みなさん、ありがとうございます!
日が沈み、窓から見える空がオレンジがかってきた。サクは城の使用人達に呼ばれてパーティ会場の飾り付けを手伝っている。
フィルは一人で黙々とリタへの手紙やイラストを書き続ける。フィルの周りには可愛いイラストの描き終わった九枚の紙が散らばっていて、残り一枚だということがわかった。
「フィルー、出来たかー?」
勢いよく開かれた扉からクレアが顔を覗かせる。フィルは手元だけに集中して返す。
「あとちょっとー」
「お腹空いただろ?」
「んー、ちょっと待ってー」
クレアは静かに扉を閉め、フィルの周りに散らばった紙を集めて重ねた。一枚ずつ確認して、にっこりと笑う。すごく上手なわけではないが、温かさを感じるイラストたちだ。
「リタがさあ、そろそろ不審がってるんだよ」
「んー」
「だから早くパーティ始めよ……」
クレアがそう言ってフィルの手元を覗き込んだとき、フィルは勢いよく立ち上がった。
「でっきたー!」
最後の一枚を高く掲げて満足そうに頷く。その一枚にはフィルの字でメッセージが書かれており、クレアはそれを見上げて微笑んだ。
「クレアー、お腹空いたー」
しばらくは完成した余韻に浸っていたフィルだったが、しなしなとしゃがみこんでそう言う。集中力を使ってエネルギーが切れた様子のフィルの頭を優しく叩き、今度はクレアが立ち上がった。
「よし、じゃあいつもの部屋に先に行っていてくれ! ボクがリタを連れていくよ」
「わかったー!」
駆け出して行ったクレアを見送ったあと、フィルは完成した十枚を手に取る。どれも上手く描けた、きっと喜んでくれるはず、と達成感に浸り、一人でニコニコと笑う。しばらく考え、最後に書いた一枚をテーブルに置いてフィルも部屋を出た。
クレアは軽い足取りで自室へ戻る。リタにパーティのことを秘密にし続けるのは思いの外疲れることだった。これからのリタの喜ぶ顔を想像すると、クレアの足取りは無意識にも軽くなった。
「リタ、待たせたな」
部屋ではリタが静かに本を読んでいた。クレアが戻ってくると、パタリと本を閉じる。
「いえ、えっと、フィルは?」
「夕食にしよう、な!」
「あの、フィルは……」
クレアはぐいぐいとリタの手を引く。リタはこちらに来てから会っていないフィルをしきりに心配している。
「フィルは先に行ってるから気にするなって」
「はあ……」
リタは曖昧に頷き、クレアに連れられるがままに歩いた。
「さ、リタが扉を開けるといい」
部屋の前に着くと、クレアは立ち止まってそう言う。どうして、と思ったリタだったが、クレアが笑顔で勧めるので扉に手をかけた。
「リター、おめでとー!」
「うわっ、フィル?」
扉を開けるとすぐにフィルが飛びかかるように抱きついてくる。わけのわからないリタは部屋の中を見渡した。テーブルの上にはたくさんの料理、壁に貼られた花の飾り、星や三角のガーランド、極め付けは大きなバナーだ。"リタ誕生日おめでとう"と書かれた大きなバナーを見て、リタは目を丸くした。
フィルに抱きつかれたままのリタは、周りにいるみんなに目を向けた。
「おめでとう、リタ」
「これ、ママも手伝ったのよー」
「俺も手伝ったぞ! 誕生日おめでとう」
サクとリタの両親は口々にそう言ってリタの頭を撫でる。イアンはサクの隣でいつも通り無表情だ。
「リタ、お誕生日おめでとう!」
最後にクレアが笑顔でそう言った。
ずっと抱きついていたフィルはバッと離れてもじもじとする。後手に何かを隠しているのがリタにはわかった。
「リター、プレゼントー!」
フィルは手に持った魔法陣をぐいっとリタに押し付ける。
「わ、どうしたのこれ」
「えっとねー、魔法陣描いたのー」
照れたように笑ったフィルの頭を撫で、リタは一枚ずつ見ていく。魚、パン、光るキノコ、
など一枚一枚に様々なものが描かれている。わしゃわしゃとフィルの頭を撫でて感謝をするリタだったが、横で見ていたサクは気づいた。
「あれ、十枚じゃ――」
「しーっ!」
フィルは唇に指を当ててサクを見る。リタは不思議そうに首を傾げたが、フィルの頭を撫で続けた。
「よし、私とイアンからはこれだ」
サクは部屋の隅から包みを持ってきて、リタに手渡す。
「わ、ありがとうございます!」
「季節感がないからどうしようかと迷ったんだが、中身はマフラーだ」
サクは苦笑いでそう言ったが、リタの凄く嬉しそうな顔を見てホッと胸を撫で下ろした。まだ少し暑さの残る季節にマフラー。季節を先取りしすぎた感じのするプレゼントだが、リタは楽しげに包みを開いて首に巻いて笑う。
「イアンさんもありがとうございます」
「いえ」
無表情のイアンだが、少し照れたように視線を床に落とした。
今度はクレアが箱を抱きしめてリタの服の袖を引く。
「ボクからはエプロンだ!」
そう言ってリタに箱を渡すと、クレアとリタを交互に見て微笑んだ。
「二人が色違いのエプロンで料理してるのっていいなーってこの前思ったんだ。だから、フィルの分も入ってるぞ!」
「ありがとうございます! フィルにもお料理手伝ってもらいますね」
リタはフィルの方を見て笑う。フィルは不服そうに頰を膨らませたが、サクに頰をつつかれて笑った。
「じゃ、最後に私たちからはこれを」
「……何、これ?」
ニーナが手渡したのは紙切れだった。"どこへでも届けます!"と書かれている。
「この前家に帰ったときに見たんだけど、あなた達あの小さなベッドで二人で寝てるでしょ?」
「あ、うん、えっと、そうだね」
寝ている間に部屋に入ったのか、と不審な顔を見せるリタに、ニーナは気にせずに続ける。
「だからこっちで少し大きなベッドを注文したの。どこへでも届けてくれるって言ってたし」
パチッとウインクをしたニーナと、その通りだと深く頷くジャグ。リタの手元にあるのは、ベッドの引き渡し用のチケットなのだろう。ようやく理解したリタは紙切れと両親を見比べる。
「ありがとう、お母さん」
「毎年大した物もあげられてなかったからね」
「お、俺も選んだぞ!」
「うん。お父さんもありがとう」
ニッと笑うリタを、二人で抱きしめる。幸せそうな家族に、残された四人は見入った。微笑ましい光景だ。
「さ、料理が冷めないうちに食べようか」
パンパンと手を叩いてクレアがそう促す。テーブルに用意された料理はいつだって豪華だが、今日はそれよりも一層特別なようにリタには見えた。
「はい! みなさん、ありがとうございます!」
すでにテーブルに移動しているフィルに後ろから抱きつき、リタは楽しげに笑った。




