わたしたち、一緒だねー
二人にとって長い沈黙が流れる。周りの喧騒が気にならないほど頭を回転させ、二人は息を吸った。リタは指をギュッと組み、フィルはシチューの器から顔を上げる。二人の動作はほぼ同時だった。
「「……あのねっ……」」
黙ったままだった二人の声が重なる。リタがどうしようかとオロオロしていると、フィルはリタに手を向けて先を譲った。
「……リタからどーぞ」
先手になったリタは再び指を組んだりほどいたり、落ち着きがなくなってしまう。パクパクと口を開き、やっとの思いで声を出した。
「あ、え、っと、あの、その、フィルからでいいよ」
その言葉に、フィルはジーっとリタを見つめる。リタは視線を逸らすが、それでもなお見つめる。しばらく見つめ続けると、悲しげな表情で、今から言うことが間違いであれと祈るように恐る恐る話し始めた。
「リタ、わたしのこと嫌いになったの?」
「そんなわけないよ!」
首を振って否定するリタに、声をかぶせるようにフィルは次の言葉を発する。
「じゃあ、なんでさっき避けたの!」
今度は厳しい口調だ。目に力を入れてリタを見つめる。その視線にリタは俯いてしまう。
「そ、それは……」
「わたしはリタのこと好き、なのにぃ……」
フィルは目をうるうるとさせる。俯いたリタはその涙に気付かずに返事を口にする。
「わ、私も……」
「なーにー?」
「私もフィルと……同じ……」
リタがモゴモゴとそう言うと、よく聞こえなかったフィルは首をかしげる。目を潤ませるフィルの表情に、リタは意を決して自分の手を握った。深く吸って、ゆっくりと吐く。もう一度深く吸って、リタはフィルの方を見つめる。
「私もフィルのこと好きだから! なのに、フィルに触られるとピリピリってして苦しいし……」
初めの勢いはどこへやら、尻すぼみになってそう言うリタ。そんな彼女に、フィルは椅子から音をたてて立ち上がる。
「わっ、フィル!?」
そのまま向かいに座ったリタに抱きついた。ギュッと首元に抱きついたフィルに、リタは手のやり場に困り果てる。フィルと触れ合っている部分がカーッと熱くなる。
「わたしも好きー!」
そう言うと、より一層抱きしめる力を強める。リタは、女将がカウンターに肘をついてニヤついているのが見えて、顔が熱くなった。
「ほ、ほら、女将さんが見てるから!」
背中を軽く叩くと、フィルは首だけ動かして女将の方を見る。そして、騒がしい店内に響き渡る大きな声で女将に話しかけた。
「リタ、わたしのこと好きだってー」
店内が再び静まり返って、二人に視線が集まる。満面の笑みで女将に手を振るフィルと、抱きつかれているせいか先ほどの大きな宣言のせいか、真っ赤なリタ。客たちは二人を温かい目で見た後、自分たちの会話に戻った。
注目が集まったせいでより一層赤くなったリタに、女将さんはニヤニヤとして手を振った。
「す、座って!」
「はーい!」
ニヘラ、と笑ってフィルは自分の椅子に戻る。机の下で足をパタパタさせ、体を楽しそうに左右に揺らしている。その動きのままニコニコとした笑顔でリタを見つめ続けた。
「な、何?」
「えー、リタがわたしのこと好きだってー」
フィルは首を傾けて楽しそうに笑う。ほんのりと赤く染まった頬が可愛らしい。
ゆらゆらしていたフィルは何かを思い出したようにハッと体を止める。
「あ、そういえば。わたしもピリピリーじゃないけど、ぽかぽかーってするよー」
わけがわからずに首を傾げたリタに、フィルは言葉を続ける。
「リタに撫でられたときとかー、手繋いでるときとかー。
わたしたち、一緒だねー」
ニコッと笑ってそう言う。
そうか、とリタは思った。フィルも同じだった。そう思うと、リタの激しく鳴っていた心臓は少し落ち着き、ぽかぽかと気持ちのいい温かさに包まれる。
「そっか、一緒だね」
「うんっ!」
力強く頷いたフィルは幸せそうにリタに笑顔を向ける。それに応えるようにリタも笑顔になった。
「ほら、残り食べちゃおう」
「はーい」
二人はスプーンを手に取り、少し冷めてしまったシチューを口に運ぶ。とろみのついたスープは冷めると煮溶けた野菜で少しザラザラする。カゴに盛られたパンはふんわりと柔らかい。
リタもフィルも、黙々と食べ進める。なんだかとってもお腹が空いたのだ。
「リター?」
「ん、なに?」
スプーンをシチューに入れたフィルがリタに呼びかける。
「えへー、なんでもなーい」
フィルは嬉しそうにそう言ってクスクスと笑う。手に持ったスプーンを口に運んでも、楽しそうに肩を揺らしている。リタはフィルの行動の意味がわからないまま食事を続けた。
大きく切られた野菜を口に入れたときだった。
「リター、だいすきー」
ヘラっとした笑顔でそう口にしたフィルに、リタは手に持ったスプーンをテーブルに落とした。コツン、と小さな音が鳴る。
せっかく落ち着いた心臓がドキドキと高鳴り始めたが、リタにはもう苦しい感じはしなかった。ただ心地よく、ふわふわとした高揚感だけを感じた。
「私も!」
ニッと笑ったリタがそう返したことで、今度はフィルが胸を高鳴らせる番になる。ドキドキと激しく打つ心臓の前でギュッと手を握り、フィルは首を傾げた。
——これがリタの言っていたピリピリだろうか、と。




