たんじょーび!?
次の日、いつものようにリタが先に起きた。リタは隣で布団にくるまって幸せそうに目を閉じているフィルの頭を軽く撫でる。長い銀の髪は、朝日に照らされてキラキラと輝いている。そのまま鼻をつつくと、口をモグモグと動かした。
「……むにゃ、リタ……おいしー……」
「ふふ、何それ」
寝言を言うフィルの頭をもう一度撫でて、リタは部屋を出た。彼女の足取りは軽い。跳ねるようにリビングに向かったリタは、頰を緩ませながら朝食を取った。
「……おはよー」
太陽が高く昇ってから起きてきたフィルは目をこすってリビングに入ってくる。
ワンピースのまま寝てしまったフィルの服装はひどい。オフショルダーだったのが悪かったのか、肩口から腕が出ている。裾は左側がめくり上がり、白い太ももがギリギリまで空気に晒されている。
「フィル、服装整えてからベッドから出ようね」
「んー」
ドキッとしたリタだったが、胸に手を当てて落ち着いて言葉を発した。よろよろと歩くとフィルに薄目で近寄って裾を下ろし、袖から腕を通させる。
「パンとジャムしかないんだけど、いい?」
「いーよー」
「じゃあちょっと待ってね」
フィルがきちんと椅子に座ったことを確認して、キッチンに戻る。
「はーい、どうぞ」
「いただきまーす」
パンとジャムをテーブルに置き、リタはミルクを注ぎに戻った。丁寧に手を合わせたフィルは、パンにジャムを乗せる。たっぷりとジャムの乗ったパンをかじると、口の端にジャムが残った。
「フィル、付いてるよ」
ミルクの注がれたカップをテーブルに置いて、リタは笑う。未だ眠たげなフィルは状況が掴めていないのか首を傾げた。
食べ物を目の前にしても眠いなんて、と不思議に思ったリタだったが、フィルの口元に指を近づけジャムを拭う。すると、フィルは勢いよくその指にパクリと噛み付いた。
指先に触れる生温かい感触に、リタは手を引いて驚く。
「なっ、なに!?」
「あまーい」
ニヤッと笑ったフィルに、リタの心臓は再び高鳴る。しかし、フィルがあまりにニヤついているので頭をコツンと叩いた。フィルは頭を押さえて大げさに痛がって笑う。
「もう、落ち着いて食べて。私は食べる物買ってくるね」
「わかったー」
「一緒に行く?」
「行かなーい」
わかってた、と言って笑ったリタは、買い物の準備をする。財布の中身を確認し、まだ少し厳しい日差しのために帽子をかぶった。
「じゃ、食べたお皿はキッチンに移動させておいてね。あと、ジャムは棚に入れて」
「はいー」
ミルクを一口飲み、フィルは手を上げる。わかってるの?とリタはフィルの頭をひとしきり撫で回した。フィルは目を細めて気持ちよさそうに笑う。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃーい」
満足するまで頭を撫でて玄関を出て行くリタに手を振り、フィルは二つ目のパンを手に取った。もしゃっとかじると、玄関が開いて戻ってきたリタが顔を覗かせた。
「服は着替えてね、じゃ」
それだけ言ってリタは再び玄関を閉めた。
二つ目のパンがあと一口となった時、青く光るペンダントがフィルの目の端に入った。フィルは残りを口に放り込み、ペンダントを握る。
「ふぁい?」
『フィル! リタはいるか?』
フィルの頭に、クレアの明るい声が響く。フィルは慌てて口の中のパンをミルクで流し込んだ。
「んーん、リタはお買い物行ってるよー」
『そうか、いないのか……って、ニーナ離れてくれ。近づいても聞こえないぞ』
向こう側にはニーナがいるようだ、とフィルは少し笑顔になる。ニーナにべったりと引っ付かれているクレアが容易に想像できた。
「どうしたのー?」
『ああ、明日がリタの誕生日だからニーナとジャグが……』
クレアの言葉を遮り、フィルは勢いよく椅子から立ち上がる。
「たんじょーび!?」
『あれ、フィルも知らなかったのか? ボクはさっき知ったんだけど』
「知らなかった……」
あからさまに落ち込んだ声色で返事をしたフィルに、クレアは努めて明るい声を出す。
『じゃあ、明日はみんなで盛大にパーティでもするか!』
「パーティ! でも、プレゼント買ってない……」
一瞬は飛び上がって喜んだが、再び目線を落として暗い声になる。プレゼント、リタは何が欲しいのかな。グルグルと回るプレゼント候補。あれも、これも、リタは本当に欲しがるのかな?フィルの頭はそれでいっぱいになった。
『あ、ニーナはそれをリタに聞きたかったらしいんだ』
「うーん……」
聞いているのか聞いていないのか、フィルは曖昧な返事を返す。
『えっと、ボクたち今から買い物に行くんだけど、一緒に行くか?』
「んー」
『行く? じゃあサクを迎えに行かせるからな』
ここまで話を聞いていなかったフィルは、ハッとした。
「あ、いや、わたしお留守番中だからー」
『そうか、わかった。じゃあとりあえずまた明日! たくさん料理を準備しておくからな!』
「んー、またねー」
パーティだと言ったのにそれほど喜んだ様子のなかったフィルを不思議に思いつつも、クレアは通信を切った。頭の中が静まり返ったフィルは、しばらく呆然とその場に立ち尽くす。
「どうしよー……」
リタは何が欲しいのか。もし欲しい物がわかっても自分には買えない。そんな考えがグルグルと頭を回り、おぼつかない足取りでソファに向かう。ボフッとソファに倒れ込み、頭をフル回転させる。
「リタの欲しいものー、っ出てこい!」
そう言って手天井に伸ばしてみるが、何も起こるはずもなくフィルの手は空気を掴むだけだ。考えろ、と思うほどまぶたが重くなり、そのまま目を閉じるとフィルは再び眠りについた。




