表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/246

魔王家御用達の家具店です!



「ねー、さっきからおんなじ所ぐるぐるしてないー?」


 疲れた、と目線で伝えるフィルは、地面に座り込んでリタを見上げた。リタは、手に持った地図と周りの建物をしきりに見比べている。


「そ、そんなことないよ! もうつくよ……たぶん」

「さっきも、もーすぐつくって言ってたー」


 ムッと頰を膨らませたままのフィルは、立ち上がる気もないらしい。リタが手元の地図に目を奪われているうちに、膝を抱え込んで丸くなった。


「ほら、次の角を右だよ。

……えっと、いまここだから、次も右?

……あれ、やっぱり今ここ? じゃあ次は右で

……お城が見えるから、右に曲がって……到着!」


 ペラペラと一人で話しながら歩いたリタは、四回右に曲がって元の位置に戻ってくる。その間フィルは一歩も動いておらず、ずっとその場に座り込んでいた。


「ほらー、ぐるぐる回ってるだけじゃーん」


 フィルが自分の後ろを着いてきていたと信じていたので、リタはその言葉に首をかしげる。


「でも着いたよ」

「んー、知ってるー」


 フィルは気づいていた。自分が座り込んでいた目の前が目的の家具屋だったと。そんなこととはつゆ知らず、リタはドアを勢いよく開ける。ドアについたベルが大きく鳴った。


「すみませーん」

「ふぁあ、誰もいないんじゃないのー?」


 リタの迷子に付き合わされたフィルは、店内に並ぶベッドにフラフラと近寄っていく。そのまま倒れ込み、子どものように丸くなった。


「あのー、すみませーん」

「は、はーい! ぅわっと!」


 何かがぶつかる音と同時に現れたのは、リタの目線の高さほどの小さな少女だった。手には前が見えないほどの書類を抱え、展示されている家具にぶつかりながらリタの元へ駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい、ご心配なく!」


 抱えた書類をテーブルに慌てておろし、リタに笑顔を見せる。健康的な褐色の肌が、彼女の元気さを表しているようだ。


「いらっしゃいませ、魔王家御用達の家具店です! 何をお探しですか?」

「これなんですけ——」

「あ、すみません、お客様! ただいま店主が外出中でして……」


 リタが引き換え券を渡そうとすると、少女は慌てて言葉を遮った。明るい笑顔から一転、申し訳なさそうな顔で頭をさげる。


「あの、注文していたベッドを受け取りに来たんですけど……また今度の方がいいですか?」

「そうでしたか! いえ、すぐに確認してまいります!」


 少女は再び明るい顔になり、バタバタと奥へ戻っていった。奥から何かが落ちる音がして、リタは苦笑いをした。


「あのー、この券はいらないんですか?」


 リタが店の奥に問いかけると、少女が何かにぶつかりながら飛び出してくる。


「すみません、お客様! これがないとわかりませんでした!」

「あ、いえ……お気をつけて」


 リタの引き換え券を受け取り、再び店の奥へ。奥から聞こえる音に心配になったリタは、できるだけ聞かないように、と店内のフィルに目を向けた。フィルは脱いだ靴を丁寧に並べ、大きなベッドの真ん中に丸まっている。


「フィル、売り物で寝ちゃだめだよ」

「んー、このベッドふかふかできもちいー」


 きゃっきゃと笑い、フィルは体を弾ませる。


「お待たせいたしました! ご注文のベッドは奥にご用意しております!」


 なぜか汗だくな少女は、再び書類を抱えて戻ってきた。リタを店の奥へ案内し、そこに並んでいるベッドの一つを指差した。


「こちらで間違いないでしょうか?」

「えっと、はい、たぶん?」

「ふむふむ、お支払いは済んでいますね……」


 手元の書類をめくり、少女は頷く。

 一方のリタは、少女が指差したベッドに驚いていた。大きさは今の物の一点五倍ほど。脚とヘッドボードに細かい彫刻が施され、すごく高そうなのだ。


「では、配達だけでしたら私が承ります! ご自宅はどちらですか?」


 少女の問いに、リタは口をつぐんだ。両親がどこまで話しているのかもわからない。"どこへでも届けます!"とは書いてあったが、国外も含まれるのだろうか。


「あの、お客様?」

「すみません、話すと長くなるんですが……この国の外に宅配して頂くことは可能ですか?」

「えっと、えーっと……あのー、向こうにお住まいなんですか?」


 口ごもりながらも、少女はそう尋ねた。リタはこくんと無言で頷く。やっぱり無理なのだろうか、それならどうやって持って帰ろう、と頭をぐるぐるしていたリタに、少女は腕を組んで考えだした。


「あー、うーん……えーっとー、だ、大丈夫です! お任せください!」


 少女はそう言ってドンと胸を叩き、咳き込んだ。クレアさんなら何とかしてくれるだろう、と頭の中で適当な結論をつけていたリタは、少女の返事に一拍遅れて反応した。


「……本当ですか?」

「げほっ、け、経験はありませんが、大丈夫かと!」


 けほけほ、と苦しそうに咳をした後、得意げに胸を張る。


「では、少々お待ちください!」


 そう言った少女はベッドに手をかざし、目を閉じて眉間にしわを寄せた。すると一瞬でポンッと、ベッドは小さくなる。


「わ、すごい」

「えへへ、あ、いや、ありがとうございます!」


 おもちゃのようになってしまったベッドを手のひらに乗せ、少女は照れて笑った。なんて便利な魔法、とリタが感心していると、少女は申し訳なさそうな顔になる。


「えーっと、お客様、配達の魔法陣のことなんですけど……」


 そう言いながら、手元の大量の書類をカバンに詰め、小さくなったベッドを手早くラッピングする。そのラッピングは必要なのだろうか、と疑問に思っているリタに、少女は言葉を続ける。


「目的地の地図もありませんし、少しだけお手伝いして頂けないでしょうか?」


 可愛くラッピングされたベッドを丁寧にカバンに入れ、少女はそう言った。


「フィル、起きて手伝って」


 店内でまだ寝ているフィルに、リタは声をかける。しばらく待つと、パタパタと歩いてくる音が聞こえた。


「んー、なーにー」

「わ、すみませんお客様! 私が魔法陣を描きますので、ご自宅を想像しながら私の手首を握っておいてください!」

「はいはーい」


 ふあ、と大きなあくびをしたフィルは、言われた通りに少女の手首を握る。きっと外に出てから、という意味だったのだろうが、フィルは店内から握っていた。

 少女は歩きづらそうに外に出て、店前の札を"おーぷん"から"くろーず"に変えた。そのまま店前にしゃがんで魔法陣を描きだす。さらさらと、時には考え込みながら魔法陣は完成した。


「はい、完成です!」


 少女は誇らしげに立ち上がる。フィルは未だに手首を握ったままだ。


「では、出発します! 目はつぶってくださいね!」


 その掛け声に、リタも今度は目をしっかりつぶる。魔法陣は青く輝き、三人を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ