リタがフィルって付けてくれたのー
「いや、待て。君はフィルじゃないのか? 初めて会ったときだってそう名乗ったよな?」
ケラケラと笑っていたクレアは、ふと真顔に戻ってそう尋ねた。
「フィルだよー?」
「今の話だとFなんとかって言ってなかったか?」
「えっとー……あ、えふいちいち?」
フィルは少しの間考えてそう答える。初めて出会った時も自分の名前なのに考えていたな、とリタは思った。クレアはその返事にこくりと頷く。
「本当はえふいちいちなんだけどねー、リタがフィルって付けてくれたのー」
にっこりと嬉しそうな顔でリタの方を見てそう言うフィル。その笑顔にリタは照れた表情で口を開いた。
「F-11ってどうも覚えられなくて、フィルに書いてもらったんです。そのフィルの書いた字が、Filに見えたので……」
リタはそう言ってテーブルに指でF11と書いてみせる。それを見たクレアも真似をしてテーブルに指を滑らせ、納得したように頷いた。
「あぁ、だからフィルなのか」
「いいでしょー!」
フィルは得意げに胸を張る。
「クレアもリタに名前付けてもらうー?」
「いや、ボクにはクレアスターミって立派な名前があるからな!」
そう言ってクレアも負けじと薄い胸を張る。二人のそのよくわからない胸の張り合いが可笑しくなったリタはプッと吹き出した。リタの笑いにつられ、クレアとフィルの二人も笑いだす。
「それにしても、F型の11番かー」
たくさん笑ったクレアは水を一口飲んで感慨深そうにそう言う。フィルはコップに口を付けたまま、こくん、と頷いた。
「その博士はすごかったんだな、11番目にフィルみたいに強力な魔力の人間を作って」
「んーん、わたしの前にM-205ってのがいたよー。だからわたしは、えーっと……205たすー、11……番目!」
フィルは指を折って足し算をしようとしたがすぐに諦めて、フォークを手に取り肉を頬張った。クレアは目を丸くして驚く。
「覚えてるのか?」
「覚えてるっていうかー、頭の中にあるっていうかー」
「あぁ、確か初めて会った時にそう言っていたな。じゃあ、その博士が一番はじめに作った奴のこともわかるか?」
「えー、わかると思うけど考えるのめんどくさーい」
心底面倒くさそうな表情でそう答え、スープの入ったカップに口をつける。一口飲んだところで、ぱあっと顔を明るくしてリタの腕を叩く。
「どうしたの?」
「これ、おいしー!」
フィルはそう言って手に持っていたカップをリタに渡す。私のところにもあるのに、と思いつつも、あまりに嬉しそうなのでリタはそれを受け取った。
リタは赤いスープをスプーンですくって口に運んだ。甘みと酸っぱさの中に、様々な野菜の旨味を感じる。リタにとっても初めての味だった。
「ね、おいしーよね!」
「うん、すごく美味しい。お城の人に作り方を聞こうかな?」
リタは未だ見たことのない城の使用人たちを想像してそう言うと、フィルは嬉しそうに両手をあげた。
「なあフィル。君を作った博士の名前はわかるか?」
二人が話しているあいだ何かを考え込んでいたクレアは、そう言って再び話しかける。フォークで肉を刺し、口に運ぶフィル。もぐもぐ、としばらく無言の時間が流れた。
「えーっと……ダルグス・ディー……かなー」
「ダルグス・ディー? うーん、聞いたことがないな。……君たちはどうだ?」
少し考えたクレアは、サクとイアンの方を向いてそう尋ねた。聞かれた二人は首を横に振る。すぐに食事を再開したサクとは対照的に、イアンはそのまま少しの間考え込んだ。しばらく考えても何も出てこなかったのか、イアンは諦めてカゴに盛られたパンに手を伸ばした。
「ねー、今日の主役はリタだよ?」
フィルは不服そうに頰を膨らませてクレアを見つめる。
「あ、すまんリタ。よーし、じゃあリタの話を聞こうか」
「はいはーい! わたし、リタの小さいときの話聞きたーい!」
椅子が揺れるほどの勢いで手を挙げたフィルを、リタは落ち着かせる。フィルのその勢いに、今まで蚊帳の外だったニーナがドンっと胸を叩いた。
「任せて! 私が話してあげるわ!」
「んー、きくきくー!」
目を輝かせたフィルは椅子に座り直してニーナに目を向け、目の前のパンを手に取る。ニーナはコホン、と咳払いをして話を始めた。
「リタが一歳の時なんだけどね……」
ニーナの話にフィルは目を輝かせて聞き入った。時にはジャグも口を挟み、一つ一つの出来事の詳細が埋まっていく。一方リタは自分も覚えていない昔話に、顔を赤くして耳を塞いでいた。
話が進むにつれテーブルの上の料理は減り、楽しいリタの誕生日パーティは終わりへと向かっていった。




