美味しそうに食べるなーと思って
「そろそろお腹いっぱいじゃない?」
「んー、そーだねー」
串に刺さった魚をかじりながらフィルが答えた。
フィルは甘い氷の後も、別の屋台で同じような貝を食べ、パリパリに焼いた麺を食べた。
魚なんて村に帰ればいくらでも食べられるのにな、と思いながらも美味しそうに頬張るフィルを眺める。
すると、視線に気付いたのかフィルが不思議そうな顔をする。
「なにー?」
「いや、美味しそうに食べるなーと思って」
「リタも食べる?」
全部食べていいよ、と伝えると目線を魚に戻し、残りを食べることに集中しているようだ。本当に食べるのが好きなんだな。服にもこのくらいの興味を持ってくれればな……とリタは残念に思った。
「食べ終わったら野菜を買いに行くからね」
「ん、わかったー」
魚に集中し切ったフィルは、ちらりともリタを見ずに返事をした。
食べ終わったことを確認し、再びフィルの手を取る。
「やっさいーやっさいー」
お腹がふくれてますます上機嫌になったフィルの足取りは軽い。
スキップをするとまたワンピースの裾がめくれあがる。その白い太ももにすれ違う人々の目線が刺さる。
フィルは気にもしてないんだろうな……と、リタは空いている方の手で裾を押さえてあげた。
「あ、あれ忘れてた!」
八百屋に着く直前フィルは突然立ち止まり、少し離れた屋台を指さす。
指さした先にあったのはこの辺りでは有名なクッキーの屋台だ。大きいのに安く、その上おいしいらしい。
本当に人気があるようで、店の前には短い列ができている。
最初に町に着いたときに感じた甘いにおいの正体はあれだったようだ。
「食べるの?」
「食べたーい!」
でもお腹いっぱい……と語尾を濁し、少ししゅんとしたフィルがなんだか気の毒になり、リタは少し笑ってしまった。
「私も食べたいから買ってきてくれる?
買って帰って明日食べようか」
「いいの!」
顔が一気に明るくなったフィルにお金を少し渡して、いってらっしゃいと背中を押す。
跳ねるように走りだしたフィルが列の一番後ろに並んだことを確認し、リタは八百屋に体を向ける。
「いらっしゃい!」
威勢よく声をかけてくる店員に軽く頭を下げる。
ここの店員はいつ来ても元気だな、とリタは感心した。
たくさん並んだ野菜の中からいつもと変わり映えのしないものを買った。ただ、フィルのためにいつもより少し多めに買うことにした。
「ありがとね!」
去り際も威勢のいい声を聞き、再び頭を軽く下げる。
クッキー屋台の方に目をやると、フィルの番が来るにはもう少し時間がかかりそうだったので辺りの店を見て回ることにした。
八百屋の隣では海の幸を売っている。
二度も貝を食べたがったフィルを思い出し、リタは貝も買うことにした。魚は……まあいらないだろう。
リタの村で獲れるのは川の魚だ。
ここで売っているのは海の魚だけれど、そんなに変わりはないだろう。同じ魚だし。そう思ったリタは何種類かの貝を注文した。
「ありがとうございます」と、貝の入った袋を受けとった時フィルがリタの肩越しにのぞき込んだ。
「うわっ、驚かせないでよ」
「何買ったのー?」
貝だよ、と袋の口を開けて見せる。
「おいしそうだね!
あ、クッキー買えたよー」
そう言って今度はフィルがクッキーの入った箱の口を開ける。
紙の箱にはきれいに10枚の大きいクッキーが並んでいる。
「いっぱい買ったね……」
「ダメだった?」
いいんだよ、とフィルの頭に手を置く。
「さ、帰ろうか!」
「うん! また来ようねー」
「服を着るならね」
ははは、と誤魔化すように笑ったフィルは、リタの手を取って帰り道を歩き出した。




