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おたんじょうびおめでとう、リタ



 パタン、と扉を閉めて、フィルをベッドに寝かせる。リタは備え付けられた机に抱えたプレゼントを置いて、フィルの靴を脱がせるとベッド脇に揃えた。フィルはスヤスヤと寝息を立てている。

 リタはプレゼントに目をやる。一番上に乗っているのはフィルから貰った魔法陣九枚だ。そのうちの一枚を手に取って、眺めた。きっと九枚も描くのは大変だっただろうな、とリタは笑顔になった。三匹の魚が泳いでいるその魔法陣の紙を指で撫で、元の位置に戻したリタはベッドへ向かった。


「ありがとうね」


 そう呟いて、指先で優しく髪を撫でる。何度も頭を撫でていると、フィルが目を覚ました。


「ごめん、起こした?」


 リタは、眠そうな目を開いたフィルのお腹を規則正しく叩き再び寝かしつけようとする。しかし、フィルは目をこすって体を起こした。ふぁ、と大きくあくびをして、キョロキョロと部屋の中を見回す。そのまま、眠そうに口を開いた。


「……まだ、きょー?」

「うーん、どうだろう」

「……来てー」


 窓の外を見て首を傾げたリタの手を掴み、ベッドからぴょんとおりる。そのまま何も言わずにグイグイと手を引いて部屋の扉を開いた。


「ねえ、どこ行くの?」

「ちょっとー」


 ペタペタ、とフィルが裸足で歩く音が夜の廊下に響く。


「あれ、こっちだっけー?」


 リタの手を引くフィルは、薄暗い廊下を自信なさげに歩いていく。広い城の中、普段からあまり使われていないのか、フィルは徐々に暗い方へ進んでいった。理由の分からないリタは、引かれるがままに歩く。


「あー、ここだー」


 数分歩いてフィルが立ち止まったのは、一つの部屋の前だった。廊下の行き止まりにある、小さな部屋。フィルはゆっくりとその扉を開けて、暗い部屋の中に駆けて行く。窓から入る月の明かりがフィルの髪をキラキラ輝かせている。暗さに目の慣れないリタだったが、後ろ手に扉を閉めて部屋に入った。


「リター、お誕生日おめでとー」


 フィルは弾けるような明るい声でそう言って、暗闇で不安そうなリタに勢いよく抱きついた。ぎゅっと抱きしめて、パッと離れる。その後、手に持った一枚の紙をリタの胸元に押し付けた。


「わ、さっき貰ったよ?」

「んーん、読んで」


 十枚目の魔法陣は、フィルが最後に完成させたものだった。リタは窓に近寄って、月の明かりでそこに書かれた文字を読む。


おたんじょうびおめでとう、リタ

生まれるなんてめんどうくさいと思ってたけど、リタのおかげで楽しいよ

だいすき

フィルより


 お世辞にも整っているとは言えない、癖のある丸い字が紙の上を跳ねるように並んでいる。思ってもいなかったメッセージに熱いものが込み上げたリタは、フィルに勢いよく抱きついた。


「ぅわっ、どーしたのー」

「ありがとう」

「どーいたしましてー」


 きゃっきゃ、と嬉しそうなフィルの頭を撫で、リタは再びその魔法陣を見た。


「フィルの絵、可愛いね」


 窓の下にしゃがみ込んで、リタはそう言う。魔法陣にはメッセージ以外にもイラストが描かれている。


「ほんとー?」

「うん、丁寧に描いてるのがわかるよ」


 リタは魔法陣を掲げ、そこに描かれているイラストを眺めた。

 肩にかかる赤い髪の少女と長い銀髪の少女が、木々の中で微笑んでいる。一方がリタ、もう一方がフィルだ。きっと場所は、帰らずの森だろう。クレヨンで描かれているそのイラストは、温かみのあるものだった。


「そういえばこれ、何の魔法陣なの?」


 イラストを眺めていたリタは、ずっと疑問に思っていたことを口に出す。フィルはあくびをかみ殺して答えた。


「……転移よー……いつでも、こっちに来れるよーに」

「そっか、ありがとう」


 リタが頭を撫でると、フィルは頭を肩に乗せて大きくあくびをした。そろそろベッドに戻ろう、とリタはフィルの肩を揺らす。


「ここで寝ちゃ駄目だよ、フィル」

「……ねー」

「なに?」


 とろん、とした目をゆっくりと開き、フィルは薄く微笑んだ。


「……背負ってー」


 フィルはリタの方に手を伸ばしてそうねだる。それはパーティの途中、リタが喋った出会った時の話の中に出てきたフィルの台詞だった。少し考えた後、リタは笑って頷いた。


「ん、いいよ」


 あの時は断ったけど、きっともう大丈夫。ちょーっと、あのぼよよんが心配だけど。

 しゃがんだリタに、フィルが覆いかぶさる。よいしょ、と立ち上がったリタは少しふらついたが、姿勢を正して歩き出した。


「ふふふ」

「どうしたの?」

「んーん、なんでもなーい」


 リタの背中でフィルは笑う。初めて会った時は断られたのに、今はこうしておぶってもらえている。その事実が嬉しいのか、フィルはクスクスと笑った。




「おやすみ」


  元の部屋に戻る途中で寝息を立て始めてしまったフィルをベッドにおろして、リタはそう呟く。貰った魔法陣を机に乗せ、リタもベッドに入った。ふにゃふにゃと寝言を言っているフィルの頰をつんとつついて髪を撫でる。へらりと笑ったフィルを見て、リタは目を閉じた。


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