把握しているようだった。
「よし、これで全部揃ったね。じゃあお金払って帰ろうか」
「そーしましょー!」
どっちだっけ、と辺りを見回したリタの目に、見たことのあるような少年の後ろ姿が映った。誰だっけ、と考えていると、タイミングよく彼がリタの方を見た。イアンだ。一緒に買い物をしているのだろう、白衣に眼鏡の男性と笑顔で話している。
あ、笑うんだ、と思ったリタは、ぺこりと頭をさげた。それに気付いたイアンは表情をこわばらせて頭を下げる。ガバッと頭を上げると、イアンは隣の男性をしゃがませ、リタの方を目線で示しながらこそこそと耳元に話し始めた。何やら二人とも真剣な表情でこちらを見ている。
「なんだろうねー」
「イアンさんにも何かあるんだよ」
「そーかなー」
リタの隣で一連のやり取りを見ていたフィルは眉間にしわを寄せ、いぶかしげな表情で離れたイアンを見つめた。
ショッピングモールを出ると、空がオレンジだった。ふぁあ、と隣であくびをするフィルの頭を優しく撫で、リタは魔法陣を地面に置く。フィルが面倒くさそうな表情でその魔法陣に手をかざそうとした時だった。
「あら、懐かしいもの使ってるのね」
さっき会ったふくよかな老婆が、地面に置いた魔法陣を細い目で見つめている。
「あ、すみません。お店の前で邪魔ですよね」
「いいのいいの。昔はそれ、すごく流行ったのよ」
「はい、聞いたことがあります」
「思い出すわ……」
ふふふ、と彼女は何かを懐かしむように笑って、ハッとした。
「あら、どこかへ行くところだったのよね。邪魔してごめんなさいね」
彼女は再びヒラヒラと手を振って去って行った。何だったのだろう、と首をひねるリタに、すでに手をかざして準備しているフィルが声をかける。
「リター、帰るよー」
「ん、そうだね」
リタがフィルの手に自分の手を重ねると、青い光が二人を包み込んだ。
お菓子の家の材料はこれで揃った。あとは作るだけだ。とリタはこれから出来るお菓子の家に思いを馳せた。




