フィルと出会った日は……
「んー、美味しいです」
普段は食べない肉を頬張り、リタは幸せそうに笑う。リタの誕生日パーティは豪華な料理と共に始まっていた。
「じゃあ、今夜はリタのことを教えてくれるか?」
「私ですか?」
クレアの問いに、リタはキョロキョロと周りを見回して自分を指差した。ニーナとジャグはサクと楽しそうに会話をしている。フィルはリタの隣に座り、笑顔で食事を楽しんでいる。
クレアはリタを指差して笑った。
「君以外に誰がいるんだよ」
「そ、そうですよね。えっと、何を話せば……」
「ボクの知らないことを」
「む、難しいですねぇ……」
クレアは、あまり自分のことを話さないリタのことを知るよい機会だと思った。リタはうーん、と腕を組んで考え込む。そんなに悩ませるつもりはなかったクレアは、苦笑いでリタに尋ねる。
「じゃ、最近一番嬉しかったことは?」
「嬉しかった……うーん」
再び考え込むリタ。クレアは悩んでいるリタを見つめる。しばらく考えたリタは、ハッと顔を上げた。
「フィルと会ったこと……ですかね?」
リタがそう言うと、隣で肉に集中していたフィルが口を挟む。
「わたしがどーしたのー?」
「あ、いや、えっと、最近嬉しかったこと?」
リタの嬉しかったことが自分に会ったことだと理解したフィルは、持っていたフォークを置いてリタの首に抱きつく。
「なんだかそんな気はしていたよ」
温かい目で二人を見つめたクレア。じゃあ、と前置きをして質問を続ける。
「フィルに初めて会った時どう思ったんだ?」
「美人な痴女が寝てると思いました」
そう即答したリタにクレアは一瞬だけ呆気に取られた顔をしたが、吹き出した。
「ぷっ、あははははははは」
「だ、だって全裸だったんですよ!」
「えー、だって生まれたてって皆そうなんじゃないのー?」
「いやあ、そうだけどさぁ」
お腹をかかえて笑うクレアに、サクたち四人もこちらの会話を気にし始める。テーブルをバンバンと叩き笑いがおさまらないクレアに、フィルは不服そうに頰を膨らませた。
ヒィヒィと肩で息をするクレアは、目元に溜まった涙をすくってリタに尋ねる。
「なあなあ、どうしてそんなヤバそうなやつを拾ったんだ?」
口元のニヤつきを押さえながら、クレアはそう言った。
「えっと、どうしてでしょう……?」
「わたしも知りたーい!」
「思い出すのでちょっと待ってくださいね……フィルと出会った日は……」
そう言ってリタは話し出した。
時はリタとフィルが出会った日に戻る。
◇◇◇◇◇
「あ、あの、大丈夫ですか!」
リタの呼びかけに少女——フィルは目をこすり起き上がった。長い髪に隠されていた体は、起き上がった勢いで惜しげもなく披露された。水に濡れた長い銀髪がキラキラと輝いている。
「……もう起きるの……?」
「……起きる?」
この卵の中で眠っていたのか、とリタは自分を納得させてフィルに近寄った。フィルは眠そうに大きなあくびをする。
「ふぁあ、ねむー」
「大丈夫ですか? ケガとかないですか?」
「んー、おやすみー」
気だるげにそういったフィルは再び器の中に体を横たえた。
「あの、私の家がすぐそこなので手当てとか……」
リタがそう呼びかけるも、フィルは目を閉じている。
「あの、起きてください!」
フィルは体勢はそのままに、迷惑そうに目を開く。
「なーにー」
「お名前は? 隣町の方ですか?」
「なまえー? えーっと……えふいちいちー、かなー?」
唇に人さし指を当て、自分の名前なのに深く考え込んだフィルに、リタは首を傾げた。そして彼女の口から出た名前とは思えない単語に、より一層首を傾げる。
「F-11……それがお名前ですか?」
「そーだよー、おやすみー」
手が重いのかのようにゆっくりと手を振って、フィルは再び目を閉じた。
「寝ないでください! とりあえず私の家に行きませんか? このままじゃ風邪ひきますよ?」
水の中に裸のまま横になっているフィルを見て、リタはそう言った。変な卵の中から出てきた、変な名前の彼女。少し危ない少女かと思ったが、リタにはそのまま放っておくことなんてできなかった。
リタは手を差し伸べて促す。
「立てますか?」
「んー」
「あの、立ってもらっていいですか?」
「んー」
「えっと、どうしたんですか?」
「んー」
かろうじて返事はするものの動こうとしないフィルに、リタはため息をついて器の横に座った。卵から出てきた水のせいでお尻が濡れるが、すでに全身ずぶ濡れのリタには気にならなかった。
「あの、さすがにもう置いていきますよ?」
眠ってしまったフィルの横で日が暮れるまで待ったが、しびれを切らしたリタはそう言う。待っている間にリタの服はほとんど乾いてしまった。おーい、とフィルの体を揺らしたリタに伝わったのは、水に浸かったままだったがゆえの体の冷たさだった。
「風邪ひいても知らないですからね!」
そう言ってその場を去ろうとしたリタ。一歩進んでは振り返り、もう一歩進んで振り返り。一向に動こうとしなかったフィルだったが、リタが五歩ほど離れたときに突然体を起こした。そのままそっと立ち上がって、ふらりとよろつく。
「わ、大丈夫ですか?」
よろっとしたフィルに慌てて駆け寄り、支える。フィルはふにゃっとリタに笑いかける。
「ねー、背負ってー」
「え、嫌ですよ……」
「なんでー」
そう言われてリタは目のやり場に困るフィルの体を見た。リタよりほんの少しだけ高い身長、その上ぽにょぽにょした大きな物が二つ、リタには彼女をおんぶして帰れる自信がなかった。
「さ、行きますよ」
リタはフィルの手を引いて家路を急いだ。フィルの手は氷のように冷たく、リタの足は早まった。
◇◇◇◇◇
「そんな感じでしたかね?」
一人で長々と話したリタは水を一口飲んで、クレアを見た。クレアは呆然とした顔でリタとフィルを交互に見てため息を吐く。
「いやー、ボクなら絶対見捨てて帰るな。リタは優しいんだな」
「クレアひどーい!」
フィルは抗議のために向かいのクレアに手を伸ばして叩く振りをした。クレアはそんなフィルの反応に大笑いして、サクになだめられている。イアンはいつも通り、黙々と目の前の料理に手をつけていた。
一方、フィルのことを説明されていないリタの両親は、彼女の話を聞いて頭を混乱させていた。




